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【商標法2条7項】個人輸入は正規品でもダメなのか?

個人輸入品の税関差止は偽ブランドに限らない?

 先ほど、偽ブランドを個人輸入しようとしても、商標法が改正されたことでこれからは税関で差止されて届かないなんてことがあるかもしれないというお話をしました。確かに経済産業省が発行している資料では、法改正の目的にはっきりと「偽ブランドの国内流入阻止」を掲げています。
 そうなんですが、法律家として私がどうしても気になるのはあくまで商標権の侵害品が対象だと言っておきながら、個人輸入を商標の使用行為として商標法第2条第7項で「輸入」の一種に定義づけしたことです。わかりやすくいうと、正規品であっても税関で差止される可能性があるということです。

正規品の輸入差止は現実にあり得るか

 なぜなら、資料の目的通り「偽ブランドの国内流入阻止」だけを行いたいのなら、侵害の定義として「…他人をして持ち込ませる行為」を定義すればよかったはずです。
 ここは理解が難しいところですが、商標の使用行為(商標権者に認められている行為)と、侵害行為(第三者が商標権者に無断でやってはいけない行為)は別々に規定されています。つまり「…他人をして持ち込ませる行為」は、第三者が商標権者に無断でやってはいけない行為として規定されたのではなく、商標権者でなければやってはいけない行為として規定されているのです。
 わかりやすく言えば、外国のECサイトで売られている「iPhone®︎(アイホン株式会社及びアップルの登録商標です)」を、日本国内から注文して購入したとしても、税関での差し止め対象となり得るのです。これをしていいのは、商標権者であるアップル本人だけだというのが商標法第2条第7項の厳密な解釈です。
 とはいうものの、正規品で適法に譲渡された製品でありかつ無加工なのであれば、それをそのままの状態で第三者に譲渡(この場合は輸入)する行為に商標権の効力が及ぶという解釈は行き過ぎなので(これを商標の機能を害さないといいます)、さすがに正規品の税関差止は非現実的ではないかと思われます。
 では、「…他人をして持ち込ませる行為」を商標の使用行為として定義した商標法第2条第7項は一体何を目的に制定されたのでしょうか。ここからは、完全に私の自説を展開しますが、参考として聞いてください。

知的財産をめぐる代表的な貿易摩擦

 昔から、鉄鋼や自動車関連事業は、日本と外国における典型的な貿易摩擦の火種でした。それと同じように、知的財産をめぐる代表的な貿易摩擦の火種というものがあり、それがITと医薬品です。
 医薬品は、人道上の観点からある地域にかぎり薬価を大きく下げて流通させたり、多くの国では認められていない成分を含有した医薬品を局所的に流通させたりという措置がとられていることがあります。また、医薬品の特許はどうしても先進国が権利を独占する傾向が強いため、多くの発展途上国では自国の産業を守るために医薬品を特許の対象にしていないという政策をとっている国も多くあります。日本も、1976年までは医薬品を特許の対象にしていませんでした。
 そして近年、偽ブランドの個人輸入と並行して「正規品の医薬品の個人輸入」が問題視されてきました。医薬品は正規品であっても輸入には薬機法の規定により特別の制限がかかっているものがあり、というかそれが大半で、外国で流通している正規の医薬品が個人使用目的と称して大量に国内に輸入されるという事例が確認されはじめているのです。
 もしかしたら、このような医薬品類の違法な個人輸入を差し止める手段の一つとして、商標法違反という方法を用意したのかもしれません。薬機法で補足しきれなかった分を、商標法でカバーしようというわけです[根拠文献なし・あくまで自説]。
 他にも、補完的輸出規制(キャッチオール規制)という問題もあります。わかりやすくいうと、兵器開発につながる物品の輸出規制ですが、これらも個人の荷物に見せかけた国際流通を阻止する必要があります。
 「兵器開発につながる物品なんて個人が持ってるのか?」とお思いかもしれませんが、この記事を読んでいるスマートフォンやノートパソコンも立派な兵器開発につながる物品として、流通を制限している地域は存在しています。これらも、場合によっては日本を経由する流通を商標法でカバーできるかもしれません。

国際信義にかなう真のグローバル化を

 少し話が大きくなりましたが、このように商標をめぐる国際流通の摩擦は近年ますます強くなっています。しかし、これはある特定の国家間の利害の衝突というよりかは、国際信義のもと各国が協力しあって違法な(不適切な)物品類の国際流通をなんとかして阻止しようという、むしろポジティブな国際問題ではないかとも考えられます。
 経済のグローバル化が叫ばれ出して約四半世紀が過ぎようとしていますが、真のグローバル化のためには、利益だけではなくこう言った「国際信義に基づいた協力姿勢」についても、十分な配慮を行うことも含まれるのではないかと思います。

弁理士 中川真人(フィラー特許事務所@大阪梅田

1806 医薬品・化粧品等の個人輸入について(カスタムスアンサー)
安全保障貿易管理について - 経済産業省