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旅の支度

そろそろ私をミイラにする作業が終わる。

私はこのエジプトの王女だ。
正確には「だった」
病気か事故かなぜ私は死んだのかは忘れてしまったが、若くして死んでしまった。
父も母も嘆き悲しんで死出の旅に最愛の王女として出るのにふさわしい葬儀をしてくれた。
最高級の扱いで私の体をミイラにしてくれた。
そしてその作業ももうじき終わる。
作業員たちも私が死んだことを残念に思ってとても丁寧な作業をしてくれた。
ミイラとして最高の仕上がりなのではないか。
それほど作業員たちは見事な仕事をしてくれた。

私は生前とても慕われていたらしい。
両親からも臣下からも民衆からも。
名もなき下々の者たちも私が死んだとき皆とても嘆き悲しんでくれていた。
どのような善行をしたのかはもう忘れてしまったが、死んでもなおこのように皆が残念がってくれているのはとてもうれしく思う。
私は死んだことにそれほど後悔の念は感じないが、これほど悲しんでくれている姿を見ると生前自分がしたことは間違ってはなかったのだなとうれしく思う。
もう断片的にしか記憶はないが、それでもかすかに覚えていることは幸せな時を過ごしたということ。
それは忘れることはないだろう。

そろそろ最後の一巻きが終わり、すべての作業が終わる。
そして私はアヌビス神とオシリス神の判定を受けるために冥界へと旅立つ。神々の判定を受け、また再びもどってくるとき私の体が必要になる。
再び戻ってくるその時のために私の体はミイラとなって豪華な副葬品とともにしばしの眠りにつくのだ。

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