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【注意喚起】こんな広告の特許事務所にご注意ください

特許事務所の広告は日本弁理士会の会則で制限が課されています

 特許事務所は自由に広告を打つことができますが、その内容には日本弁理士会の会則でさまざまな制限が課されています。私は弁理士試験合格後の実務修習(登録前の事前研修のこと)の期間中に、特許事務所の開業に備えて自分でホームページの作成に取り掛かっていたのですが、その実務修習の弁理士倫理という科目で「広告・宣伝に関する事例」という講があり、その中でまさに「会則違反の広告」についての説明を受けました。このページでは、実際に「会則違反の広告」の実例として説明された3つのパターンについてご紹介します。

広告中に弁理士の名前がない→会則違反

 弁理士はその広告中に自分の氏名を表示しなければなりません。実はこれ、非常に難しいです。というのも、この規程は雑誌や新聞などの四角形の枠を買い取る写真付き広告のようなものを想定しているのではないかと思うのですが、ネット広告が主流の今日では文字だけの広告(ヘッドライン型の広告)というものもあって、そうなると文字数の制限がきついのでさすがに「自分の氏名」のためだけに4〜6文字を使うというのはやっぱりもったいないのです。
 でも、決まりは決まりです。フィラー特許事務所ではヘッドライン型の広告としてGoogle広告を利用させていただいていますが、例えばこのような広告を出稿しています。

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 この広告は、キャッチ部分(広告の本質部分)に28文字、事務所の名前に9文字、私の名前に8文字を割いています。つまり、この会則を守ると1/3から1/2の広告枠を「自分の名前」に使用することになります。確かに現実的ではないのかもしれませんが、特許事務所は専門サービスを提供する業種ですから、自分の名前を知ってもらうという意味でも広告の大部分が自分の名前で占められるというのもそれほど本末転倒な事態とはいえないのではないかというのが私の意見です。

登録率95%というキャッチーな見出し→原則会則違反

 誇大、過度に期待を抱かせて顧客を誤導・誘導しかねない広告は禁止されています。その具体例として「登録率95%」という記載が私たちの使うテキストには紹介されています。そのような広告の裏では、登録になりそうのない出願を断ったり、途中で権利化を放棄させたりすると言ったことがあるかもしれません。そもそもそのような統計のカウント期間もわかりませんし、もしかしたら「登録率95%」というのはその特許事務所歴代の瞬間最大風速かもしれません。
 一応顧客を誤導・誘導するおそれがないのであれば会則違反とはならないのですが、このような統計値の数字はいかようにも調整することが可能なため、特に「弁理士倫理上」の問題で「こういう見出しは使わないように」と忠告されています。

お客さまの実名入りの実績アピール→条件付きで会則違反

 広告では「お客様の声」と「過去の導入事例」がテッパンの要素であることは間違いありませんが、弁理士は原則として「顧客の実名入りの実績広告」を出すことができません。理由は色々と考えられますが、特許事務所は販売前の機密情報を専門的に扱うところですから、どうしても産業スパイやサグりの対象になりやすく、あってはならないことですがライバル企業を貶めるための金銭のやり取りが生じないとも限りません。
 最近では、YouTubeなどの動画編集でも「誰にそれを外注しているか」という情報が漏れて問題になることがあります。そのため、特許事務所に限らず秘密を取り扱う業種では「誰がどこに仕事を依頼しているか」という情報はトラブル回避のために極力伏せておくことが好まれるのです。
 とはいうものの、書面できちんと同意をとっておけば「実名入りの実績広告」を出すことはできます。そのため、必ずしも会則違反となるわけではないのですが、原則として「実名入りの実績広告」は禁止されています。将来的にその特許事務所の実績広告としてあなたの社名を掲載させて欲しいというお願いを受けることもあるとは思いますので、「顧客の実名入りの実績広告」は原則として禁止されているということは一応念頭にいれておいていただけると良いのではないかと思います。

おかしいなと思ったら近寄らないで報告を

 実際に私は自身のホームページ作成の際に複数の特許事務所のホームページのコンテンツを参考にさせていただきましたが、その中で「広告中に弁理士の名前がない」広告をされている事務所は意外と多くありました。そして、登録率95%というキャッチーな見出しや、お客さまの実名入りの実績アピールをコンテンツ中に掲載されている事務所も実際にいくつか確認されました。
 確かにこれらに違反しているからと言って直ちに信用ができないとか、具体的な問題が生じると言ったことはないのだと思いますが、実務修習の講師をされている先生方の様子では、やはりこのような「会則違反の広告」の存在を快く思っていないようで、「これから弁理士になるみなさんが将来自分の特許事務所を開設する時には、是非会則にもきちんと目を通し、きちんとした広告をされるようになってほしい」というメッセージをいただきました。
 このような「会則違反の広告」が生じる原因として、特許事務所の経営者によるホームページ内のコンテンツや広告の校閲にあまり時間がとられていない、ホームページ作成業者や広告代理店にある程度裁量を与えてその運営を任せているという実情もあるものと思われます。
 しかし、健全な競業秩序の維持のためには広告の公平性は非常に大切であると思われますし、日本弁理士会も「会則違反の広告」には頭を悩ませているという実態があるのも事実のようです。みなさまも、もし例に挙げた「会則違反の広告」に遭遇された際は、いったん冷静にその内容をご確認いただき、もしユーザー目線で「これはおかしいな」と思われるものを発見されましたら、日本弁理士会にトラブル相談窓口というものがございますので、念のため「ユーザーの見解」としてお知らせいただきますようお願い申し上げます。

弁理士 中川真人(フィラー特許事務所@大阪梅田