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見ざる聞かざる言わざる

聖母マリアよ、私をお守りください。

いらない、こんな力はいらない。

どうして私にこのような力があるのか。


小さいころから私には人とは違うところがあった。
他の人が見えていないものが見え、聞こえない声が聞こえていた。
まだ幼かった私は思ったままに周りの大人たちに聞き、長じるにつれてそのことを口に出してはいけないのだと折檻されるたびに理解していった。
幼いころは家族や近所の人たちなど、とても近しい人たちだけだったので見えないものが見えることを話しても折檻されるだけで済んだ。
大人になるにつれて交友関係は広がり狭い共同体内での生活にはとどまらなくなってきて、私は人とかかわりを極力持たないようにしてきた。
私以外にも同じような力を持つ人はたまに表れて、そして悪魔と契約したものとして処刑されていったのだ。
彼女・彼らはその力を使って困っている人を救いたいと実際に実践し、そしてその人たちから告発されて捕まりそして死んでいった。
彼らは目の前で困っている人がいたら見過ごすことができなかったのだ。

だが私は違う。
たとえ目の前に困っている人がいてその解決法が私にはわかっていたとしても、私は教えることはしなかった。
霧の中道に迷って崖の上に向かっていてそのまま進めば落ちて死んでしまうような状況になっているのがわかっていても、崖ではなくふもとの町へ続く道はこちらだとわかっていても私は教えることはしなかった。

何人の人間の転落していく人生を見てきたことだろうか。

救える命を私は救わなかった。
誰かを救って代わりに死ぬなんて私にはできなかった。
私は死にたくない。

この能力が知られないためにも私は一生を独身で過ごし、何人もの変えられることのできた人生をただ見るだけの傍観者として見られるだけ見て、

……私は天寿を全うした。

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