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あなたのための円卓会議。

「はい、集合集合。ほら早く早く。」
「いや、集まってるじゃん。主様の手によって正に今まとめられたばっかじゃん。」

占い師である主様の見事な手さばきによって、僕たちはシャッフルされていく。正直、シャッフルの有無とカードの出方、つまり占いの結果は全然関係無い。なぜかと言えば、僕らは好きなときに出ていくし、出ていきたくないときには絶対に出ていかない。そういうものなのだ。何度やり直しても『死神』が出てくるときには相談内容自体を無かったことにするレベルで考え直した方が良い。『魔術師』は頭が良いなんて思っていないだろうか。アイツは珍しいモノが気になるだけ。とにかくいじくり回すのが好きな変人で成功や失敗には無関心だ。「実に面白い。早急に手を出してみると良い。」という彼の囁きには要注意。根拠なんてカケラも無いんだから。とにもかくにも、僕らは面白い話に餓えている。相談話を聞くのをとても楽しみに待っている。

「この目で龍が見たいんだ!」
大きな声がきちんとまとめられた24枚の僕らを揺らす。見上げると主様は頭に疑問符を1ダースほど浮かべて困惑顔。気持ちはよく分かる。僕らも長いこと生きているけれど、こんな相談は聞いたことが無い。居並ぶ全員がぽかんと口を開けている。老若男女、陽キャから陰キャ、脳筋からインテリまで一通り揃っている僕らをこの状態にするなんて、なかなか無いことだ。そして、こんな変な案件が来たときには、アレだ。アレが来る。
「…しっにがみ、しっにがみ」
『星』が楽しそうに手拍子つきのコールで煽り始める。
「しっにがみ、しーにがみっ!」
そう、意味不明案件担当は『死神』だ。歩く終止符の異名は伊達じゃない。こいつが出れば主様も自信を持って考え直せと諭せるというものだ。
「良いんですね?終わらせちゃいますよー?」
骸骨の騎士という見た目に反したうっきうきな声。あまりにもインパクトが強い存在なだけに普段は最終兵器扱い。口を開くと「あ、それじゃとりあえず終わらせましょう。」から始まるので前向き陽キャクラスタからよく怒られている。その彼が満場の声援を受けて、誇らしげに手に持った旗を掲げたまま、跨った馬に合図すると一直線に駆けていく。

「計画の見直しですって!?とんでもない!!」
再び、響く相談主の声。主様はオロオロしているし、先に出た死神は既に心細そうにしている。たまにいるんだよね、終止符打たれても止まらない人。「龍とは何かの喩えで、まだ見ぬ世界や強者への挑戦を求めているのでは、ないか…?」
慎重さ担当の『隠者』が俯いたままでおずおずと口を開く。その言葉に盛り上がるのは『戦車』率いる熱血クラスタの面々。主に運動部系の悩み担当。俺が俺がと逆に揉め始める。
「暑苦しい人無理ー。」
「恋愛要素は無さそうよね。」
「ワンチャン、龍が元カノって線も…ないね、ないない。」
恋愛クラスタの『女教皇』、『女帝』、『恋人』は既にヤル気0といったご様子で髪をいじっている。
「とりあえず、私が出ておけば解決するのであろう?」
成功を司る『太陽』が赤子という見た目に反した太い声で言う。
「それは…先に出た死神と主様がかわいそうすぎますねぇ。」
『節制』がやんわりと嗜めると、沈黙が場を支配する。「じゃぁ、どうすんだよ。」の空気が重たい。
「余が出よう。『愚者』よ、ついて参れ。」
『皇帝』が重々しく立ち上がって僕を指名する。「冒険しろ、行動しろ、さすれば道は開かれん」って方向で行くってことのようだ。
「了解。それじゃ行きましょうか。」
傍らの犬を抱き上げて、僕は皇帝とともにゆっくりと出ていく。

「死神と、愚者、それに皇帝ですねぇ…。」
「どうなんですか、やはりダメですか…?」
主様は僕らを眺めて、しばし考えた後に、ぽつりと一言。
「死神には清算という意味もあります。何かやり残したことがあるのでは?」
「それは…!」
「いえいえ、無理に言わなくても大丈夫ですよ。ただ、もし心当たりがあるのであれば、それを片付けてからの方が良さそうです。」
主様は僕をそっと撫でて続ける。
「愚者はその名前から悪い意味に取られがちですが、自由に冒険せよというメッセージを持っています。そして皇帝がそれを後押ししています。彼は成就、達成を意味しています。」
3枚を横一列に並べ、指差しながら告げる主様はかっこいい。後ろからは残った21枚の歓声と拍手。皆も主様が大好きだから、きっと同じことを思っているんだろう。
「大丈夫…と無責任に言うことは出来ませんが、あなたを後押しする存在はきっといます。諦めずに信じて進んでください。」
相談相手の表情は見る見るうちに晴れていき、お礼を言いながら何度も頭を下げている。
「良いご縁がありますように。」
必殺の笑顔で締めくくると、主様は僕らをデッキに戻してシャッフルを始める。「幸せが訪れますように」と1枚1枚に願いを込めながら、次のお客さんに笑いかけた。

~FIN~

あなたのための円卓会議。(2000字)
【One Phrase To Story 企画作品】
コアフレーズ提供、占い監修:花梛
『この目で龍が見たい』
本文執筆:Pawn【P&Q】

~◆~
One Phrase To Storyは、誰かが思い付いたワンフレーズを種として
ストーリーを創りあげる、という企画です。
主に花梛がワンフレーズを作り、Pawnがストーリーにしています。
他の作品はこちらにまとめてあります。

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