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落日

その時は近づいている

私はこの花の都で支配者の主人に仕える侍女。
私の主人は女性で老境の年に差し掛かり、若かりしときよりもわかりすぎるほど衰えてきていた。
この地を支配し始めたころは一族も仲間も沢山いてにぎやかな時だったのだろうと想像できた。
だが今は一族は死に絶え、残るは私の仕えるこの女性ただ一人となってしまった。
咲き誇る花のように繁栄を極めた一族も今はもう過去の遺物となり、ろうそくの炎が消える前の最後の輝きを放った後のような、誰にももうどうすることのできない最後の時を迎えていた。

主も最初から当主も座に就くことは想定されておらず、わが主には男の兄弟がいてその方が党首になることが決まっていたからだ。
ただその方が当主の座に就きどうにか一族は安泰だと思われていたが、後継ぎに恵まれることなくその当主は亡くなってしまった。
また運の悪いことに親せきにも男性に恵まれず、諸外国の干渉を受ける羽目になるような男しか残っていなかったので、亡くなった当主の姉君であるわが主が当主となった。
わが主も結婚はしていたが子供には恵まれず、党首の座に就くことが決定したとき最後の当主となることは決定事項となった。

そして主以外の人物が次々と亡くなっていき最後の一人となった今、主は一族の財産、長年にわたって支援してきた偉大な芸術家の作品をどうやったら海外に流出しないでこの町に残すことができるのか、そのことだけに集中している。
一族の繁栄と存在の証であるこの膨大な芸術群を故郷であるこの町に残し、栄光の足跡を残そうと考えたのであろう。
自分がいなくなってもこの芸術が一族のいた証となって永遠に輝き続ける、そう考えたのだ。

私はただ黙って主のすることを見届けた。
そしてこの偉大な芸術品は数世紀たったのちでも輝き続けている。

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