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パンケーキにはクリームを。クリームにはパンケーキを。

「よろしくお願いしまーす!」
嬉しそうに言いながら私の目の前に座ってきたのは、いかにも占い好きな女性と、こちらも絵に描いたように乗り気じゃない男性。
「はい、こちらこそよろしくお願いしますねー。今日はデートですか?」
こちらは精一杯の営業スマイルで探る目つきを隠してぶち込んでみる。占いに来る同年代の男女は高い確率でカップル。これは偏見ではなく経験則だ。まだ心の準備が出来ていない相手の虚をつくような先制攻撃。漂う空気と反応は様々なことを教えてくれる。脈あり、ワケあり、地雷に傷痕。歯が痛むような甘さから、目を覆いたくなるような現実まで、実にバリエーションに富んでいる。
「やだ!違いますよー!」
女性の方の嬉しそうな反応。脈ありか?
「マッチングアプリ始めたんですけど、なんだかずっとうまくいかなくて視てもらおうって思って。こいつは幼馴染で今日は付き添いですー。」
なるほど、仲が良いように見えるし、お互いを大切に思いつつも、そういうんじゃないというような距離感。姉と弟という感じだろうか。男性の方は何とも言えない顔をしてこちらをじろじろと見ている。探っているのはこちらだけではないということか。
「なるほど、では運命のお相手を探すお手伝いを微力ながら務めさせていただきますね。」
切ってあったタロットカードを端から端へスーッと広げる。彼女の口からは歓声。良い感じ。まずはこちらのペースだ。

選ばれていくカードを慎重に見ていく。カードだけが知ってる未来と言うと大げさではあるのだけれど、私はあくまでもスピーカー。カードの指し示す何かを汲み取ってうまく伝えるメッセンジャーに過ぎない。お客様観察もあくまで言葉選びのための下調べ。私自身の感想や見立ては挟まないように挟まないようにと自分に言い聞かせる。しかし。
「あー、これは…。」
カードよカード、カードさん。そんなド直球に「運命の相手は隣のその男の子だ!行け、行っちゃえ!両想いだし占術的にも最強だぞ!行け!」なんて結果を出さんでください。男性がまだどんな人かも分からないんですよ。
「俺のことは気にせずどうぞ。あくまで付き添いなんで。」
これはどっちだ…?カードさん的には『アリ』でも、男性側に彼女がいるみたいな可能性もあるわけだし…。かと言って、無関係ですなんて言われている状態で、男性側に誕生日を聞くのもまずいし、あなたも1枚選んでくださいとも言えない。

「パ、パンケーキはお好きですか?」
悩んだあげくに口をついて出たのは、雑談と言うにもお粗末な質問だった。言った端から自分にツッコミを入れる。なんだパンケーキって。
「パンケーキ…ですか?いいですよねー!私好きなんですよ、パンケーキ!」
きょとん顔になったときはダメだと思ったけれど、よし、喰いついた!
「あのふわふわが良いですよね。付け合わせは何がお好みですか?」
「やっぱり、ふわふわにはあまあまですよねー!たっぷりのクリームとイチゴジャムが正義ですよ!」
男性の顔が雷でも落とさんとするくらいに曇っていく。いや、私が言うのも何だけどアンタのためなんだからな!
「そうそう、ふわふわのパンケーキには甘いクリーム!それくらい相性が良い相手が近くにいるって出ているんですよ!もう既に同じ皿の上に載ってるってくらいに近く!」
まくし立てる私の言葉に男性がピクリと反応する。どうだ、伝わったか?様子を見ながらカードをもう1枚選んでもらう。ダメだ、カードさんが絶好調すぎる。「早く捕まえて押し倒せ!あるいは押し倒させろ!今日が最良の日だ!」じゃないんだよ!伝えるこっちの身にもなって!

「近くかぁ…。あ、職場の佐藤君かな!サトウだけに!」
違う!そっちじゃない!動揺すんな男性!お前なんだぞ!
「相手はあなたのことを何でも知ってて、背中を任せられる、すべてをゆだねられる人だと出ていますから、もっと近い人なのかもしれないですね。」
笑いながら軌道修正。男性がこっちを見ている。気付いたか?
「んー、何でも知ってて、背中を任せられる…。わかった、サバゲ―仲間の鈴木さんだ!」
お前の交友関係どうなってんの女性ぃぃぃ!男性、しょげんな!「え?サバゲ―なんてやってたの?」じゃねぇ!気をしっかり持ってくれぇぇぇ!

健闘むなしく、終了の時間になってしまった。男性の方と最後に目が合う。
「良かったじゃん、近くにいるって分かって。ほら、次はパンケーキ行くんだろ?置いてくぞ!」
分かってるんだか分かってないんだか、引っ張ろうとする男性。
「ちょっと、先行ってて。」
女性に言われて先に出る男性。がんばれよと思っていると女性がこちらに顔を近づけてくる。
「ね…、あの子ですよね?私のパンケーキ。」
「ど、どうでしょう。またお困りの際はお待ちしております。」
分かっていたとしたら相当だ。女性というのは怖い生き物だなと思い知らされる。見送りながらめくったカードも同意見のようだった。

~FIN~

パンケーキにはクリームを。クリームにはパンケーキを。(2000字)
【One Phrase To Story 企画作品】
コアフレーズ提供:花梛
『カードだけが知ってる未来』
本文執筆:Pawn【P&Q】

~◆~
One Phrase To Storyは、誰かが思い付いたワンフレーズを種として
ストーリーを創りあげる、という企画です。
主に花梛がワンフレーズを作り、Pawnがストーリーにしています。
他の作品はこちらにまとめてあります。

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