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結果だけでなく、プロセスにもデータ活用していくことがデジタル社会のビジネスチャンス

コロナ禍によって、様々な産業でDX(デジタルトランスフォーメーション)が一気に加速しています。そして、小売業界でもデジタル化の勢いは増すばかりです。
ただ、一概に「小売業界におけるDX」と言ってもその捉え方やアプローチは様々あるなかで、Patheeでは「小売業界におけるDX」をいくつかのステップで捉えています。
その上で、まず最初のステップとして重要なのが、店舗に関わる様々な情報をデジタル化し、マーケティングに活かすことだと考えています。
そこで今回の連載企画では、Patheeのマーケティングマネージャーの原嶋が、「いま小売業界がデジタル化するべき情報は何か」をテーマに、最前線で活躍するキーパーソンにインタビューしていきます。

ECのデータは「訪問者数×コンバージョンレート×客単価」を見ることから始める

原嶋:
まず堀田さんが株式会社パルでどのようなお仕事をされているかお聞きしてもよろしいですか。

堀田:
プロモーション推進部の本部長をしています。部の中にはコミュニケーションデザイン室、Web事業推進室、クリエイティブデザイン室と3つの部署があります。
コミュニケーションデザイン室はいわゆるファッションプレスでメディアプロモーションを利用したブランディング部門です。オンライン、オフライン関係なく、メディアを使ってお客さまとリレーションを作っていますね。
Web事業推進室はデジタル中心に広域をみています。ECもですが、CRM、データ、マーケティングなどWebから派生することを管轄しています。

原嶋:
プロモーション推進部をご担当されていて、さまざまなデータを見られていると思うのですが、DXを行うためにはどういうデータをデジタル化していくことから始めると良いとお考えか教えていただけますでしょうか。

堀田:
私がパルに参画した2014年当時は、DXという言葉はなかったのですが、メディアが雑誌からEC、TwitterやFacebook、InstagramなどのSNSに変化していく時期でした。世の中が変わっていく中で、パルもどう変わっていくかということを模索していました。
お客さまのツールがモバイル化したということが、大きな変化でしたが、その変化を理解するためには、お客さまを数字上で見える化していくことが重要だと考えました。デジタル時代においては、顧客にまつわる情報をどれだけ持っているかということが重要だと思っています。データをどう読んで、どう使うかは難しいですが、データ活用をやっていかないといけないと思って取り組んできました。

リアル店舗のデータというのは「どの店で」、「何が」、「いくらで売れたか」という結果や店単位のデータしか持っていなくて、「誰が」は分かりづらいです。店舗でのお客さまの情報は、販売スタッフが見た定性的な情報を元にした感覚値しかないのですが、Webでは感覚値がないので、データに分解して見ていけると良いと思います。

原嶋:
Webにあるデータの中ではどのようなデータを初めに見られると良いでしょうか。

堀田:
ECのデータだと「訪問者数×コンバージョンレート×客単価」だと思っています。ここがまずどうなってるのかを大枠で捉えることが大事で、「訪問者数が増えているのか、減っているのか」、「コンバージョンレートがちゃんと取れているか」、「客単価が想定通りにいってるか」といった指標を取ることが基本だと思います。

訪問者数ですが、お客さまがどこから来ているかをまず見ていきます。Google Analyticsで分解をして、自分達はどのチャネルを強めていくべきなんだろうかと考えるためです。訪問者については、さらに分解することができて、どこの流入元から来たのかというデータを見ると、初回のお客さまなのか、既存のお客さまなのかなど、色々なことがわかってくると思います。
コンバージョンレートはあくまでも結果の数字で、業態によっていろいろ変わってくるかと思うのですが、小売業であればお客さまが欲しくなる商材の品揃えがあるか、そしてその商品がわかりやすく魅力的に説明されているかによってコンバージョンは変わってきますのでそこを見ると良いですね。
最後に客単価については、検討する余地が比較的少ないですが、レコメンドとか、関連商品をプラスワンで買っていただくために見ていくといいと思います。

訪問数とコンバージョンレートが基本だと思っているのはお客さまがどこから来てどうチェックアウトして行ったかをまずしっかり見える化して理解していくことが重要だと考えているからです。その後にやっと新しいお客さまは多いのか少ないのか、既存客がリピートしてないんだったらどういうところに課題があるんだろうかを見ていく形になりますね。

「自分ごと」にしないと興味・購買を促すことができなくなった時代

原嶋:
ECでは商品情報が充実しているとコンバージョンレートに影響しますというお話がありましたが、具体的にどのような情報があることによってコンバージョンレートに影響がでるのでしょうか。

堀田:
ECで買いたいというよりは、リアル店舗に行くのが面倒やコロナの影響で出かけられないので、ECでもいいかなという感じで買っているお客さまがすごく増えているなと思っています。そしてそれが定着しつつあるなと感じています。
お客さまはリアル店舗での購入時と同様にECでもいろいろな観点で商品を見ていると思うので、企業側が決めたことだけを最低限説明するというのでは、今のお客さまのニーズはなかなか満たせないと思っています。商品詳細ページという話になりますが、なるべくいろいろな情報を表記しておくというのがすごく大事だと感じています。リアル店舗と比較して、やはりECで買う時にはどうしても心配になる側面が強いと思うので、ECで迷わせないというか、マイナスを極力ゼロに近づけてあげる、最低限の不安を取り除くべきだと思っています。

原嶋:
サイズやカラーが最低限の説明だと思うのですが、不安を取り除くための商品情報には何がありますでしょうか。

堀田:
お客さまは一方的に押し付けられた情報というのはあまり好きじゃないと感じていて、自分に合った情報というものを探していると思っています。例えば弊社だとコーディネートを載せていますが、自分と同じ身長とか同じような体型の人のコーディネートを見たいというニーズが強く、自分と同じような体型の人が着ているサイズ感を見るのが一番安心すると思います。
あとはレビューも見られています。レビューを入れることでコンバージョンレートが上がってきていると感じています。評価が高ければ安心するので、購入の決め手になっていくと思いますね。

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原嶋:
コーディネートは購入の際に大事だと感じてましたが、自分と同体型のモデルさんを利用することで安心に繋がり、コンバージョンレートにも影響があるのですね。

堀田:
そうですね、ブランディングの作り方、お客さまへの伝え方が変わってきています。昔はマスメディアにのせて幅広く情報を流布させるという方法で、みんなに同じ情報を受け取ってもらって、憧れを醸成していくという世界でした。
それがデジタルによって、メディア機能だけなく、そのまま買うという機能も出てきました。お客さまも自分が欲しいものがあれば、さまざまなサイト、アプリで探すようになっていて、1つの場所に留まらなくなっています。今後は個人にフォーカスした情報にしていかなければと思っています。例えばコーディネートだと販売スタッフで人気がある人に発信してもらうことや、モデルもできるだけ等身大のモデルにお願いするなど、お客さまが入り込めるように意識しています。
「自分ごと」という言い方をしますが、そうじゃないと購入までは至らないし、そもそも興味を惹かれないなという感じがしています。

考え方もDXしなければならないという話ですよね。
マスメディアやリアルで行われていたコミュニケーションとは作り方が変わってきているという話です。大量の情報をお客さまは浴びているわけなので、自分に関係ある情報だけを拾っていかないとという風に変わってきています。取捨選別がすごく進んでいるのに、そういうトランスフォーメーションに意外に対応できない企業、ブランド、人っていうのは結構多いような気がしています。昔ながらのコミュニケーションとか伝え方では通用しなくなってるなと感じています。

原嶋:
インフルエンサーが注目される理由はそのトランスフォーメーションのためですね。先ほども少し話に上がりましたが、御社の各ブランドのスタッフもInstagramで発信されていらっしゃいますが、それも新しい伝え方の一つでしょうか。

堀田:
私は元々パルに入社する前、雑誌社にいて、そこでライターとか編集者が発信する「○○が選ぶ○○」みたいなコンテンツが以前よりも随分支持されていて、これからはどんどん個の発信になっていくなというのを体感しました。
パルに入社し、いろいろなプラットフォームが群雄割拠している中で、その中でもInstagramを利用しているスタッフが多いと感じていました。すでにスタッフの中では数万のフォロワーを抱えて、自主的に来店や売上につなげているスタッフも出てきていました。

先ほどのマスの憧れではないですが、当時はブランドイメージを統一するために公式アカウントじゃなきゃという流れがありましたが、プラットフォームの中に入ってしまえば、ブランドだろうが個人であろうが横一線です。お客さまから見て、その人の情報が良ければフォローするし、ブランドの情報がつまらなければフォローしない、そういう繋がり方です。それを考えたら、個人でやりたい人はどんどん率先して発信してもらった方がいいという結論になりましたね。お客さまの趣味趣向も細分化してきているので、スタッフも多様化して発信した方が繋がれる確率も上がってくるなと思い、個人で発信していくというのを会社として推奨しました。うまくいっているスタッフの事例は共有をして、自分でもできそうだとスタッフに思ってもらうように取り組みました。
個人がメディアになっていく時代です。ブランドとか企業というよりも個人に対する信頼性、生身の人間と繋がっていくような情報発信の方が大事になっていくと感じています。

原嶋:
ECでセレンディピティ(偶然の出会い)を創出することは難しいかと思っていましたが、お話を聞いてプラットフォームの活用で創出することができそうですね。

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リアル店舗の役割は初回接点で信頼・安心を与えてエンゲージを高める場所

原嶋:
ここまでEC側の顧客情報を中心にお話ししてきましたが、OMOと言われるECと店舗のデータ連携をしていくことについてはどのようなことを考えられてますでしょうか。

堀田:
コロナの影響で、お客さまがやむにやまれずといった感じで急激なECシフトが起きてきました。まずECを頑張らなきゃいけないっていう時間が1年ぐらい経過して、今までゆっくり考えればいいと思っていたリアル店舗の在り方や店舗の機能をうまく活かしていくことを考えないといけないとなってきていると思います。
お店の価値を測る指標は、本当に売上だけなのか、もっと多面的に店舗のパフォーマンスを図っていく、店舗で働く人を評価していかなければならないフェーズにきていると感じています。

今、店舗をどんどん閉鎖している企業もありますが、弊社のようなリアル店舗発の企業は大きなものを失ってしまうかと思います。リアル店舗の売上が落ちてきても、ECが売れてるからいいじゃないかというのも数字的に見ればあるのかもしれませんが、そもそもリアル店舗に立脚したビジネスだということは忘れてはいけません。

ファーストタッチという面で見るとリアル店舗の存在というのはすごく大きくて、お客さまがブランドを認識し、理解し、そこで安心感を得て、初回のハードルを下げて、ブランドとのエンゲージメントが出来る場だと思います。店舗で培ったエンゲージメントから、2回目以降はECで買う方もいるでしょうし、併用する方もいるでしょうが、いずれにしても店舗の起点というのはすごく強いなと思います。店舗起点なのかEC起点なのかという数字を見ると、やはりどうしても流入経路としては店舗からECへというベクトルが強くなります。
いくらの売上がたっているかだけだと、大きなところを見失ってしまう以前に、そもそもお客さま視点でお店を見ていないと感じてしまいます。それこそまさにデータ化すべきことだと私は思っています。

原嶋:
どういうデータを取得することで、店舗の価値がもっと可視化されていくと思いますか。

堀田:
弊社でもできていないことは多いのですが、初回に購入したという価値はすごく大きいと思っていて、店舗で接客してECで購入された場合に、初回の起点になったお店、販売スタッフを可視化していくっていうことがキーになっていくのではないかと思っています。初回の購入の重要性をしっかり定義していかなければならないと思っています。あとは例えばお客さまに投票してもらうみたいな感じもできますね。どこの店舗がどれだけお客さまとのつながりを作ってくれたのかというものを表すデータになるかもしれません。
これは検討中なのですが、店舗起点でのECの売り上げはその店舗の売上とみなすという仕組みを入れることを考えています。店舗起点の売上を出すときに地理的な商圏なのか、あるいは初回購入からのカスタマージャーニー、初回購入を起点としたものになるかによって変わってくるので、公平性を保って出せるかと言うとかなり難しいとも思っています。

原嶋:
お店を起点としたECでの売り上げの可視化はいいですね。EC貢献費というKPIが店舗側に新しく生まれそうですね。

堀田:
そうですね、結果の数字だけではなく、プロセス理解にもデータをどう使うのかも大事だと思っています。データの意味を社内的に定義して、見る癖をつけてもらうのも重要ですね。
「良いのか悪いのか」みたいなところにばかりに目がいくところですが、事業としての優先順位や各データがどうつながっていることを知ることがデジタル社会のビジネスのチャンスになると思いますね。カスタマードリブンの話とは全然違う意味でもデータって大事だと思いますね。

原嶋:
結果だけではなく、プロセスを見るというのは、相対関係ではなく、因果関係にあって最終的には結果にも反映されてくると言うことですね。
本日はありがとうございました。

■この記事はお買い物スポット情報サイトPathee を運営している株式会社Pathee が提供しています。

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