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①クー・フリン&ロイグ主従が大活躍!アルスター伝説「ゴルとガーブの壮絶なる死」

アイルランド伝承「ゴルとガーブの壮絶なる死」の訳。いつものようにクー・フリンが敵をぶっ飛ばす話かと思いきや、クー・フリンとロイグの掛け合いが超可愛かったり、クー・フリンがコノール王(コンホヴァル)にブチ切れたり、仲間の戦士と対立したり、楽しい要素がもりだくさん。なんでこの話がマイナーなのか、ちょっとわからないレベルで面白いです。

添削済みですが、気になるところを指摘していただけると土下座して喜びます。添削は、ロスナリーの戦いと同じくseri.naznaさまにお願いしました。感謝感激。

The Violent Deaths of Goll and Garb
Aided Guill Maic Carbada Ocus Aided Gairb Glinne Rige

ゴルとガーブの壮絶なる死
12世紀の写本レンスターの書より

元文はこちら


1
赤枝の高名な若者、コノ―ル王の妹君の息子、 リーネの輝きに包まれた者、ブレギアの雌牛の守護者、クー・フリンには多くのタブーと重荷が課せられていました。


2
タブーとはこのようなものです。

一人でいる戦士に自らの名を名乗ること
決闘を前に一歩でも道を外れること
決闘を拒むこと
許しなく集会に参加すること
一人の戦士と共に集会に赴くこと
そばに男のいない女たちに囲まれて眠ること
女と付き合うこと

エウィン・ウァハで太陽が彼の上に昇ることもタブーでした。むしろ、彼こそが太陽が昇る前に起きねばならなかったということですが。


3
さて昔々、太陽が昇る前、彼は夜明けと共にエウィンで目を覚ましました。そして御者に叫んだのです。

「やあ、我がマスター・ロイグよ!」
「あなたが何をお考えか僕にはお見通しです」ロイグは言いました。
「というと?」クー・フリンは言いました。
「馬に馬具をつけて戦車に繋いでくれ、でしょう」
「そのとおり」クー・フリンは答えます。
「そうおっしゃるなら」ロイグは続けて言いました。「あなたの勇気を咎めるものなし。戦車はくびきにつながれ、馬は馬具をつけられた。さあ来てください。あなたの戦車の元へ」


4
クー・フリンが歩み寄ると、コノールは「早起きの目的は何かね?(※1)」と尋ねました。

「ああ、我が主人コノ―ルよ。今日こそ見回りをするにふさわしい日だと思ったのです。しばらくムルセヴネ(※2)を巡回していませんでしたから」

「あまり長く待たせないでおくれ、息子よ」コノ―ルは言いました。「お前がいなければ、我らはどんな宝物も、どんな善事も、つまらないものに思えるのだから」


5
それからクー・フリンは戦車のもとへ行き、堅牢で素早いそれに飛び乗りました。ロイグは馬を駆り立て、鞭を旅路に向けて振るいました。こうして、彼らはアイヒス・ムルセヴネ(※3)へと向かったのです。


6
「ああ、ロイグ」クー・フリンは言いました。「この高台に来ると胸が高まるよ」

「そうでしょう」ロイグは答えます。「ここからは海がはっきりと見えますからね」彼はそう言って、こんな歌を作りました。

ロイグ
「胸が高まるこの高台
見よ、ムルセヴネ平原の町の中
力強く、実り多く(欠文)
大地と澄んだ海の両方が(欠文)」

クー・フリン
「戦わずしてエウィンへ行くこと
誰が見ても我がタブーを破る
ムルセヴネの平原を見ながら
ここに留まらない限り」

ロイグ
「あなたがエウィンを離れようものなら—
戦車は獲物で満たされていた —
戦利品もなく
再び戻ってくるのを見たことがない」

クー・フリン
「ゆえに我らはここにいる。
ああロイグ、リアンガヴラの息子よ、
エウィンにもたらそうじゃないか
 —勇敢に、大いに楽しもうではないか! —
血の戦利品をたずさえて」

ロイグ
「応えましょう。あなたは強く苛烈な英雄
あなたが望むなら僕も同じ。ああクー・フリン、
僕の望みは、あなたの姿が見られる
この場にいることだけなのです。
そのために — これこそが勇敢な理由 —
僕の馬はクルアハの地(※4)にまで及び
50の頭をエウィンにもたらした
鉄の頭をもたずさえて(※5)。
これこそが — 偽りなき理由 —
あなたはたった一日で
100の功績に並ぶほどの喜びを
エウィンにもたらしたのですから」



「さて、ロイグ。ぐっすり眠れるように、馬の馬具と戦車のくびきを外しておいてくれ。戦いなしにエウィンへ行くのはタブーのひとつだからな」


8
ロイグは戦車のくびきを外し、馬具をほどきました。そして戦車に被せた皮をクー・フリンの下に広げ、縁のある紫色のチュニックを彼の上にかけ、頭の下には羽根枕を敷いてやりました。こうしてクー・フリンはぐっすり眠り、ロイグは彼が眠る間、主人を見守ったのでした。


9
ロイグが海と陸地を見張っていると、やがて大きな船が岸に向かってくるのが見えました。船は十二名山の一つと同じくらい大きいものでした。船首も巨大で、ロイグは船尾に見間違えたほどです。

ロイグは船の先端に座る、森の茂みの上に抜きん出てまっすぐと生えた、オークの木よりも巨大な英雄の姿を見ました。侵入者は両手に鉄のオールをそれぞれ握り、あちらこちらで海を切り裂いています。

彼は大海原の怪物たちを巨大なオールを漕いで引き裂き、天の高さまで舞い上がらせました。そして怪物たちは、ボートの真ん中に座る彼のところに再び落っこちてきたのでした。

それから彼は、怪物たちを嘲笑うかのように大きな声で笑いました。その口の大きさたるや、三段オールの船と、9人の乗組員が通れるかと思うほどです。肝臓と(欠文)が、彼の首と喉の境目で躍動しているのも見えました。

二つの目の一つは、木でできた杯の口のように、頭の外に飛び出していました。もう片方の目は、たとえ鶴でも頬から取り出すことができないほど深くめり込んでいます。暴れ牛を繋いでおいた縄のような髪はスゲにまみれ、荒々しく乱れています。髪は硬い頭の(欠文)まで垂れ下がり、風除けになっていました。

10
ロイグは高台で侵入者を観察し、相手の力量を測ってから、こんな詩を語りました。

ロイグ
「僕は澄んだ海に浮かぶ
エリンの地へ向かう船を見る。
大海原を見下ろせるほどの船体は
見たところ、非常に高さがあるらしい。
そこに座るはひとりの英雄
ゲールやよそ者よりも大きな戦士
海を切り裂き、その背丈は天の雲にも届くほど。
片眼は頭の中に埋まっている— 間違いなく!
牝牛の大釜よりも巨大な瞳。
もう一つの目は — 名誉を表すほど巨大!
どんな鶴も彼の頭蓋骨には届かない

船の胴には彼の盾
黒い皮で覆われている
10人ずつの4部隊が
すっぼり収まるほどの大きさ
どうして嘘などつけようか —
右側面の大剣は
30フィートはあるだろう。
彼に攻撃する者、英雄の怒りが達した時
災いが降りかかるだろう。
さあ起きろ、この場を去るのだ
栄光のクー・フリンよ!
さすれば勇猛な英雄も襲ってはこない
彼と戦うのは(欠文)ではない」

クー・フリン
「俺は鋭い盾に誓う。
ああ、リアンガヴラの息子ロイグよ。
俺はこの場を離れない
俺が奴の相手になれるかどうか知るまでは」

ロイグ
「もしあなたの周りにウラドの仲間がいたならば
ああ、デヒティネの息子よ、
船に見える英雄は
ウラドの民に死をもたらすでしょう」

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(※1)このフレーズには、for purpose of war or prayer(戦争か?信仰か?)という意味も込められているらしい。参考資料より。

(※2)現在のラウス県の平原。

(※3)具体的にどこなのかはよく分かっていない模様。

(※4)現在のロスコモン県。

(※5)Randy Lee Eickhoff版『The Red Branch Tales』では、an iron head(鉄の頭)を、クー・フリンの武器の先端部のことではないかと解釈している。私はてっきり大将首のことかと思っていたが…どちらが解釈的に正しいのかはちょっとわからない。

<参考資料>
https://sites.google.com/site/bookofleinster/home/405



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