見出し画像

ボンボヤージュ

中学生の時、同じクラスに好きな男の子がいた。
いつも飄々としていて、他の男子のように馬鹿みたいなこともせず、足が速くて、周りの人にも好かれてた。
私はよくその子(A君)に髪型が変だとか、からかわれたりしていたので、周りの人に「A君と仲悪いよね。」とか言われていた。本当はA君の事が好きだったけど、恥ずかしさもあって教室ではA君にそっけなくしてた。

学校の帰り道、家の近いA君と一緒になる事があって、その時は教室の中と違ってA君はちょっと優しくて、一緒にレンタル屋さんに行って映画を選んだり、私もその時は普通にA君と話してたりしてた。
今思えば気持ちは通じていた気がするけど、まだ子供だったし恥ずかしくて心の中に隠していた。

中学を卒業し、高校に入ったんだけど、A君も同じ高校だった。
クラスが違ったので、前より話す機会が減ったけど、お互い家が近いので近所のコンビニなんかで会うこともあって、そういう時は前と同じように話したりしてた。
A君はいつも優しかった。

高校の3年間は何も良い事がなく、前の回にも書いたけど、ずっと1人で過ごした3年間だった。

私は高校卒業後、少し田舎の大学に入り、A君は大阪の大学に入った。
大学生は夏休みが長いので、夏休みになると私もA君も地元に帰省してた。
そういう時は連絡が来て、たまに2人で遊んだりしてた。

ある時夜中まで遊んでいて、A君は私が色々謎めいていてよくわからない、みたいな事を言うので、それは色々な事をぶっちゃけて話してないからだよ、と私は言って、
じゃあ今日は色々話そうという流れになり、私はその時、中学の時からずっとA君の事が好きだったことを話した。

A君はいつものように飄々として「そうなんだ。びっくりした。それって付き合いたいってこと?付き合うよ。」となんだか軽い感じで付き合うことになった。

そして、その数日後に会った時、A君は「この間好きって言ったこと、あれって本当?いや、夢かと思って。実は自分も中学の時からずっと好きだったんだ。」と言ってくれた。

私はずっと1人だったけど、20年近く生きて、やっと1人じゃなくなる、初めて愛情のようなものに触れて嬉しかった。そしてそれがこの先も永遠に続いていくものだとも、無邪気に信じてた。

A君と私は大学がある県に戻った後も、電話をしたり、大学は休みが多いので、休みのたびに地元に帰省して会っていた。
しばらくして、A君はよく「11月に」とか「11月までは」とか、11月という単語を使うので、気になった私は問いただしてみると、「言えなかったんだけど11月から留学することになっている。」と言った。
アメリカの大学に入るために、まず入る勉強をする学校に通い、それから大学に入って、卒業した後は向こうで就職したい、と言っていた。
春の肌寒い夜に告白をして数ヶ月後のことだった。
私は呆然として、11月になるともうA君と離れてしまう事がとても悲しくて涙が止まらなかった。
そんな私を見てA君は今までずっと好きだったんだから、この先もずっと好きだと思う、と言っていた。
私もA君も子供だったから。

それから11月までA君と何度も会ったけど、A君と離れてしまう悲しさ、留学のことを最初に話してくれなかった事が心に引っかかって、イライラしてよく喧嘩になったりするようになった。
留学をやめてほしかったけど、それは言わないように我慢していた。

11月、送りに来なくていいよとA君は言ったけど、私は駅に見送りに行った。
改札を通り、A君は振り返って笑顔で手を振っていた。私はこれがA君を見る最後なんだとなんとなく悟ったので、涙が止まらなくなっていた。
人生はいい事はほんの少しで、あとは延々と辛い事が続いていくだけなんだなって思ったりした。

A君は留学した後、何通か手紙をくれた。私は返信をしたけど、心が折れてしまっていて、なんとなく冷めた内容を書いてしまい、その後手紙も来なくなった。

私は一人暮らしの部屋でA君がくれた指輪や手紙を見てよく泣いた。
私はこの先A君のように純粋に自分を好きになってくれる人も、自分が好きになれる人も現れないことを確信していた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?