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物語をつむぎ、自分をさらす

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自分が書いた小説やエッセイを載せていこうかと。 空想上の人たちが織りなす創作の物語と、実際に自分が体験したことやあまり晒したくない本音の部分などなどを。
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記事一覧

まちこのGB 《第3章の1》 結果発表〜! 今度はアキバ!?

【3-1】 まちこのGB  ひと月後、秋葉原にある大型家電量販店。  その開店を待つ行列の中に真知子の姿があった。その横には迷彩服を着たつるんとした肌のポッチャリがいる。 「チコチン、中は戦場だからね。一応、三方向から攻め込む手はずにはなってるけど、我がチームが本命だから」  今日ここで、地下アイドルたちが集まるトークショーライブが行われる。それぞれのファンが最高の場所を確保するために朝も早よから並んでいるというわけだ。  真知子は今でも乗り気になれなかったが、仕事だ

まちこのGB 《第2章の10,11》 骸骨が見上げた青い空

【2-10】 12時を5分ほど過ぎたころ、チャレンジが始まった。 「そろそろ行きましょうか」    ビデオカメラを構えた矢口がテントに顔を出した。  時刻は12時。チャレンジ開始の時間である。 「よし、行こうか」 【Lucky Inter Hospital】の三人が立ち上がり円陣を組む。  それぞれが肩に手を回し顔を寄せる。 「俺からは一個だけ。先人たちに憧れるのはやめよう。俺らは画面を見ているんじゃない。今日の俺らは画面の中にいる」  この言葉は朝霞が昨日から温めて

まちこのGB 《第2章の9》 あなたの女王様は誰ですか?

【2-9】 どこかで聞いたうろ覚えのオリンピック精神 「これが、ヌード写真つきサングラスで、これが手のひらに『人』って縫いこまれた皮手袋で――」  今や場末のスナックのママ然とした真知子が、朝霞のための高所克服グッズを机に並べている。  効果のほどは定かではないが、自分のために用意してくれたという思いがきっと効果を発揮してくれるはずだ。 「それにしてもさ、朝霞、痩せたよね……」  鞭打ちを終えた渡辺が朝霞の横に腰を下ろす。 「気合だよ、気合。ちょっと断食すりゃこんな

まちこのGB 《第2章の8》 お前の作家性など誰も求めてない

【2-8】 下町に突如現れた宝ジェンヌダルク  テントの片隅で新生【Lucky Inter Hospital】の三人が出番を待っていた。  本番はもう間もなくだ。 「ハウッ、あの新曲でいいんだよね? ハウッ、曲の構成は完璧に頭に入ってるから」  渡辺は集中力を高めるためだと自分の体に鞭を打っていた。比喩ではなく、実際にヒダが何本もついているマイ鞭だった。  乾いた音が響き渡るたびに、渡辺の体に赤い筋が浮かび上がる。 「さすが上海だ。頼りにしてるぜ」  朝霞がサムズア

まちこのGB 《第2章の7》 そのドアは入り口ですか? 出口ですか?

【2-7】 それは額から流れ落ちる鮮血だった  よりによってなんで今日なんだ――。  強風で大きくはためくテントを見ながら朝霞は舌打ちをした。  手元には三人分の誓約書がある。その不吉な文面を見ていると、これから自分のすることのリアリティを感じた。  当然、サインはする。ただ、今すぐサインする必要もない。本番まではまだ時間がある。  なんとなく心に余裕ができた朝霞は、テント小屋全体に目を這わしてみる。  目の前に並んだ長机とパイプ椅子を見ていると、地元の町内会のお祭りが

まちこのGB 《第2章の5,6》 チャレンジ当日、潮風公園にて

【2-5】 真知子が用意したベーシスト、イマチ登場  煤けた色の薄っぺらい窓枠がカタカタと音をたてている。  一階の朝霞の部屋でこの風ということは、今日は風が強いのかもしれない。  朝風呂上りの朝霞は全身素っ裸のまま、窓際に近寄っていく。  カーテンを開けようとした時に、若い娘たちの声が聞こえたのでやめておいた。  洗面所で自分の体を眺めてみる。顎周りは確実にシャープになった。下っ腹もかなりすっきりしたが、余った皮膚がたるんでいるのが気にかかる。  息を吸い、腹をへこま

まちこのGB 《第2章の4》 こんな最高のコンサルタントチーム

【2-4】 こんな最高のコンサルタントチームがついてる  朝霞と別れ会社に戻ると、社内は活気づいていた。  皆が席に着きそれぞれの作業をこなしている。  川崎はカタカタと眼にも止まらぬ速さでキーボードを叩き、矢口は大きなビデオカメラを前に取扱説明書を広げている。  入り口の脇にある大きな看板には、 『~Challenge for change~ 世界で一番不安定な高所でライブをしたバンド』と綺麗にプリントされていた。  矢口がデザインしたというその看板は、勢いのある文

まちこのGB 《第2章の3》 チャレンジ前日、そりゃ漏れる心情

【2-3】 この先ずっと、一生のその先まで必要ない  ギュネスチャレンジを翌日に控え、真知子と朝霞は下見のために潮風公園に来ていた。    会場となる潮風公園は東京都の水再生センターの上部に造成されているため、とても高い位置に公園が広がっている。辿り着くためにはなだらかなスロープを上がらねばならない。  けっこうな距離のスロープを歩き、緩やかなカーブを抜ける。  道の両脇から見下ろせる巨大な水槽のようなものに目を取られつつ歩を進めると、突如、目の前に公園の全景が広がった。

まちこのGB 《第2章の1,2》 創作のエクスタシーは性的快楽を超える

【2-1】 表に出ないゴタゴタはすべてお任せください  誰かのために自分ができること。  自分にしかできないことはなんなのか――。  昼下がり、海を見渡せる橋の上で朝霞は考える。  なんど悩んでも導き出される答えはひとつだ。曲を作るのだ。今の気持ちをメロディに乗せ、自分にしか歌えない歌を作るのだ。  すぐ近くを飛行機が飛んでいる。幼い頃はすごく小さい乗り物なんだと思っていた。初めて目の前で見た時は、その大きさに感動した。  この乗り物が世界へと繋がっているのかと思うと

まちこのGB 《第1章の16》 一心不乱に便器を磨く瞬間

【1-16】 次の瞬間、一心不乱に便器を磨き始めた  誕生日からちょうど一ヵ月後、朝霞は免許センターにきていた。  二日酔いで面倒だったが、今日までに免許の更新を済ませないといけない。  平日の昼間に時間が取れるのはシフトを調整できるアルバイトの特権だ。  今の自分はバイトもしてないさらに自由の身だ。  いつ来ても更新の列は長蛇の列だ。検査を受けるゲートは遥か先に見える。  周りを見ると学生に毛が生えたような若者がそれぞれの態度で並んでいる。きっと自分は傍から見れば同じ

まちこのGB 《第1章の15》 完全に主従が逆転している

【1-15】 完全に主従が逆転している 「突然ですが報告があります。あの朝霞とかいう男の案件ですが、中止することになりました」  朝のミーティングが始まると、真知子はさっそく声を上げた。  皆が真知子に目を向けていたが、矢口は顔を伏せほくそえんでいるように見えた。  真知子にはそう見えた。 「人の本心なんてわからないですよね。あのポンスケは予想以上のクズでした」  真知子は矢口に対して、素直に自分の負けを認めた。  矢口は顔を伏せたまま笑わないように自分の足を抓ってい

まちこのGB 《第1章の14》 むくみきった顔の汚れきった豚

【1-14】 むくみきった顔の汚れきった豚  就職後、初の週末を真知子は満喫していた。  普段働いているせいか、休息とのメリハリがついている。いつも休んでいるような毎日の時は休日の実感もありがたみもわからなかった。  昨日は街に出て楽器屋へ行った。完全に朝霞の影響である。  そこで店員にうまくおだてられ、初心者用のベースギターを買った。ベースを選んだのは弦が四本で簡単そうだったからだ。  いちおう仕事のためだと領収書をもらっておいたが、楽器を弾いてみたいという衝動は大き

まちこのGB 《第1章の13》 素晴らしき解決法の発見

【1-13】 言ってはいけないことを選ぶ癖  秋葉原の電気街とは真逆にある川沿いの古びたビル。  そこの四階に、朝霞の勤める共栄ビルメンテナンスの事務所があった。  10人も集まれば座る場所がないほどの広さで、裏の窓からはすぐ下に川が見下ろせる。  その川が夕焼けで染まり始めた頃、朝霞が事務所へとやってきた。中では二代目社長の高橋晴子が難しい顔で待ち構えていた。  晴子は35歳の独身社長であり、社内では朝霞とお似合いの二人と噂されている。  誰もいない二人きりの事務所。

まちこのGB 《第1章の11,12》 口も目も語らないってなに?

【1-11】 あこがれのブルーカラーズドリーム  その日、仕事を終えた朝霞は真知子と約束した喫茶店へ向かった。  一番奥の席に腰を下ろした朝霞は、アイスココアホイップ多めと言いかけたがブラックコーヒーを注文した。  今日は疲れたので甘いものを飲みたかったが、ぐっと我慢した。  朝霞はギュネスに向けてダイエットを始めた。痩せた状態で『GB』デビューして、屋敷や渡辺を見返してやるのだ。  ただ、今の朝霞は深く落ち込んでいた。寝不足と二日酔いによる疲労と合わせて、激しい自己嫌