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②クー・フリン&ロイグ主従が大活躍!アルスター伝説「ゴルとガーブの壮絶なる死」

アイルランド伝承「ゴルとガーブの壮絶なる死」の訳つづき。添削済みですが、気になるところを指摘していただけると土下座して喜びます。

元文はこちら


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「じゃあ、ロイグ」クー・フリンは言いました。「あの英雄に近づいて、やつの領土や親族、名前や祖国、得ようとしてる場所について聞き出してきてくれ」

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そこで、ロイグは侵入者のもとへ行き、彼の向かい側の土手で立ち止まりました。「偉大な英雄よ、そなたはどこから参られた?」

ロイグは尋ねましたが、返事はありません。

「そなたはどこから参られたのです、船に乗った偉大な英雄よ」ロイグはもう一度聞きましたが、やはり返事はありません。

ロイグは三度目にこう尋ねました。「偉大な英雄よ、そなたはどこから参られた? そなたの名と祖国は? どれほどの旅をしてきたのか?」

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「ただ名を名乗ることはしないのだが、お前は御者のようだ。ならば我が名を教えてやろう(※1)」

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「ええ答えてください」ロイグは答えました。「そう頼んでるでしょ」

「我はカルバドの息子ゴル、北ドイツの王の息子である。我ら3人兄弟、すなわちゴルとクロムとリグのひとり。我らは3つの島々でくじを引いた。ブリテン島、デンマーク島、そしてエリン。最初に攻め行く場所を決めたのは我のくじだった。くじはエリンを示したのだ」

「神々に誓って言いますが」ロイグは言い返しました。「最初で最後のくじになりますよ」

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「言うではないか、案内人よ!」ゴルは言いました。「して、そなたは誰の所有物か?」

「そなたの目の前にある平原、その真ん中にある丘の上の英雄のもの」

「丘の上に座っているのは誰だ?」ゴルは尋ねました。

「それはもちろん」ロイグは答えます。「我らがエリンの、スアルダウの息子クー・フリン」

「その小さな英雄のことなら聞いたことがあるぞ」ゴルは言いました。「やつに伝えるがよい。我が下に参り、誓約と給金を受け取れと。そうすれば我の代理として、やつにエリン総督の地位を与えてやろう(※2)。もし拒むようなら、すなわち我が誓約と給金を受け取らぬというなら、エリンから力づくで追い出すと伝えよ」

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戻ってきたロイグに、クー・フリンは尋ねました。「誰だって?」

「カルバドの息子ゴルだと」ロイグは、これまでのことを全て話しました。「エリンから追い出すと言ってます」

「ふうん。ロイグ、もう一度やつのところに行って、エリンの港という港に上陸してはならないと伝えてくれ。この俺がエリンにある限り、ウラドの領土には立ち入ってはならないとね」

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ロイグは来た道を戻り、メッセージを伝えました。「心して聞け、ゴルよ。丘の上の英雄はそなたにこう言っている。『私が生きている限り、そなたの船をエリンの港という港に近づけてはならぬ。特にウラドには決して近づくな』と」

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すると、ゴルは自らの船を力強く押し、ボートは陸揚げの板を9枚超えるほどのところで陸地に乗り上げました(※3)。これにはロイグも仰天し、クー・フリンのもとへ逃げ帰りました。

クー・フリンはゴルを攻撃すべく飛び出し、互いに相手を殺そうと戦い始めました。ゴルはとても素早く両手を伸ばし、武器越しにクー・フリンをひっ掴み、船に向かって脇腹と手の間でクー・フリンをねじりあげました。

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「おお、妖精はそなたに呪いをかけたのか。なんと軟弱な刃にしてしまったことか!」ロイグは声を上げて言いました。

「彼は雌牛が子牛を追い越すかのように、そなたを追い越した。彼は生みの苦しみで疲れ切った女たちのように、そなたを疲れさせた。彼はツタが木々に絡みつくかのように、そなたの周りに絡みついた。彼はオークの木を斧で切り裂いたかのように、そなたを引き裂いた。彼は砂地に打ち上げられた魚のように、そなたを投げつけた。彼は水たまりに注がれた泡のように、そなたを流してしまった。あの英雄は、そなたを腰掛けにこぼされる子供のおかゆのようにしてしまった。今日からは誰一人としてそなたの武勇を求めたり、エリンの優れた戦士に数えるものはいない。さあ僕の前から消えるがいい。僕はあの男には到底敵わないのだ」

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するとクー・フリンは動き出し、九の山の背を越えてゴルから離れました。しかし、ゴルは立っている芝生から、クー・フリンに近づくことも、注意を払うこともしませんでした。

そこでクー・フリンは鳥のように空に跳ね、ゴルの盾の縁に飛び乗りました。ところが、ゴルは盾の下を肘で殴って震わせ、クー・フリンを遠くへ吹き飛ばしてしまいました。

クー・フリンはもう一度彼の盾に飛び乗り、石と木と骨をも貫く「硬い頭の鋼(※4)」を鞘から抜きました。そしてゴルに一撃を食らわせ、首のつなぎ目から彼の頭を切り落としてしまったのです。

クー・フリンは立て続けに首に二度目の攻撃を食らわせ、二つの肉片を地面に落としました。さらにクー・フリンは三度目の攻撃を食らわせ、彼の身体を真っ二つに切り裂いてしまいました。それからこんな詩と言葉を語ったのです。

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「これこそがゴルの首、そなたが我が手の内に見るもの
おおロイグ、リアンガヴラの賢明な子よ、ゴルはこの地にやってきた。
多くの争いの火種を持って — エリン島を攻めんがために。
やつは、ドイツ王の子ゴルは、はっきりとこう言った
おとなしくやつのものにならなければ、
エリンのどこにも留まってはならぬと。
俺は英雄に、残忍で愚かな男に答えてやった。
俺はこの地に永遠にあるのだ
やつの給金を受け取る気はないのだと。
ゆえに俺と平原の偉大なゴルは戦い
ゴルは浜で倒れ伏した。
それこそがこの首、そなたが我が手の内に見るもの」

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(※1)ちょっとロイグを小馬鹿にしたニュアンスが含まれているらしい。Randy Lee Eickhoff版『The Red Branch Tales』では、ロイグに対する侮蔑を匂わせる描写を追加している。

(※2)給金というのは、つまりお給料のこと。ゴルは「我がエリンの王になるから、クー・フリンくんは中間管理職についてね。お給料をもらいながら我のために働いてね」と言っている模様。

(※3)板を使ってボートを陸地に上げるのは、大の男が数人がかりで行わなければならないほどの力仕事。本来は1枚の板を越えるのにも苦労するが、ゴルはたった一人で9枚の板を越えて見せた。彼の力強さを表す表現となっている。

(※4)別名「クルージーン・カサド・ヒャン」。とにかく硬い剣らしい。


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