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最後の日

あの日、皆が幸せだった。

あたしは山のふもとに住む村の一人で、旦那と子供と義両親と暮らしていた。
旦那と一緒に畑を耕し作物を育てていた。
あまり肥えた土地ではなかったので家族が暮らしていくぐらいの量しか取れなかったが、家族が暮らしていくにはどうにか暮らしていけていた。
農閑期には山の上にあるお城へ手伝いに行って駄賃をもらって生活費の足しにしていた。
手伝いというのは何か祝い事やお城に人がたくさん集まるときの炊き出しの手伝いとか裏方の仕事で、今日は何か重大な祝い事があるというのであたしもお城へ手伝いに行った。
ちらとお城のえらい方たちを見ることができたけど、皆とても楽しそうだった。
見ているあたしもなんとなく嬉しくなってはりきってご馳走を作る手伝いをした。
こういう時はお駄賃も結構いただけるし、あたしたちの暮らしを守る人たちが楽しそうにしているのは下っ端のあたしたちもなんとなく嬉しくなる。
あの瞬間は皆が幸せだった。

宴会の途中で大きな地震が起こり、城は大きな揺れのあと山津波に巻き込まれた。
城の中にいたあたしたちも逃げる時間などなく城の崩壊に巻き込まれた。
山津波は山の上の城だけではなくふもとの村も巻き込んで一瞬のうちにすべてを飲み込んだ。
城の中にいたあたしもふもとの村にいた家族もほぼ同時に泥の中に引きずり込まれた。
城も村もすべて流されて、生き残ったのは村にいなかった人だけだった。
本当に城や村があったのかと思うほど何もかも飲み込まれて流されてしまった。

そしてすべてが流された後、この地に城が再建されることはなく人々の記憶の中からも城もあたしたちの存在も、静かに消えていった。

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