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After FAT#01 FROM Y-GSA Our ongoing stories

昨年開催された第1回「Future Architects Talk」について、2020年3月20日発行の円錐会(*1)会報誌 UNICORN PAPER 04にインタビュー記事が掲載されました。

*1 円錐会: 横浜国立大学建築学教室の設計・意匠系有志OBを中心とするメンバーで構成されたOB会


—— 以下、掲載記事全文 ——


FROM Y-GSA  
Our ongoing stories

~海外留学、FATを振り返って~

Future Architects Talk #01 [海外インターンを経て、これからどう働いていく?] は、Y-GSA所属の水野泰輔、池上彰によって企画され、土屋瑛衣子、上月匠 (東京大学隈研吾研究室)、林健太郎(京都工芸繊維大学松隈木村研究室)を加えた5名の登壇者で開催された、座談会だ。
2019年11月3日 「発酵するカフェ麹中」にて開催され、約30人が足を運んだ。

イベントの後日改めて、留学の経験から見えてきたこと、Future Architects Talkを立ち上げるきっかけなどについて座談会形式で話を聞いた。(塚本安優実)


水野泰輔 横浜国立大学Y-GSA在籍 / Casagrande Laboratory(フィンランドヘルシンキ)にて研修
池上彰 横浜国立大学Y-GSA在籍/  DOS Architects(ロンドン)とTERRAIN Architects(ウガンダ)にて研修
土屋瑛衣子 横浜国立大学卒業後、東京工業大学修士課程塚本由晴研究室在籍/Gabinete Arquitecturaと
Javier Corvalan + Laboratorio de Arquitectura(パラグアイ)にて研修
塚本安優実 横浜国立大学卒業後、東京藝術大学トム・へネガン研究室修了、現在設計事務所勤務

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01.「学びの環境から見えてくること」

池上:
海外インターンから帰ってきて今は何してるの?

土屋:
帰国して1年後にあたる、来年の夏に卒業する予定が急遽色々な事情が重なって今年の春に卒業することになったので独自のテーマではなくて研究室がテーマにしてることで修士論文を書いてる。

塚本:
帰国して半年で修士論文・修士制作やるのは大変だよね。特に私が在籍していたトム・へネガン研究室でも海外から帰ってきて半年で修制やっていた人はいたけれど、切り替えが難しそうだった。だから私が卒業するタイミングは誰も留学に行かなかったかな。トムさんの中でも留学から帰ってきて半年でやるのは大変という認識があったので、反対されていたというのもある。

池上:
東工大や芸大で留学する人はどれくらいの期間で行くの?

塚本:
留学期間含めて4年くらい修士に在籍している人もいるよ。大学院の授業も面白いから授業を取ろうとすると2年じゃ短いかな。

土屋:
私の周りでも修士4年まで行く人は結構周りにいる。留学から帰ってきて半年で卒業すると就職活動が両立できないというのも一因としてある。


水野:
就活と修士論文・修士制作、留学を全部やろうとすると大きく影響があるね。
海外では留学とか仕事を挟みながら休学するから柔軟な感じがする。

池上:
今年から建築士も修士の間に受験できるようになるから、大学院在籍中に勉強する学生も出てくるよね。

塚本:
そうすると在籍中には就活と建築士試験の勉強?

池上:
自分ももし企業を受けると決めたら在学中に一級建築士の資格取りたいと思うだろうな。

水野:
大学院に居る時間が試験勉強の時間になってしまうね。ますます企業に行きたい人とアトリエ事務所に行きたい人でキャリアが二分して行くんじゃないかな?就活の仕組み次第なんだろうけど。

池上:
グローバルに活動する中でも資格は結構大事だよね。

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塚本:
ところで、土屋さんが行っていたパラグアイには建築士の資格試験ってあるの?

土屋:
パラグアイは建築資格はなくて学校を卒業したら建築士になれる。大学の4〜5年で実務もやるし途中で働き始めることもできるから、課題では材料や構法についてすごく細かく設計する。例えば、聞いた話だと水道の配管をどこに通すかというテーマで一つの課題を設計したりするみたい。私たち日本にいる建築家にとって一級建築士を取るかどうかということが割と重要だという風潮があって、単純に建築士の資格を持った方が世の中が生きやすいけれど、学生の時に建築を実際に作る知識は得られてないよね。一級建築士の資格が取れるシステムが先行すると大学のうちに学べることがおざなりになるのではないかな。

池上:
日本は大学が多すぎるという特殊な状況があるのではないかと思う。資格という問題と大学の教育は本来あまり切り離せないはずなのに、日本の教育の場合は建築士資格は別の論理で大学を出てから個人の裁量でとっていいですよ、という風になっている。大学教育でやってきたことと建築を建てられる資格がすごく乖離してると思う。本来教育を受けることと社会的に認められることはリンクしているべきはずなのに、今は少し切れてるように感じるよね。

水野:
大学が資格を取るための時間になるのは勿体無い。じゃあ一級建築士取れるし、企業にも入れるしとなったら大学という教育機関はどう対応すべきなのかな?

土屋:
そういう意味では海外の大学院みたいに1回働いてから大学院に戻ってくる人がもっと増えてもいいのにと思う。

水野:
一回働いてみて学生という担保がなくなって、「自分は何者か」ということが自分のやっていることでしか説明できなくなるのを経験すると学びにもリアリティが持てるよね。
例えばY-GSAでは設計助手が実際に学生のエスキスを聞いている時にすごくリアリティのある意見をくれる。 学生って自分がこういうことをやりたいというビジョンが強いんだけど、設計助手の人たちはすでに社会の中に身を投じているからそこで学ぶことが現実にすぐにフィードバックされる。こうなったときに見えてるものの違いが設計助手と教授たちは共有できてるかもしれないけど、社会に出ていない学生たちには共有されてない気がするんだよね。

池上:
学生はどうしても自分の作業やどんなものを作れるかということばかりに注力していて大学院にどんな学びを求めているのか、自分たちが一番不明瞭になっているんじゃないのかな。

塚本:
何を学びに来ているのか自覚的じゃない、という意味だよね。

池上:
与えられた課題をどう答えるかというところに意識がフォーカスしていて、スタジオでやることと自分の将来がどう繋がるのかというところまで見えてないのではないかと思う。設計助手はそれをやりに来てるのが明確だなという事をすごく感じる。

土屋:
私は横国から東工大に行って、横国にいるときは課題に対してやっていることが何なのかもちゃんと理解できてなかったし、出されている課題の意味もわからなかった。東工大に来て思ったのは見方を色々知れるということ。私自身の考え方を広げてくれているなと思う。

池上:
大学院で学ぶ目標として「見方を広げる」というのは一つ目的としてあるよね。講評会が一番いろんな見方に触れられるという活発な場であって、自分がアウトプットしたものと他人がアウトプットしたものを見てどう見方を広げるのか。

土屋:
私は、大学院で学ぶ事は思考の枠組みを作ることだと思ってる。それがあると他人と仕事をするときに自分の考え方が相対化されていいのではないかと思う。学ぶ目的を見失うと不安になるよね。


02.「キャリアをつくっていくこと」

塚本:
Future Architects Talk (以下FAT)はどう始まったの?

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池上:
元々Y-GSAで留学報告会をしてほしいと頼まれた事がきっかけ。でもただ、自分たちの経験を話して後輩たちに「海外インターンいいよ」という会をやるのは面白くない、せっかく「トビタテ!留学JAPAN」(文部科学省による奨学金制度)での奨学生のつながりもあったので他の大学の海外行った人たちと話せる場をつくれると自分たちにも意味があると思った。それで当時僕がいたウガンダからヘルシンキにいる水野に電話かけたのがFATの始まり(笑)

水野:
最初はいろいろ悩んでいた時期だったから迷っていたんだけど、次第にすごく重要な事なんじゃないかと思ってきて、それで留学報告会ではなくて自分たちのための会をつくろうという事になった。

池上:
そのあとパラグアイにいる土屋さんに、一緒にやらないかって連絡をした。最初の頃は漠然と、東工大の人たちも巻き込んで何かやれると面白いと思っていたんだけど、話を重ねていくうちにもっと他の大学の人も巻き込んでいこうとやっていたらこうなってた(笑)

水野:
開催場所も大学でやらないことにした。それは、この会自体が、ただの報告会というものを越えて、もっと広がりのあるものだったり、ここから何か始まっていくものかもしれないと感じていたから。だから、いままで自分がいた場所だったり、与えられていた環境でやるものではなくて、自分たちで場所もみつけてやろうってことになった。

塚本:
イベントから20日くらい経ったけど、どう?

水野:
結構いろんな人たちから反響あったりして、反省も多いけど、これからもこういう座談会を開く取り組みは続けていこうと思っている。

塚本:
2回目も何か考えているの?

池上:
少しづつ準備してるよ。僕たちとしては建築を含めたこれからの「ものづくり」に対して問いを生み出し続けたいという気持ちがあって、そこでひとつ大きなテーマになってくるのはやっぱり「働き方」。1回目は海外インターンということを切り口に働くことを考えようとしたんだけど、2回目のテーマとしては、「修行」っていうことを考えようと思ってる。ものづくりをやろうとしている人ってスキルを得るためにどこかで下積みすることが多いと思うんだけど、これからの時代にプロフェッショナルを確立していく時、下積みをする以外にもいろいろな修行の仕方があるんじゃないかと思って、それを議論したいなと。

水野:
修行(下積み)そのものが良いか悪いかではなくて、修行のあり方そのものがなんなのかということをいろいろな立場の人と議論できればいいなっていうのが狙い。例えば、プロダクトデザインやっているある人に聞いてみたら、様々なところで色々な人に会って知識を増やすことも修行じゃない?という話になったんだよね。それは一人でもできる修行って彼は言っていて、「修行とは何か」という風に話が発展していくのではないかと。

土屋:
そもそも色々な働き方があっていいとみんなは思ってるはずだけど、それを知る機会としてこういう会があるよね。

塚本:
建築はひとりで作れないのでいろんな人と協力してチームになってモノをつくっていかなければならないので、人それぞれにスタンスが違う中で、どうお互いに考えを認め合って一緒にモノを作るかというところにポイントがあると思う。自分に関係がない人の働き方と違ってチームだと個人個人の認識、働き方によって全体に影響があるから。チームで一緒にやるって時に、認識をどうチューニングするかっていうのを働いてると考えるんだよね。その時に働き方に対して多様な見方を持っているかどうかは大きなポイントだと思う。

水野:
1回目のFATは、皆のインターンの報告がベースにあって、それを聞くという形式で、それでも実りはあったと思うし、それを聞きたいがために来たって人もいたと思うんだけど、何か議論として物足りない雰囲気があった。2回目ではそこを打破して深い議論がしたいな。

池上:
個人的にはFATをやって良かったと思うことは手伝ってくれた学生が、登壇者の1人とつながって、ポートフォリオを見てもらうことになったらしく、これがFATの価値だなと思った。結局、話す内容やどうやったらより活発な議論になるかという課題はあると思うんだけど、FATの根本的なところは人と人、人ともの、人と考え方っていうことが出会える場をつくることだと思って。コミュニケーションができる場としてどうつくっていくかって事も考えていきたいなって。

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塚本:
色々な人の当事者性が持ち込めるような場づくりが出来たら自分のこととして捉えられるよね。

水野:
そう考えると、あの会は自分も含めてみんな当事者として来ていたからお互いに話したり関係が出来てたんだろうね。次回は参加のかたちも色々デザインできればよいと思ってるよ。



-追記-
今回の記事は、先に挙げた円錐会のメンバーであり、FAT#01を共に企画して頂きました塚本安優実さん、そして横浜国立大学円錐会の皆様のご協力により公開に至りました。コロナの影響で様々な障害が生まれている中で、こうして無事に公開できたこと嬉しく思います。関係者の皆様どうもありがとうございました。ものづくりの未来のために、引き続きこの活動を続けていきたいと思いますので、今後とも皆様に応援していただけると幸いです。

掲載:UNICORN PAPER 04 (円錐会会報誌)
円錐会HP:http://unicorn-support.info/

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