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出航

もうすぐ船が出航する。
新人の船乗りとして僕もこの船に乗っている。
船も僕も初めて海に出る。

時は大航海時代。
各国が大西洋の向こう側に向けて船をどんどん出航させている。
国同士の思惑も複雑に絡み合って、この世の覇権をめぐっていろいろな駆け引きを巡らしているそんな時代。

僕は船乗りの見習い。
見習いといっても下っ端だからいろいろな雑用をさせられている。
ちゃんとした航海技術を学んだわけでもないから船を動かす方法も全く分からない。
下っ端だし雑用係として雑用をさせられるのは当たり前のこと。
僕は全く気にならない。
船に乗っていればいろいろなことを学んでいけるし、いつかは自分の船を持つための準備期間だと思えば全然苦労ではない。
この船では自分は最年少だけれど、年長の人たちに負けないくらい働いていると思う。
もう何回も海に出ている船乗りたちに交じって足手まといにならないように周りを観察しながら働くのは結構難しい。
邪魔だと怒鳴られることはしばしばだ。
でもいつか自分の船を持つという夢のため、どんな苦労も全然苦にならない。

船の舳先に立って目の前に広がる大きな海原を見る。
島影一つ見えない。
世界はこんなにも広いのかと胸がいっぱいになる。
窮屈な地上でせせこましく生きることはもうできない、あまりにも閉じ込められた世界だったとつくづく感じる。
国のえらい人たちが何を考えているのかは自分には関係ない。
船に乗る機会を与えてくれたことは感謝するけど。
ただ僕は海に出るだけ。


甲板に立ち一人でこの青く広い海を見ている。
自分の未来はとてつもなく大きな希望に満ち溢れている。


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