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#72: 天国行きの切符

ここは始発駅

ここから線路は3つ

1つは天国行き

1つは地獄行き

最後の1つは無の世界行き

天国行きの切符を買おうと溢れる人々

「残念ながら、お金が足りません。」

そう言われた男性がなんとかしてくれと

すがりついている

私は眺めながら、死んでもお金が必要なんだ

お金が全てとは言わないけど、

結局世の中、お金か

まさか死んでもお金が必要なんて

地獄の沙汰も金次第

本当だったんだ

私は笑う

「少し違う。その人の徳がお金に換算されるんだ。そして、そのお金で天国行きの切符を買うんだ。」

近くにいた少年に話しかけられた

「詳しいね。徳をお金に換算するって、現世の延長みたいで嫌だな。」

「長くここでたくさんの人を見てきたからね。僕は見えない徳を分かりやすく表現するために金額にするのは面白いと思ったけどね。」

「ここに長くいるという選択肢もあるんだ?」

「ここにいることは出来るよ。でも1日1日お金は減っていく。僕は自分を殺した人間がここに来て、地獄行きの電車に乗るのを見届けるまで、ここから離れないって決めたんだ。でも早く来てくれないと、僕は天国行きの切符が買えなくなる。」

「あなたは天国行きの切符とあなたを殺した相手とどちらを選ぶの?」

「悩んでいるんだ。僕を殺したのは母親。そんな母親のために僕が一緒に地獄に行ってあげるなんて、バカらしいよね。」

「お母さんに会いたいの?」

「会いたいのかな?事情があろうと僕を殺した母親の地獄行きは決定だろう。そんな母親の最期を今度は僕が見届けたい。」

優しい少年だ

少年は母親を恨みきれていない

少年は気付いていない

一緒に地獄に行ってあげると言ったことに

「何度も天国行きの切符を買うべきだと説得されてきた。正解がどちらかなんて分かっている。だけど、自分で選びたい。だからギリギリまで僕は悩む。」

「あなたが決めたなら、他人が口を出すことじゃない。たとえあなたが間違えた選択肢は選ぼうとね。」

「お姉さんも間違えた選択肢を選ぼうとしている。僕よりよっぽどバカだね。」

「そうだね、あなたとここで過ごすのも魅力的だけど、私は行こうかな。」

「さようなら、バカなお姉さん。」

「さようなら、優しい少年。」

少年と別れを告げ、私は電車に乗り込む

乗車権も必要なく、誰も乗っていない電車に

「あなたは天国行きの切符を買えるのにこの電車を選ぶのですか?」

頭に直接声が届く

天の声というものか?

はじめて死を感じられた気がする

私はまた笑う

「えぇ、この電車で良いのです。私のお金をあの少年にあげてほしい。」

返事はない

徳だろうとお金で天国行きの切符を買うなら

私はこの電車を選ぶ

死んでもひねくれた性格は直らないらしい

電車が動きはじめた

流れる車窓をみながら

銀河鉄道の夜を思い出した

本当の幸い

少年はジョバンニ

小説のように現世には戻れないけど

葛藤しながら、最期まで幸いを悩むのだろう

カムパネルラの幸いは正しいのか

ずっと疑問だった

どちらでも良いか

私は母を待つあの少年の幸いを祈ろう

それが私の最期の幸い

私は1人、無の世界へと旅立つ


【あとがき】
 乗車権は誤字ではなく、BUMP OF CHICKENの乗車権という曲から頂きました。バンプの中で衝撃を受けた曲。ぴったりな言葉だと思った。駄作に使うな!とBUMP OF CHICKENのファンの方、怒らないで下さいね💦

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