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ある女性の生き方

私は浜辺に立ちあの人の帰りを待っている。

私は名もない小さなこの漁村で生まれた。
物心ついた時から家族と一緒に漁の手伝いをして育った。
小さな村だったから家族と村のみんなとともに協力していかなくては生きてはいけない、そんな貧しい村だった。
男たちは船に乗って漁に出て女たちは陸でその帰りを待つ、それが当たり前の暮らし、生き方だった。
この小さな村の中で私は育ち、同じ村の男と結婚した。
一生村から出ることはない、けれどそれを悲しいとは思わなかった。
この村以外での生活など想像できなかったし、想像しようとも思わなかった。
幼馴染ともいえる男と結婚したのもある意味当然のことでなんの疑問も持たずただ成長したから村の男と結婚した、ただそれだけだった。
結婚したからと言って生活は変わることなく、夫は海に漁へ出かけ私は陸で漁に出た夫の帰りを待っていた。
そしてある日夫はいつものように漁へ出て帰ってこなかった。
何があったのか、何が起こったのか、陸にいた私には全くわからなかった。
毎日浜辺に立ち夫の帰りを待っていた。
晴れの日も雨の日も風の強い日も日差しの強い日も。
私は待った。
けれど夫が戻ってくることはなかった。

けれども私はこの浜辺で待っている。
いつかまた会えることを信じて今日も私はここで一人待っている。



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