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償いは終わった、んだよね?

償いは終わったのだろうか。

3,4年ほど前、いきなり一人の友人に棄てられた。

その彼は僕より一つ年下の糸みたいなヒゲ坊主で、毎日のようにバカやったり、時には将来を熱く語ったりしていた一生の友人になるはずの男だった。


あれは何の変哲も予兆もない終電を逃した夜でした。
いつものように彼の家に泊めてもらおうと電話をすると、
「いいよ~。誰か女の子呼んできてよ~」
と、彼はけだるく右の鼻の奥にカナブンをつめたような声で言いました。

そして僕は渋谷から30分ほどの彼の家までの道のりを歩いていました。
彼の住む街に差し掛かった頃、何か買ってきて欲しいものがないかと彼に電話をしました。
しかし、彼は出ませんでした。
すこし時間を置いてかけなおしても彼は出ませんでした。
風呂でも入っているのかな、などと思っているうちに僕は彼の住むマンションまで到着してしまいました。
彼の住むフロアーにあがってみると、彼の部屋の電気は煌々とキラメイテイマシタ。
僕は彼に電話をしてみました。
携帯ではなく家の電話にもかけてみました。
しかし彼は出ません。

心配になった僕はドアを叩いて彼の名を呼びました。
電話も再びかけました。
しかし何の変化もありませんでした。

まさか……強盗? 拉致? オーバードーズ? 
などなど彼にとって嫌な連想がいくつも浮かびましたが、真相は彼にとってではなく僕にとって嫌な事なのではないかと思いました。
さらにそれが一番真実に近いだろうと、何故だか確信を持てたのです。
彼は『強盗』されたわけでも『拉致』されたわけでもなく、僕を『拒否』したのだと。

意味が全くわかりませんでした。
嫌なら嫌と言ってくれればよかったのに。

その日を境に彼は僕との連絡を全て拒絶するようになりました。
共通の友人たちとの連絡も然りでした。
ただ、街中を滑走するヒゲ坊主の姿を目撃した知り合いが多数いたので生きている事は確かなのでした。

以前僕は、相手の思いやりを汲み取れない行動で大事な友人の信頼を無くしてしまったことがあります。それは今も取り戻せてはいません。
今回も何かそんなことがあったのかと、自分を責めてはみましたが、これといった思い当たる節がなく、仮にあったとしても無言のうちに姿を消していくような友情関係しか築けていなかったのかと、悲しくもなりました。

そしてついこの間。
ある駅前で僕が電話で話していると、彼が対岸を通り過ぎていきオリジン弁当へと入っていきました。
彼の風貌は変わらず糸みたいなヒゲ坊主でした。
その時の電話の相手もヒゲ坊主との一連の流れを知っていたので、僕が驚きを持って報告すると「もう、どうでもいいじゃん」と、どうでもよさそうな声で言いました。
僕もどうでもよくなって、別に声もかけずにその場を後にしました。
彼が僕を棄てたように、彼も彼らに棄てられていたのかもしれません。

そんな彼と、本日会うことになりました。
昨日、彼から突然の電話があったのです。
その何年かぶりの肉声は、両鼻の奥にテントウムシがつまったように小刻みなビブラートを伴っていました。
でも、奥歯が全部虫歯のような笑い声は昔のままでした。
僕は別段騒ぎ立てもせずに、当時のリズムのまま今日の予定を決めていました。

本当に来るのかわかりませんが、どうにか昔のような関係に戻りたいものだね。
本当に気の合う同性の友達って貴重だからね。


ってな具合のメモを十数年ぶりに発見した。

再会の場は覚えてないが、今も彼とは変わらぬ一生の友だ。
変わったところといえば、糸の先端がヒゲ坊主からはヒゲ巻髪となったくらいか。
切っても切れない腐れ縁。これからもよろしくね!


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