【感想】映画のようなゲーム「Virginia」―映画らしい映像を求めたらゲームらしさが薄くなった実験作

販売:505 Games・開発:Variavle State
対応機種:PS4、XboxOne、Steam
発売日:2016年9月22日(日本から正規購入できるのはSteamのみ)
価格:980円($9.99)
※この記事はレビューではなく筆者の感想です

ゲームを語るときに「映画のようなゲーム」という比喩が使われることがある。もっぱら「ゲームのプレイ時間よりもムービーを見ている時間が長く感じる」という皮肉として使われてきたが、最近では「映画・テレビドラマのように重厚な脚本や演出」として使われることが多い。

今回紹介する「Virginia」はそれらとは違った意味で「映画のようなゲーム」だ。開発スタジオ(開発2人+作曲1人)は今作がデビュー作で一人称視点のミステリーアドベンチャーなのだが、他のゲームにはない「映画的な」非常に尖がった演出を多用したゲームなのだ。とはいえ、筆者がこの記事のタイトルを少しネガティブにしているのは「尖った演出を多用するあまり、ゲームのプレイヤーのことを後回しにしているのではないか?」といった疑問を持ったためであり、それらを合わせて紹介したい。

ストーリーは「1992年、新人FBI捜査官アン・ターヴァーの初任務はベテラン捜査官マリア・ハルペリンを調査することだった。アンは表面上はマリアの相棒としてバージニア州で捜査をすることになるが…?」というものだ。操作方法は一般的なウォーキング・シミュレータとほぼ同じであり、プレイヤーがすべきことはキャラクターとカメラ視点を操作して指定の場所にたどり着いたりアイテムを拾ったりするだけなので、FPSの経験があればカジュアルにプレイできるだろう。また、登場人物は一切喋らずにプレイヤーはキャラクターの動きやBGMからなんとなくストーリーがわかるようなつくりになっている。

さて、タイトルの通り、このゲームは非常に「映画らしさ」に拘っている。なんといっても一番特徴的なのが「『カットシーン』をプレイする」という体験だ。このゲームではプレイヤーの操作中にキャラクターの視点(空間や時間のなどのいずれか)が勝手に切り替わるのだ。例えば、主人公が相棒の捜査部屋に向かうとき、まずは自分の寮の部屋から出て廊下の奥まで歩くと、ふと場所が変わって今度は階段を降りる。階段の踊り場をいくつか過ぎると今度は場所が相棒の捜査部屋の扉の前に唐突に切り替わる。車の助手席に座っている場合は10秒ほどで昼から夕方、夜へと時間だけでなく車が走っている場所も切り替わる。

このゲームは「指定の場所までたどり着く、あるいは指定のアイテムを取得した瞬間に場面が切り替わったり、カットシーンが入る」を繰り替えす。ゲーム画面にゲームの景色やキャラクター以外の様子は一切表示されず、ゲームプレイが途切れることなくゲームの場面ばかり流れるように変わっていくのだが、これはゲームをプレイしているというよりも「一人称視点の映画でカメラマン(役者)を操作している」ような体験に近いと筆者は感じた。試しにこのゲームのプレイ動画を(実況者のボイスがない状態で)見れば、それはゲームのプレイではなく映像作品を見ているように感じるはずだ。

そのほか、映像の1秒あたりのコマ数・滑らかさをあえて落とす(PCの場合、ゲーム側がプレイヤーにあえて映像の滑らかさを下げることを推奨してくる)ことで映画の映像の質感を再現していたり、ゲーム画面の上下に黒帯を入れたまま最初から最後までプレイさせることで映画のスクリーンサイズに寄せるなど、徹底した「映画らしさ」に拘っているのだ。

Virginiaの目を見張る点

Virginiaをプレイすればその美しいグラフィックが記憶に残るだろう。風景はトゥーンシェーダを用いたリアルよりのディテールで、特に色とりどりの紅葉が印象に残る。登場人物はすべてデフォルメされたカクツキのあるローポリゴンな造形だが、表情豊かで・ボイスなしでもキャラクターの意図がプレイヤーに伝わってくるのが素晴らしい。

また、先述の通り登場人物は一切喋らないが、プレイヤーに息もつかせず場面が切り替わるのでストーリーや場所、登場人物の立場や心情がちゃんとわかる。場面と場面をカットしてつないでいるゲームだからこそだなあと思う。一部文章を読む箇所もあるがきちんと映画風の日本語字幕でカバーされるので日本語話者でも安心してプレイできる。

ストーリーはクライマックスまでの箇所は良い。FBIの同僚を捜査することになった主人公は、当初はカモフラージュとして同僚の捜査に協力するも次第にそちらに没入するようになり、同僚との関係と本来の捜査の間で心情が揺れ動くことになる。バージニア州の何気ない日常の描写や少しづつ明らかになる同僚が捜査される理由などもとても上手く描写されている。

そのほか、いかにも映画らしい重厚なオーケストラのサウンドトラックはプラハフィルハーモニー管弦楽団によるものだそうだ。ゲームのクリア後はSteamでのサウンドトラックの購入やSpotifyなどストリーミング音楽サービスでぜひ聴いてみてほしい。

Virginiaの頂けない点

さて、このゲームの良い点だけを見れば「斬新な演出を取り入れたゲームなんだなあ」という感想で終わってしまうが、この「カットシーンをプレイする」ゲームシステムはある矛盾を生み出していると筆者は考える。それは、「ゲームが完全に製作者の演出通りのテンポで進むことが前提で作られている」ということだ。先述の通り、このゲームは「映画のような映像」を撮影するカメラマンのようにプレイすることが求められる。移動してはカットシーン、アイテムを拾ってはカットシーンと繋がるので場繋ぎの部分しか操作できていないようで物足りない気分になるのだ。また、あらゆる場面のフィールドには「探索に見合う要素・アイテムが配置されていることはない」ので、プレイヤーがゲームに干渉する余地は残されていない。そのため、映画のような映像を演出するために「寄り道せずに脚本通りにさっさと進む」のがプレイヤーの最適解になる。筆者はこのゲームを「いかに映画として画になっているような映像を撮るできるか」が要求されるゲームではないか、プレイヤーがエリアの探索をすると「映画の映像としてのテンポが崩れてしまう」のではないかと考えた。しかも初見プレイでは「生放送なのに演技指導を一切受けられず、その場の雰囲気だけで演じ切る俳優」のようなありさまになる。

結果的に「プレイヤーが干渉しようとすればするだけ無駄になる」という仕組みになっている様子を見ると「一人称視点の映画のようなゲームではなく、一人称視点のゲームのような映画として映像作品として制作した方が良かったのではないか?」という疑問を持たざるを得ない。

以上のように筆者はカットシーンを切り刻むシステムに対して否定的なように記述しているが、他ジャンルでこれらの要素を部分的に取り入れるなどして改善すれば発展の余地があるのもしれないとは思う。そしてVirginiaのことを「あまりゲームらしくないシステムを取り入れてストーリーテリングに挑んだ野心的なインディーゲームだったなあ」という風に思えたかもしれない。しかし、筆者はこのゲームに対して大きな不満がもう一つある。クライマックスにかけてのストーリーの展開だ。

ネタバレを避けるために途中までの詳細な描写は避けるが、先述のように自分の捜査と相棒との間で揺れ動く主人公や徐々に事件の真相に迫っていくストーリー、そしてそれらをすべてボイスアクトなしで表現する演出は普段自分がプレイするゲームでは見られないもので非常に面白かった。それなのに、Virginiaは途中でストーリーと演出をすべて投げ捨てた。とあるシーンで主人公は紙のような薬物(おそらくLSD)を摂取し、舞台は幻覚の中に移行し始める。主人公は幻覚の中で今まで訪れた場所や人物がごちゃ混ぜになったような空間をさまよい、その中で事件の真相を目撃するのだ。

…ようはクスリをキメながら見た幻覚に「これが事件の真相です」と第三者の視点から現場のダイジェストを見せられても何のカタルシスもない上にクスリをキメた後はなんかよくわかんなくて意味ありげな演出が色々入ったまま急いでゲームが終わる。もしかしたら「クスリをキメた幻覚の中で事の真相をすべて明らかになる」とか「今まで積み上げてきたカタルシスをぶち壊される」というオチが好きな人もいるかもしれないが、筆者は王道ミステリー・サスペンスだと思って購入したゲームのストーリーが夢オチ(薬オチ)で投げっぱなしエンドになるのは正直言って不愉快だ。結局FBIの同僚の操査とカモフラージュの協力の揺れ動きといったものが全部無駄になってしまった。

Virginiaは斬新な「カットシーンをプレイ」するシステムも、「プレイヤーの意図しないタイミングでコントロールを奪われ、プレイ体験が切り刻まれる」というプレイ感覚になってしまい、おそらくはまだ調整・改善の余地があった。その上、本格ミステリー・サスペンスの刑事モノなのに薬キメ投げっぱなしのオチで非常に消化不良なストーリーとなってしまい、ゲームシステム・ストーリーの両方で不満がある仕上がりとなった。

結局は「王道サスペンスのウォーキング・シミュレータだと思って購入したら荒削りな実験映像作品だっただけであり、筆者の感想はただ期待していたものと違っただけではないのか?」といった感想をあなたは思うかもしれないし、自分でもそういったことを思うし、だからこの記事はあまり客観的ではないのでレビューだとは表記しない。

とはいえ、Steamで賛否両論(67%が好評)でSteamセールで90%OFFになるのもやむなし(Steamで90%OFFになるゲームは昔ながらの定番タイトルか、あるいは低評価で安価なゲームがほとんどで、それでもめったにない)。これはゲームではなく映画として制作すべきだった。

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