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大人になって読み返したメダロットがさながら手塚漫画だった

 1995年、ポケットモンスターが発売され、子供らはポケモン達に熱狂した。1997年にはポケットモンスター金銀が発売されて、ポケモン熱は最早老若男女を問わずひとつの社会現象として列島を巻き込んでいった。
 当時は今みたいな誰でもインターネットに簡単にアクセスできる環境ではなく、アナログツールの力がまだまだ強かったので、ポケモンに関する情報やポケモンの漫画が充実している雑誌は売れに売れた。なので当時小学生だった私の周りはみんなコロコロコミック愛読者だった。

 そんな中、私は猛烈少数派であるコミックボンボン愛読者だった。理由は2つ、捻くれた子供だった(そしてそのまますくすくと捻くれた大人に育った)私は逆張りがカッコいいと思っていたからと、ゲームソフト「メダロット」が大好きだったから。

 メダロットもポケモンと同じRPGで、ロボトルによりメダルの経験値を積みレベルを上げて強くしていく喜びと、ロボトルに勝利することで相手からパーツをもらえるのでそれをコレクションする楽しみがあり、差し詰め男子特化型ポケモンといったゲームである(ロボトルとかメダルとかの説明は後述)。ポケモンも好きだったのでコロコロも読みたかったが、「いや、オレはボンボン派よ。メダロット愛あるし」などとのたまい、ポケモンに後ろ髪を引かれる想いを振り切るようにメダロットとボンボンに没頭した(ちなみにポケモンもちゃっかりプレイしていた)。

 マンガ『メダロット』はほるまりん先生の独特なタッチと台詞回しが魅力で、ロボット好きな男子のハートを鷲掴みしていた。
 ジョジョの奇妙な冒険みたいに共通の世界観の中で時代の変遷とともに主人公が変わるスタイルで、私はいわゆる天領イッキ直撃世代(主人公の変遷:あがたヒカル→天領イッキ→テンサンコイシマル)だが、今気づいたけど「いわゆる」というほど「天領イッキ直撃世代」って誰も言ってない。

 そんな漫画『メダロット』が新装版となって発売されることが分かり、幼少期の熱を思い出して新装版メダロット ヒカル編と新装版メダロット イッキ編1〜4巻を購入した。

 漫画におけるメダロットに共通の世界観は以下のとおり。

 地層奥深くから謎の物体が発掘された。学者たちはそれらを六角貨幣石(通称:メダル)と名付けた。六角貨幣石はその名のとおり六角形のメダルであり、メダルの中に膨大な情報が含まれていることが分かっている。なお、メダル表面にはそのメダルのパーソナリティを表す絵(主人公の持つメダルはカブトメダルと呼ばれ、幼虫の絵が描かれており、作中で成長することで絵が成虫のカブトムシに変化する)が描かれている。
 科学者のアキハバラアトム(メダロット博士)は膨大な情報量を持つメダルをはめる骨格(通称:ティンペット)と、その骨格に頭部、右腕、左腕、脚部の4種類のパーツをつけることで自我と知能を持ち自立して行動することができる「メダロット」を開発した。
 メダロットはメダルにより自我を得るため、所有する人間にとっての友達として、またメダロット同士を闘わせる(通称:ロボトル)ことでメダルに経験を積ませたり負けた者が勝った者にメダロットのパーツを譲渡するルールを設けることでコレクション要素があったりとした玩具として、世界中で大流行した。
 しかし、そもそもなぜ地層からメダルが出土したのか、なぜメダルに自我や知性があるのか、その謎は(公的には)分かっておらず、現在も研究が進められている。

 この『メダロット』、読み返すと子ども向け漫画雑誌に連載されていたとは思えないくらいテーマが深い。

 あがたヒカル編は、
世界征服のために暗躍するロボロボ団とそれを取り締まる自警団であるセレクト隊が実は同じ母体(セレクト隊の隊長タイヨウとロボロボ団リーダー格タイフーン)であり、メダロットを使ったテロ事件「魔の十日間事件」が発生。それを食い止めたのはヒカルを始めとした子どものメダロッター達だった、
みたいな内容なのだが、物語の途中で主人公ヒカルの愛機メタビーが作中のボスメダロット・ビーストマスターの攻撃により、胸部から上のパーツを破壊されてしまうシーンがある。先述のとおり、メダロットの脳にあたるメダルをティンペットにはめることでメダロットは自立したロボットとなるのだが、それをはめる場所はティンペット胸部の裏側にあるので、メダルもコア部分は無事だったものの大破してしまう。言わばひとつの生命の死である。
 さて、メタビーを助けるためにそのメダルを復元させようと奔走するヒカルと友人たちだが、そんなヒカルにメダロット博士は次のように語りかける。

「死んだ者を生き返らせるというのは・・・どのような理由があれ命を操作するというのは・・・どうだろう。残酷に聞こえるかもしれんが君のしようとしていることは・・・若いモンにはちょっとむずかしい話か・・・・」

 いやいやいや、ちょっと、そんなこと言わず不思議な力ですっと治してあげて?人間じゃなくてロボットの人工知能的な部分の話よ?ボンボンよりは対象年齢の高い少年ジャンプで連載されてたドラゴンボールでは人間がびっくりするくらい蘇生されてましたけど!!??ポルンガなら何度でも生き返らせることができるじゃない!

「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね・・・・・・・・・」

 これはブラック・ジャックの恩師である本間丈太郎先生が、死にゆく間際にブラック・ジャックに言った言葉である。
 ほら、医療漫画の金字塔が僕らに伝えてくれた生命倫理と同じこと言ってるもん、メダロット。というか漫画メダロットはそもそも世界観やメッセージがほぼ鉄腕アトムなところあるので当然手塚漫画に寄せてるんだとは思うけど。

 新装版メダロット イッキ編1~2巻はヒカル編から13年後の世界の物語。自我を持つメダロットが家族や友達同然で人間と共存する世界で、本作のボスであるヘベレケ博士がメダロットの自我を奪い忠実に人間の指示どおり動く兵隊にする技術を開発しそれを実践してテロを起こす。メダロット博士たちと一緒にテロに立ち向かうイッキ。ヘベレケから「メタビーを超えること」と命令を受け、崩れゆく浮遊艇で避難もせずメタビーにロボトルを仕掛け続ける宿敵・ラスト。果たしてヘベレケ博士の思惑を阻止することはできるのか!?
・・・こんな感じの内容だが、「ヘベレケ博士は世界征服のために都合がいいから自我を持たない兵隊を欲しくてそんなことしているのか。悪い奴だ。頑張れイッキ」って思って読んでいると、ヘベレケ博士の思想が明らかに・・・。

「おまえはメダロットに人のような自我を持たせるべきだと本気で思っているのか?」
「機械に自我を持たせるなら彼らが人間に背をむけるかもしれんのだぞ。友人(メダロット)と敵対することになったらお前はどうするアキハバラ(注:メダロット博士)」
「自身の行動になやむ・・・実に人間的な存在だな。自我を持つ。それがメダロットの当然のなりゆきだ・・・そんなことは私だってわかっている。だが、だからこそ問題なのだよ」
「いつか人は彼らを脅威に感じるようになる。おまえだってわかっているはずだろう。ただの機械でいるほうが幸せかもしれんぞ。違うかねアキハバラ」

 ちょっと、ちゃんとメダロットを友と想う姿勢があって、そのうえで自我を奪って敵対するという修羅の道を行ってんのかい。ヘベレケ博士の中でメダロットとの付き合い方の考察は何周もしてるんでしょうね。
 自我を持つメダロットを信じて共存する道を選んだメダロット博士、自我を持つことで友だったメダロットが人間と敵対する悲しい未来を未然に防ごうとするヘベレケ博士・・・今、仲良くしている相手が突然敵対する日が来るかもしれない、そしてその相手が敵対したとき、能力的に自分は確実に負けてしまうことが分かっている、そんな相手の自我を御することができるとしたら私ならどうするだろうか。
 なお、この問題、ほぼ鉄腕アトムです。

 ちなみにこのあと墜落していく浮遊艇に一人取り残されたヘベレケ博士を助けるために、自我を奪って兵隊となっていたはずのラストがやってくるのだが、このあたりの展開がものすごくアツいのでぜひ読んでほしい。悪役のヘベレケ博士のことをちょっと好きになるので。

 新装版メダロット イッキ編3~4巻は、メダロットの起源について明らかになる物語。なぜ六角貨幣石が地球の地層から出土したのか。そもそもメダルは、メダロットはいかなる目的で世に広まったのか。
 この物語の核となる謎を、帰化生物の存在により破壊されていく生態系の問題、ひいては生物とは、命あるものの宿命とは、といった主題とからめながら展開していく。
 これを小学生が読むとしたら主題が深すぎてもうお手上げじゃないか?と思ってしまうレベル。

 実はメダロットは太古の昔に宇宙から飛来したカプセルに入っていた生命体で、カプセルには1体のマザーメダロットと数体のキッズメダロットが入っていた。そのカプセルが落ちた場所が歴史の中で遺跡となり、数億年の時を経て地層から発見されたのである。
 なぜ発見されるまでにそれほどの時間がかかったのか、またなんの目的でカプセルは落とされたのか。
  メダロットの目的は「どこかの星に着陸し、そして殖えること」だった。それを命じられたマザーメダロットがキッズメダロットにさらに指示を出してメダロットを増やす予定だったのだが、地球におりたったマザーたちは命令に従わず眠り続けることにした。そのため歴史の中でメダロットは特になんの事件も起こさずに地層の中に埋まってしまったが、それを人間が発掘し人工的にメダロットを作成してしまったので、結果的にメダロットは増殖したのだ・・・とまあ色々あるんだが、もろもろ省いて説明すると、地球のマザーが眠っていてメダロット増殖作戦をさぼっているから、月にロケット飛ばして月のマザー持ってきちゃえ作戦を実行。月から持ち帰ったマザーのメダルをどでかメダロットに組み込んで増殖作戦を人間の都合のいいように管理しようとするも、やっぱりそうはいかずマザーメダロットは勝手に動き出す。
 マザーメダロットをとめるため、政府はマザーがおりたった地区の住民を避難させミサイルで迎撃をすることとした。しかしそのときマザーの前にはイッキとメタビーがいた・・・。

 月のマザーは言う。

「私は使命に従う。私は普通のことをしようとしているだけだ。同じものを奪い合う。相手を排除する。自分と相容れない相手を排除する」
「命はみな殺し合いながら生きているのだ。おまえ達だってそうだろう。知らないとは言わせないぞ」
「例えば姿形、持っている物、思っていること。太古から続けているだろう?同じなら奪いあい、違えば攻撃しあう。浸食は生命体共通の使命。命の本質と言っても良い」

これに対してイッキは答える。

「同じだからきらいだとか、違うからきらいだとか。同じだから楽しいこともあればさ、違うから楽しいこともあるだろ。やっつけあわなくても一緒にいられるさ」

そして、イッキとメタビーは「月のマザーを止める=戦ってやっつける」ことをするのはまさに月のマザーが言ったとおりの結果になるため、月のマザーを放っておいてメダロットと共存すればいいという結論に至る。

「オレ達はうまくやってみせる」
「オレ達はもうおまえらとは違う」

そう月のマザーに言い放つイッキとメタビー。しかし、次の瞬間、政府が放ったミサイルが月のマザーに命中。マザーは倒れながら

「ふふふ、これが現実なのだよ・・・」

と不敵につぶやき死んだ。皮肉にもマザーのいうとおり人間はイデオロギーを共有できない多種を抹殺したことになったのだ。

・・・こんな後味にする?比較的低学年向けの少年漫画で?
 生物は結局自分の種の繁栄のため奪い合い殺し合う。どれだけ知恵をつけてもその業を繰り返す、みたいな・・・・火の鳥みたいなことします?ボンボンで。深すぎちゃうって。
 私はこの物語を読んで、生きるということ、共生ということの難しさを痛感した。

 ということでだいぶ長くなってしまったが、大好きなメダロットが手塚手塚していて大人でも面白い、いや、大人こそ面白いのかもしれないね、というお話でした。

伝われ~! By 佐久間一行

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