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モンスターはなぜ生まれ、誰が犠牲に? 韓国映画【グエムル-漢江の怪物-】

noteの記事もようやく20作ほど溜まってきたので、そろそろポン・ジュノ監督作品を一つ取り上げようと思います。
2006年公開のモンスターパニック映画【グエムル-漢江の怪物-】です。観客動員数1,300万人を突破した大ヒット作です。

【あらすじ】
漢江から突如上陸した黒い両生類のような怪物(グエムル)は、河原の人々を捕食殺害し、露店の男カンドゥ(ソン・ガンホ)の娘、ヒョンソ(コ・アソン)を捕まえて水中へ消えた。ヒョンソは怪物の巣の下水道から携帯電話で助けを呼ぶ。一方、在韓米軍は怪物は未知の病原菌を持ち、感染したとみられるカンドゥを捕えようとする。カンドゥと一家はヒョンソを救う為に追われながら怪物を探す。(Wikipediaより)

ポン・ジュノ監督の映画を最初に観たのは殺人の追憶だったので、あまりにもベクトルが違うので「なぜにモンスターパニック映画なの?」と混乱したのですが、天才はジャンルなど関係ないのですね、色々と圧倒されました。

川沿いで露店を営む一家が主役です。祖父、父、娘に、父の弟、父の妹の5人家族。娘を溺愛し、金髪でうだつが上がらなそうな父がカンドゥ(ソン・ガンホ)で、父の妹がアーチェリーの国体選手であるナムジュ(ペ・ドゥナ)。父の弟、ナミルは大学出ながらも失業中。揃いもそろってどこか抜けていて、あと一歩何かが足りない。ボンクラ感漂う家族なのです。

そして、いつものようにカンドゥが父と共に露店を営業していたところに、突然川から怪物(グムエル)が現れて、人々をバッタバッタ倒して食べていくのです。もう、川沿いは大パニック。その中で、カンドゥの娘のヒョンソもグムエルに連れ去られてしまいます。

このグムエルは、駐韓米軍基地の医師がホルマリンを下水に流して捨てたことで生まれました。実際に2000年に在韓米軍が大量のホルムアルデヒドを漢江に流出させた事件が起こっていて、それを風刺しています。

多くの人が亡くなって体育館で合同葬儀が行われるのですが、その遺影の中にはカンドゥの娘の姿も。残された家族4人、悲しみを爆発させて、絶望の極み。…のはずなのですが、この映画、なんだかおかしいのです。

確かに家族は死ぬほど悲しんでいるんですが、カメラはその姿をどこか滑稽に映している。まるでコント番組を見ているかのように。そもそも、前半は悲劇的な展開がずっと映し出されているはずなのに、家族のキャラクターも相まってコメディ的要素がふんだんにあり、どうしても悲しみや恐怖の方に気持ちが持っていかれないのです。

ポンジュノ監督はもちろん意図的にそういう作りにしているのですが、観ている側としては情緒が変になって、どうとらえていいのか混乱します。だけど後半、「このちょっと笑えるボンクラ家族」の印象が、めちゃめちゃ効いてくるのです。

グムエルに接触した人からウイルスが発見され、カンドゥをはじめ隔離されることになるのですが、そこで携帯電話に娘から電話がかかってきて生きていると確信した家族は、隔離施設から逃げ出して彼女を救い出そうとします。

そこからまた、作中のテイストが変わってきます。力もお金もなく、逃亡犯で指名手配されながらも、それぞれが自分の得意な分野を生かしてまるでバトンをつなぐように、ヒョンソを助け出そうと全力を尽くすのです。彼らのボンクラ感を知っているからこそ、その純粋な姿に胸を打たれます。

そして、「世間一般では彼らはダメだと思われてるかもしれないけど、本当は全然ダメじゃないから!」と、パラサイトしかり、格差社会の下流にいる彼らに、いつもながらのポンジュノ監督の優しい視点を感じて胸が熱くなりました。

超娯楽大作でありながら、どこか奇妙で一筋縄ではいかない…。それなのにクオリティはめちゃくちゃ高いという、さすがの作品でした。結末はかなり意外な方向にもっていくし、緩急が激しいので、情緒があっちこっちに動いて変な感じにはなりますが(笑)、噛めば噛むほど味わいのある映画だと思います。

極私的スキ度★★★★★★★★(8)

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