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【絵本日記】いるかさんと、とおいとおいともだち

いるかさんは、ひろい海でひとりぼっちだった。

(いわしさんは、いいな。みんなといっしょで)

いるかさんは、いわしさんに声をかけた。

「ねぇねぇ、ぼくもまぜて!」
「いいよ!おいでよ!」

いわしさんといっしょに、およいでみた。
だけど、ポツンと大きないるかさんは、
いわしさんとはいっしょにおよげなかった。

いるかさんは、シクシクと泣いた。
すると……。

『もしもーし、きこえる?きこえないかな?』

どこからか、声がきこえてきた。

「だれかいるの?」

キョロキョロとあたりをみまわしても、
だれもいない。

『わぁ!きこえてる!きこえてるよね!』

あたまの中で声だけがきこえてくる。

「だれなの!?」
『ねぇねぇ、あなた今どこにいるの?』
「わたしは、北の海だよ。姿がみえないのに
なんで、声がきこえるの?」
『それはね。わたしも、あなたとおなじ、
いるかだからだよ』
「でも、姿がみえないよ?」
『だって。わたしは、西の海にいるもの』
「西の海!?ずっと、ずっと先じゃない!」
『ずっと、ずっと、先のそのまたずっと先』

いるかさんはびっくりして、
クルクルとまわった。
ふとあたりを見渡すと、ほかのお魚さんが
ヒソヒソとおどろいて、こちらを見ている。

「いるかさん、ひとりでおはなししてる」
「どうしたんだろね?」

いるかさんは、ヒレで口をかくしひそひそ声で
はなしはじめた。

「声はどこからきこえるの?」
『それはね、わたしたちにしかきこえない声よ』
「ほかのみんなには、きこえないの?」
『そう。いるかには、いるか同士でしか
聞こえない声があるの。
どんなにはなれていても、話せるのよ』
「わぁ!なんて、素敵なんだろう!」

いるかさんは、うれしくなって、
ヒレをパタパタとさせた。

「ねぇねぇ、おともだちになろう?」
『もちろん!』

それからいるかさんは、毎日、
とおくとおくはなれたともだちと、
おしゃべりをした。

暗くつめたい海の水は、
キラキラとあたたかい水にかわった。
みんなのことが、うらやましくなくなった。
お日様がのぼって、しずんで、またのぼって。
それでも、おしゃべりはつきなかった。

ある日、いるかさんは言った。

「ねぇ、わたしたち、会えないかな?」
『おはなし、つまらない?』
「ううん。おしゃべりはとってもたのしい」
『なら、なんで?』
「ともだちだから。会いたいの」
『とおいよ?』
「だいじょうぶ!会いにいくよ!」

いるかさんは、リュックにたくさんのおやつを
つめて、旅にでた。
声をたよりに、
ひろいひろい海をおよぎつづけた。

2年たった。

4年たった。

6年たった。

9年たった。


10年たったある日、いるかさんは、
真っ白で大きくてきれいな、
いるかにたどりついた。

「こんにちは」
「こんにちは」

その声は、あたまの中できこえるよりも、
ずっとずっと、澄んだ声だった。

「会えたね」
「会えたね」

いるかさんは、聞きたれた声に
なつかしくて照れくさいような、
だけどはじめて会えたうれしさで
胸がキュッとなった。

「こんなに真っ白だったんだね」
「思ったより大きかったでしょ」
「うん。わたしは?」
「思っていたとおりのやさしい目」
「会えてよかった」
「うん。会いにきてくれてありがとう」

そう言って、おでことおでこをひっつけあった。

とおい、とおい場所にいた、ともだち。
2頭のいるかは、わらいあいながら、
広い海をスイスイと今もどこかでおよいでいる。


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