小売業のDX推進には「商品データの見える化」を進めていく必要がある
新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。またコロナワクチンに関する情報は首相官邸のウェブサイトをご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

小売業のDX推進には「商品データの見える化」を進めていく必要がある

コロナ禍によって、様々な産業でDX(デジタルトランスフォーメーション)が一気に加速しています。そして、小売業界でもデジタル化の勢いは増すばかりです。
ただ、一概に「小売業界におけるDX」と言ってもその捉え方やアプローチは様々あるなかで、Patheeでは「小売業界におけるDX」をいくつかのステップで捉えています。
その上で、まず最初のステップとして重要なのが、店舗に関わる様々な情報をデジタル化し、マーケティングに活かすことだと考えています。
そこで今回の連載企画では、Patheeのマーケティングマネージャーの原嶋が、「いま小売業界がデジタル化するべき情報は何か」をテーマに、最前線で活躍するキーパーソンにインタビューしていきます。

データは取得が目的ではなく、ビジネスにどう活用するかが重要

原嶋:
DXやOMO(Online-merges-Offline)などの言葉が小売業界ではよく話に上がってきていると思っています。
DXもOMOもどちらも顧客情報などのデータの保持をしていることが重要だと思っていますが、川添さんから見るとどのようなデータを取得しておくことが大事だと思ってますでしょうか。

川添:
B2BもB2Cも共通して言えるのは顧客商売である以上、「顧客を理解するための情報」は重要ですよね。
小売業においては、まず小売全般でPOSレジが普及したことによって、POSレジから取得できる情報はすでに持っているというのを大前提に考えていくということがいいかと思います。具体的に言うと販売商品の個数と単価、それら全体の売上が取得できます。
さらに、IDと紐付けできるPOSレジの場合は、IDごとに販売情報を紐付けられます。そして、ポイントの利用をしてもらうことで、個人情報を取得する場合は、メールアドレスや氏名、住所、年齢、生年月日のような顧客情報まで紐付けているという状況は、他店舗展開している企業やITリテラシーが高い個店にでもすでに実装できています。
現金の出し入れのみの「ガチャレジ」はもちろん今でも存在しますのでデータを全く取得できていない企業もあると思いますが。

店舗側ではなく、EC側の話をすると、登録しないで購入できるゲスト注文を許容するかしないかのポリシーが企業ごとに異なりますが、どのECも会員登録の機能は必ずあり、配送に必要な住所、電話番号、氏名、メールアドレスを会員情報として保有しています。
コロナ禍でECを立ち上げた企業も多いと思いますが、この数年では、店舗をメインとする企業でも、ECと店舗の顧客情報を連携して一元管理というのが最近のトレンドだと思います。ただし、これも全体の企業数から見ると、このトレンドに対応しているのは過半数まではいっていないでしょう。いずれにしろ、ここ数年でほとんどの企業は、顧客IDとそのIDが何を買っているかということがデータとして蓄積されてきていると捉えています。
ただしDXやOMOにおいては、もっと多面的な顧客情報があって、それを顧客に対してサービスとしてお返しできることが前提なので、切り分けて理解する必要があります。

原嶋:
DX推進するための下準備はだいぶ蓄積されてきているんですね。小売業界でも業態や扱う商品によって取得できているデータ量の差はでていますでしょうか。

川添:
はい、業態や扱う商品によってムラがあるなのは間違いありません。百貨店に出店する業態の企業だと顧客情報は百貨店が管理することが前提なので、なかなか取得しづらい状況です。また嗜好品の領域でかつ接客時間が長い業界は比較的取得することを意識してきて、ユーザーがセルフで意思決定して購入が可能な業態(コンビニ、ドラッグストア、スーパーマーケット、食品・飲料関連など)、場当たり的な購買の多いブランドでは顧客情報を取得することは難しいです。

取得しづらい業態やブランドの場合は、自社で顧客情報を取得するよりも T ポイントや楽天ポイントなどの第三者のポイントカード系に頼み、IDベースでの情報をもらってマーケティングにいかすという流れもあります、これは一つの解決策としていいと思っています。

原嶋:
必ずしも自分たちで顧客情報を取得する必要がないというお話だったんですが、可能であれば自社で取得する方が効果は最大化されますよね。

川添:
もちろん自社で取得したほうがより細かい情報が取得できるのは間違いないですが、顧客情報をどのようにビジネスに使うか、実際に継続的に駆動できるのかということの方が重要だと思います。そして何より、顧客自身が情報提供に対する更なるサービスを望んでいるかが大前提です。それらの条件がそろわない限りは顧客情報を集めても意味がないと思います。

書籍「アフターデジタル2」*1では、「データは資産ではなく、データを活用できる仕組みがないと全く意味がない。ソリューションとセットになって意味がある。」というような内容が書かれていてすごくしっくりきました。

私の所属するビジョナリーホールディングス(メガネスーパーなどを展開)では「顧客情報とそれを活用すること」は会社のValue(行動指針)として明記されているほど、非常に大事にしています。それはよく考えると、メガネスーパーはその情報を活用できる「仕組みや施策」があるからだと捉えています。そもそも、メガネやコンタクトレンズの場合、前に買った度数のデータや視力や視環境などの情報が接客販売する際の頼りになる情報です。その上で、メガネであれば装用後のフィットアンドギャップが生じたり、コンタクトレンズであれば次の購入機会が来たり、またお客さまの周辺で欲している方がいらっしゃったりと、接客販売時に取得した情報や購買情報を次のキッカケにつなげることが可能です。それを仕組みや施策として活用しているということです。

ベーシックなところでは、Recency (最近の購入日)、Frequency(来店頻度)、Monetary (購入金額ボリューム)の 3 つのデータで見て、紙のDMでご案内をしています。さらにレコメンドトリガーDMという仕組みの場合は、店舗での接客から得た情報に応じて、店舗側でDMのシナリオを変更することが可能で、よりお客さまのニーズに即したクリエイティブにすることができます。いずれにしても、CRMやチラシなどの集客施策、MD、出店なども含めて、顧客情報や購買情報などに基づいて意思決定をすることが多いです。前回どこで買ったか、何を見て買ったかというのも店舗でヒアリングしてるので、広告のアロケーションや競合対策に利用しています。

顧客理解をしようとする姿勢がない企業、顧客情報をしっかり利用するイメージがない企業はデータを利活用できないので、そういった企業にとっては顧客情報の取得によってリスクの方が増える可能性があります。さらにそういう企業ほど「(やみくもに)顧客情報をとにかく集めよ!」と叫んでいる印象があります。

*1  アフターデジタル2 UXと自由 藤井 保文 著:https://www.amazon.co.jp/dp/B08D6B4MJB/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_2S3QFbMQ4V0TG

モノ(商品)の動きの可視化が小売DXには欠かせない重要なミッション

原嶋:
顧客情報の取得が目的でなく、活用することが重要だというのは本当ですね。
これまで顧客情報にフォーカスしてきましたが、他に取得、かつデジタル化をしたほうがいいと考えられるデータはありますでしょうか。

川添:
購買のタイミングで取得できる顧客情報以外のデータでいうと、顧客の行動データや顧客のインサイトのデータ取得は必要になりますね。顧客のインサイトは一人の人間でも商材やタイミングによって変わることが前提なので、どのように解釈して取り入れるかは非常に難しいとは思っていますが。

一方で、B2C事業者、店舗事業者側としては、再現性の高いデータを蓄積した方がよいと思っています。必ずしも私が運用できているわけではないですが、アクションに移せそうで、かつ見ておいたほうがいいデータの一部を簡単に説明します。

・ 行動、商品 × LTV(ライフタイムバリュー)の相関性
どんな行動をするとLTVが高まるのか、またどんな商品(ex:オリジナル商品なのか?仕入れた商品なのか?)を購入するとLTVは高まるのかというようなデータです。
前者はCRMに使えそうですが、後者はMDの話なので効果を上げるのに時間がかかるデータです。LTVが高まると、ビジネスモデル自体も強固になっていくので重要です。

・顧客の声
店舗・ECで取得できる顧客ニーズやクレームなどの顧客の声です。
個の顧客情報として蓄積し、商品開発や接客、お客さまへのサービスとしてお返ししていくことに活用できます。これは量的な判断というよりは、「痛いところつかれたな」と感じたものから対処する方が良いでしょう。また、最近はB2Cでも「カスタマーサクセス」の概念と取り組みが広がってきています。購入時点・その後のニーズやクレームのデータは、購買後の顧客の成功に導くために必要であり、施策だけでなくビジネス全体を見直すことに役立つでしょう。

・販売スタッフの勤怠情報
接客のオンライン化、店舗での接客体験の向上などを背景として、スタッフを指名することが、より小売業界でも進んでいくでしょう。そうなると、誰がどの時間に出勤しているかというデータは、売上にも、顧客の行動にも影響があるでしょう。一方で、これまで勤怠管理は個別に管理システムなどで管理しており、顧客が直接閲覧できるようなフロント系のサービス・チャネルとは連動はしてきませんでした。これを連携していくことで、販売スタッフのスキルを見える化できたり、この販売スタッフがいるなら今日行こうと思ってもらえるようになったりと、売上にも顧客体験向上にもつながってくるはずです。

・モノ(商品)× プロモーションの進捗管理
アパレル業界だと最近STAFF START(スタッフスタート)*2という販売スタッフがオンラインでプロモーションすることによって、チャネルをまたがって売上を最大化し、貢献売上を可視化できるサービスが広まっています。「どんな商品をプロモーションするか?」を個人に任せるかはブランド力やスタンスによりけりですが、プロモーションを最大化するには計画性があったほうがよいでしょう。特に、指名買いの少ないブランドほど計画性が重要です。そこには、モノが納品されるまでのプロセスとプロモーションとして仕掛けるまでのプロセスが一体で管理されていることが必要だと考えています。実際に手を動かす販売スタッフとしては、今日はどの商品のコーディネートを本投稿するのか、それとも準備として下書きにとどめるのかだけわかればよいですが、投稿管理する側としては時系列で投稿を把握できるようになると、プロモーションの効果をしっかり理解でき、改善できることに繋がると思います。

*2 STAFF START(スタッフスタート):https://www.staff-start.com/

上記などのデータは持っていることでさまざまなことが見えてきますので、抑えてもらえるといいなと思います。

原嶋:
非常に参考になる指標ですね。
この中でも優先順位をつけることはできるのでしょうか。

川添:
最後にお話ししたモノ(商品)にまつわる数字は優先度が高いと考えています。小売業においては売上にもっとも影響あるものはモノ(商品)だからです。 プロモーションとの相関をあげましたが、それ以外も企業規模に関わらずモノ(商品)のデータは意外と見える化できていないと感じています。この領域はもっとDXが進まなければいけないと考えています。

モノ(商品)についてはAIでの需要予測をやっている企業も増えてきていますが、まずは「現状のモノ(商品)の動きの見える化」、「過去のモノ(商品)の動きの見える化」の2つが重要だと考えています。

「現状のモノ(商品)の動きの見える化」とは、その時点で回転してる品番、過剰品番、不良品番のデータです。これはフルカイテンという企業などが、SaaS型のソリューションとして提供してきています。ここの数字が見えるようになったら、ムダな値引きを減らし、粗利を増やせる可能性があがります。アパレルのような鮮度が問われる商品は、今日の売れ筋品番が明日の過剰品番になりえることを忘れてはなりません。

「過去のモノ(商品)の動きの見える化」とは、再現性が高そうなデータを蓄積して、次の商品づくりに活かしてということです。例えば、あるEC専業のファッションブランドが10年近く前にやられていたそうですが、商品のカテゴリと着用モデルごとに、時系列での販売量を蓄積することで、企画段階で需要予測にいかしていたと聞きました。
そこまでいかなくても、一般のアパレル企業はその商品が生地・企画がオリジナル、企画のみオリジナル、商品ごと買い付けのような区分に分けることができます。その区分ごとで、プロパー消化率やLTVとの関係性をみるだけでも、MDの改善につなげられるはずです。

スクリーンショット 2020-12-01 10.18.00


顧客ニーズは顕在化されるとさらに合理的な情報を求めてくる

原嶋:
企業が取得していくべきデータについて非常に理解が高まりました。顧客の声というところになると思うのですが、お客さま側から求められている情報はどのように取得していくのがいいのか、またどんな情報を求められているのかを教えていただけますでしょうか。

川添:
最近はSNSなどのプラットフォームや、アンケートフォームは無料で作れるようになってきたので、お客さま側は多くデータを取れる環境になっています。しかし企業側はSNSなどの外部プラットフォームの活用への意識が低いために活用することができていないと捉えています。いずれにしても、自社のお客さまにフォーカスしてみる部分と、大局で見る部分の両方が必要です。前者はあらゆる接点で聞けばよいですが、後者は例えばモノを買う時にはGoogle検索だけでなく、InstagramやAmazonで最初に検索する人が増えているような動きです。Amazonで検索することが多いお客さまにとってはAmazonで出てこないと売っていないとなって機会損失になりえますよね。それを理解した上で、自社としてどのような対応をするかの意思決定をしているかというようなところです。

オムニチャネル観点でいけば、その瞬間に欲しいものがどこで、いつ、いくら(価格)で、購入できるかということを「事前に」把握できるかは重要ですよね。欲しいと思った瞬間に、どんなプラットフォームからでも情報にたどり着け、在庫があればその瞬間に購入や取り置きができるということが、今のお客さまが望んでることではないでしょうか。しかし、情報も在庫も特定の場所にとどまっていて、オフラインの店舗でもA店舗を訪れて在庫がなければ「他店の在庫を確認します」を待たされてしまうというのが現実です。自戒も含めて、企業は顧客の最新の行動を理解して、まずはマイナスをゼロにする対応が必要があると考えています。

原嶋:
お客さまにとってはプラットフォームには欲しい情報がすでにのっているという認識でいる状態ということですよね。

川添:
そうですね。少なくとも、そういった事前の期待があるはずです。そこからさらにニーズが顕在化し、具体性が高いほど、より詳細な情報が欲しいでしょう。
例えば、「DIYしたいから部材の切断をやってくれて、ついでに塗装スプレーを買いたい」と考えていたら、部材のカッティングができる店で、なおかつ、塗装スプレーもできればどこの棚に何があるかのレベルでの情報を求めるはずです。アメリカの住宅リフォーム・建築資材の小売チェーンのホームデポでは、事前に欲しい商品を検索すると店舗での在庫状況がリアルタイムに確認できるだけでなく、その店舗のどの棚に在庫があるかまでもが、ビジュアルで分かるようになっていると聞きます。顕在化・具体化してるということは、なるべく早く欲しいという可能性が高いので、店内の位置のような細かい粒度を求めるということです。

また、ニーズがより顕在化・具体化してくると誰がどのように使うのか、 それに対するサービスが店で提供されているかということも求められる情報になってきます。先ほどの例であれば、部材の切断サービスがあるか?さらにDIYのワークショップがあるか?などの情報が求められるはずです。ちなみに、ホームデポは会員向けにワークショップを開催し、もちろんその参加に関する情報も蓄積しているそうです。
ニーズが細かく顕在化し具体化すればするほど、ユーザーには合理性が働いていくでしょう。デジタルは顕在化・具体化しているニーズに対しては圧倒的に強いので、DXが進むと合理的な買い物はよりスムーズになるということですね。

原嶋:
ECで買うときは商品をある程度決めてからいきますからね。
少し話がそれてしまうのですがが、合理性を求める世の中になった時に店舗はどんな役割になってくるのでしょうか。

川添:
これは日用消費財(欲しいモノは決まっていてもブランド・銘柄までは決まっていない)や自身が選びたくて買う商材かどうかによって異なるでしょう。学術での研究結果によると、店舗での買い物の約80%が非計画購買と言われていますが、顕在化・具体化していないニーズに対しては、店舗によってチャンスが生まれると捉えています。私の解釈では、その中でも「再想起を促す役割」があるのではないかと考えています。さらに言えば、思い出してもらうというのは今の時代に大事なんじゃないかなと思います。

「欲求流去の時代」*3というデータがあって、欲しいと思った瞬間が一番買いたい瞬間で、比較をしたりする時間には欲求がどんどん下がっていき、最後には買いたい欲求を忘れてしまうとあります。別に欲しいものがないわけではないのに情報が多すぎていつの間にか忘れてしまうと言われています。

*3 欲求流去の時代 博報堂https://www.hakuhodo.co.jp/uploads/2016/02/20160223_3.pdf

欲求流去

原嶋:
商品を「欲しい」と思ったにも関わらず買物欲をいつのまにか忘れる生活者が75.1%とありますね。今はモノや情報が溢れているから逆に忘れる傾向が加速するかもですね。

川添:
実は前職のガールズアパレルにいたときに、「(世界のどこにいても)買いたいと衝動的に感じた時に、オンラインのカートに入れられる環境を作りたい」というコンセプトで自社ECの屋号を考え、自社ECをリニューアルしました(笑)。とは言え、「忘れてしまう」のは誰にでも経験があるはずです。私個人の場合も、街を歩いていると新たな出会いと同じくらいに思い出したりすることが多いです。自分が好きな・気になるブランドでも頻繁に能動的なチェックをするわけではなく、たまたまそのブランドの店舗を見た瞬間に何か新しいモノが入荷されていないかなと入ったりするんです。

オンラインにおける再想起に関しては、広告・SNS・CRMがその役割でしょうが、「直近で興味がありそう」というバイアスがかかっているので、「忘れたもの」を再想起するのはなかなか難しいと思いますが、店舗は「思い出させてくれる装置」という意味合いがかなり大きいのではないでしょうか。

原嶋:
再想起は店舗の重要な役割になりそうですね。
データの件とは少しずれましたが、データが溢れた時にお客さまは再想起の場所として店舗を活用する可能性があると意識していくのは大事かもしれないですね。
今回はありがとうございました。


■この記事はお買い物スポット情報サイトPathee を運営している株式会社Pathee が提供しています。

■過去のインタビュー記事はこちら



ありがとうございます!次回の投稿も見てくださいね!