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【絵本日記】ギターと犬と僕

ある日、名前のない犬はいつものように、
道をトボトボと歩いていた。

クンクン。

草のにおい。人間のごはんのにおい。
いろいろなにおいがする中に、
木と金ぞくがまじった、ふしぎなかおりがした。
犬はかおりにひかれるようにして、歩いた。
すると、そこには、
一本のギターがすてられていた。

「これは、なんだ?」

犬は、おそるおそるさわってみた。
かたい木。少しゆるんだ弦。

ジャーン。

とつぜんの大きな音に、
犬はおどろいてかくれた。
もう一度、おそるおそるさわってみた。

ジャーン。

もう一度。

ジャーン。

犬は、むねがトクンとたかなるのを感じた。

ジャーン、ジャーン、ジャーン。

犬は、なんどもなんども、手を動かしてみた。
その度に、音がひびく。


(なんだか、楽しいな)

それから、犬はギターのそばをかたときも、
はなれなかった。
ギターは、ともだちだった。

わぉーん!わぉーん!わぉーん!
ジャーン、ジャーン、ジャーン。

とおぼえに合わせてギターをかきならし、
うれしいときも、かなしいときも、
ギターがいっしょだった。

しばらくすると、ギターはこわれてしまった。
犬はなみだをながし、ギターをだきしめ、
たべることもわすれて、雨がふっても
屋根に入らずギターのそばに座りつづけた。

「おや。君はどうしたんだい?」

ある日、犬の前をとおりすぎようとした、
一人の人間が言った。
犬はぐったりとしたまま、目をあけてみた。

傘をさした人間は、犬とギターをだきあげた。
しばらく歩くと、雨の音がピタリととまり、
おしゃれな音楽が聞こえる家に入っていった。

家は、ギターやピアノがたくさんあった。
他の人間たちもいて、なにやら楽器をみては
なやんでいる。

「もう、大丈夫。ここは、楽器屋だよ。
  ギターの弦をまずは、直してあげよう。
  そしたら、君もちゃんとお風呂に入って、
  ここで毎日、ギターと暮らせばいい」


人間は、ギターをなおしはじめた。
ギターをなおしおわると、犬をお風呂に入れた。
病院につれていきかぜをひいた犬に薬をくれた。
楽器屋のなかに、犬の小屋をたてた。
そこには【ギブソン】と看板がつけられ、
犬は【ギブソン】という名前になった。

ギブソンは毎日、店にくる人間の前で
ギターを弾いた。

「ギブソン、お前は天才だね!!」
「ギブソン、今度バンドをやろう!」

人間たちもいっしょに、ギターやドラムをならし
歌いはじめる。

ギターと、ともだち。
たくさんの人間と、ともだち。
名前はギブソン。
家もある。
たいせつなものが一つ、また一つと増えていく。




ギブソンは、おじいちゃんになった。
前ほどギターを弾く元気はないけれど、
それでも、毎日ギターとあそびつづけた。

「ギブソン。君はギターと出会って、
  素晴らしい人生だったね」

ある日人間は、眠りかけたギブソンに言った。

「だけどね、僕は君と出会って、
  かけがえのない日々を過ごしたんだよ。
  ギターと犬と僕と。たのしかったね。
  ゆっくりお眠り。
  ギブソン、だいすきだよ。
  さぁ、明日も一緒にあそぼうね」

人間は、泣いていた。
ギブソンは、なぜ泣いているのか、
なんとなくわかっていた。

目をつぶる。
夢をみた。
ギターをかきならし、歌う夢。
ギブソンは、おわらない歌を歌いつづけていた。


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