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高LDLコレステロール血症の男女差の意味するところ

LDLコレステロール(LDL-C)は本来体にとっては必須の成分であるにも関わらず悪玉コレステロールと呼ばれて久しく、現行の健康診断においても数多くの有所見者が存在します。しかしながら、悪玉と呼び、判定および対応する上において疑問に感じることも数多く経験されますので、今回はLDLCの増加と悪化の転機および性差の存在する意義についてパターンプロセス理論の観点から考えてみました。途中、素因型や生活習慣型、異常パターンという言葉が出てきますが、パターンプロセス理論が初めての方はNote1,4を復習してからお読みください。

図1 LDLC値と年齢の関係

図1は、LDLC値と年齢の関係からみた散布図です。基準値の120mg/dl以上は、男性44.1% 女性46.8%、特定健診の要医療判定140mg/dl以上は、男性22.0% 女性24.3%、非常に高値とされるLDLC200mg/dl以上でも男性1.0% 女性1.2%存在します。このように多くの方々が健診を受けると悪玉コレステロールが高いと言われてしまいます。
 一方、至適値とされる100mg/dl未満は30.7% 27.9%と少数派であり、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の既往のある方の治療目標は80mg/dl未満とされ、全体でも10.9% 8.8%しか存在しない領域になってしまいます。 現実的には数多くの方々がもっと多くのLDL-C値でも健康でいられるのに、病気の予防?とはいえどうしてここまで下げる必要があるのでしょうか? 多数の有所見者に対して日々対応を迫られる健康診断において、親族に虚血性疾患など既往歴を持つ方が全く存在しない若年者の高LDLC血症、若壮年にみられるLDLC正常域での血管イベント発症例、女性の40歳後半以降の著しい高LDLC血症の増加など、悪玉コレステロールの名のもとの対応に際して数々の疑問が生じます。

図2 LDL-Cの有所見率の年齢階級別推移

図2はLDL-Cの有所見率の年齢階級別推移を総有所見率、肝機能異常合併パターン群(肝機能異常群)、素因型パターン群(素因型群)3群男女別に示したものです。

総有所見率は、増加する年齢層および減少する年齢層に明確な性差が存在します。男性は50頃まで女性より早く増加傾向を示し、50%を超えたのち50歳以降減少傾向。女性は男性より遅れて40代後半から急激に増加し、60歳前後で60%を超えたのち減少傾向を示します。男女とも減少分は、肝機能異常群の減少分にほぼ一致しているのがわかります。
 有所見率の増加の際の性差および性差の元となる異常パターンの違いについて、悪玉コレステロールとして対応している現状では個人に説明できる考え方が存在しません。虚血性心疾患の危険性の高い家族性高脂血症は、一般的にその頻度は300〜500人に1人と言われている中で、男女とも基準値120mg/dl以上が半数近く存在し、LDLC200mg/dl以上でも1%存在します。スクリーニングとしてはえらく効率の悪い健診が続けられてきたことになります。

図3 LDL-C素因型各群有所見率の年齢階級別推移

図3は、LDL-Cの素因型各群の有所見率を男女別に示したものです。素因型において40歳までは性差は少なく類似した傾向になっています。女性の40歳以降のLDLC有所見者の増加は、素因型群の大幅な増加に50歳以降の肝機能異常群の増加分が加わったものであることがわかります。

図4 LDLC異常を含む異常パターン32群の年齢階級別推移

図4にLDLC異常を含む異常パターン32群の年齢階級別推移を男女別に示しました。男性のLDLC有所見者は30歳代から60歳前後の就業期間に生活習慣型異常を含む群(生活習慣型群)が増加し、女性は40歳以降生活習慣型群の増加とともに素因型群も増加します。

生活習慣型は男女ともに加齢につれて急激に減少しますが、素因型群の多くは高齢になるにつれて増加します。

このように、高LDL-C血症の有所見率の性差には構成する異常パターン群の違いが存在し、男性の50歳までは生活習慣型群の増加、女性は50歳以降の素因型群の増加が主要因となります。結果的に男女とも高齢者には数多くの素因型高LDLC血症が存在します。

図5 肝機能異常を有する24群の年齢階級別推移  ( LDL-C異常の有無別.男女別)

図5に肝機能異常を有する24群の年齢階級別推移をLDL-C異常の有無別男女別に示しました。男女ともLDL-C関連、非関連パターン群とも、生活習慣型および素因型各パターン群の傾向は類似しており、女性はLDL-C高値の有無に関わらず抑制されています。肝機能の異常群でもLDLC異常の生じる群と生じない群が存在します。健康診断において、LDLCには加齢の影響も生活習慣の影響も受けない方々が存在し、LDL-C高値を示すことは一つの素因と考えられます。

図6  パターンプロセス  (高LDLC血症を含むパターン群(黒線表示))

図6で示したパターンプロセスについては健康診断における汎用6項目の異常パターン間の法則性を示すものとして、本Noteでも話を進めてきたものです。今回はパターンプロセスをLDLC異常の有無別に示しました。男性は30歳代より各パターン群が出現しますが、女性は肥満の有無に関わらず50歳まですべてのパターン群の出現が遅延する傾向にあります。生活習慣型異常が女性ホルモンで抑制されることにより、男性の30歳代より多く見られる肝機能異常を主体とした生活習慣型異常の出現は、体内における酸化の亢進状態であると考えています。

生活習慣型異常を含む高LDLC血症は体重増加に伴い男性は30歳代後半、女性は40歳代後半に出現し、高LDLC血症を含むパターン群(黒線表示)は含まない群と比べ、すべて肥満側で推移します。LDLC単独異常の段階では肥満の有無は影響しないものの、体重増加につれて肝機能異常など生活習慣型異常を多く持つようになることから、LDLC素因を有する方は生活習慣の悪化の影響を受けやすく体重が増加しやすいと考えられます。

男性の若壮年期のLDLCの増加分は、GPT,γGTP,TGの異常の出現に伴う酸化的影響に呼応して増加するものと考えられます。パターンプロセス上女性は50歳頃までLDLCも含めた基本パターン全体が抑制されてみえますが、素因型パターンに対する影響は少ない(図3)ことから、主に抑制されているのは生活習慣型関連パターンと考えられます。

女性の50歳までみられる抑制状態を女性ホルモンの抗酸化作用によるものと考えるなら、素因としてのLDLCが抑制されているのではなく,生活習慣型異常(GPTγGTP TG)の存在する体内酸化の亢進状態に反応して増加するLDLCが抑えられていることになります。

いっぽう、女性の50歳以降のLDLCの増加は、生活習慣型を含む異常パターンの増加も認めますが、素因型各パターンの増加がより多くを占め、(図1,2,3)女性ホルモンの低下に伴う相対的な酸化の亢進に呼応したものと考えられます。男性ほどではないにしても、生活習慣型異常が現れやすくなることから、女性は50歳頃を境に、それ以前に異常の指摘がなくとも体重増加や体力低下には注意を払うとともに抗酸化力を高める努力が必要となります。

喫煙習慣は,パターンプロセス上生活習慣型を始め検査異常の出現を早め、体内酸化を飛躍的に増加させる傾向があり、女性ホルモンの影響下の抑制効果は消失すことが示されました(Note5)。また、尿酸は体内の酸化亢進状態に呼応して上昇し、耐糖能異常を緩和させることから抗インスリン抵抗性機能を有することが示唆されました(Note6)。体内酸化に呼応して増加する点では今回のLDL-Cについても類似する部分があり、本来LDL-Cの上昇にも生体内における意義が存在し、LDLCの増加機序により危険性の違いが生じていると考えられます。

ここまで考えてくると、LDL-Cを悪玉と考えるより、LDL-Cを悪玉にしている酸化的生活習慣に問題があると思えてきませんか?


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