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【#ぱソ天】Half-Lifeを初代からAlyxまでプレイした二人が感想を語る:Half-Life初代編

2021年7月24日、Twitterのトーク機能であるSpaceにてぱソんことアロハ天狗の二名によってHalf-Lifeシリーズが語られた。口頭の対談を読み物として最適化した上で記事にしました。

登場人物

ぱソんこ

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ゲームデザイナー兼ゲームライター。副業でゲームメディア向けにVRゲームの記事を書き、本業ではVRゲームのゲームデザイナーをしている。Twitterやゲームでは”Passonco”、メディア向けには”渋谷宣亮”名義でIGN JAPAN他にて活動中。この記事の編集を担当した。
●ポートフォリオ
ぱソんこ|note
ぱソんこがライターとして書いた取材・レビュー記事一覧(2020)|ぱソんこ|note
渋谷宣亮 (ign.com)

アロハ天狗

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Twitter上でゲームや映画のレビューを精力的に行う傍ら、カクヨムやnoteでWeb小説を執筆。代表作は『シェイドウォーカーズ(個人の感想です)』、『柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』など。京都大学出身のMENSA会員でもある。
●ポートフォリオ
アロハ天狗(@Aloha_Tengu)のまとめ - Togetter
シェイドウォーカーズ(個人の感想です)|アロハ天狗|note
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!(アロハ天狗) - カクヨム (kakuyomu.jp)

導入

アロハ天狗:まずは『Half-Life』というゲームの概要をぱソんこさんの方からご紹介ください。

ぱソんこ:Half-LifeはPCゲームプラットフォーム”Steam”の運営元であるValveが開発・販売するFPSシリーズの第一作です。それまでアクションとシューティングに集中していたFPSというジャンルに「ゲームだから」と割り切らない自然な導入を取り入れ、等身大の人間としての体験やサバイバル感を追及し「FPSでもストーリーやドラマが作れる」ことを証明しました。

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もちろん、Half-Life以前にも『System Shock』シリーズなどFPSのストーリーテリングに挑戦したFPSはありましたが、メディアや評論家からの評価が高くても商業的に成功したとは言えません。この対談では『Half-Life』に焦点を当ててHalf-Lifeの特徴やストーリーテリングに焦点を当てたいと思います。

アロハ天狗:初代Half-Lifeの発売は1998年で、同年のゲームには『ゼノギアス』『バイオハザード2』『メタルギアソリッド』『ソニックアドベンチャー』、更には『ゼルダの伝説:時のオカリナ』もあり、大豊作の一年でした。ぱソんこさんからはFPS史におけるHalf-Lifeの立ち位置を語っていただいたので、私からはゲームのあらすじを。

アメリカ西部の荒野にあるブラックメサ研究所が危険な実験中の事故で(案の定)異次元に繋がってしまい、研究所のあちこちは爆発、エイリアンの襲撃も相まった大惨事に。あちらこちらで科学者がワーキャー逃げ回る中、米軍も科学者・エイリアンの双方を証拠隠滅のため皆殺しに参戦という地獄絵図の状況で、主人公はエイリアンと科学者と米軍の三つ巴の中でサバイバルしなければいけません…というあらすじ。

主人公「ゴードン・フリーマン」は宇宙海兵隊のような戦闘のプロではなく、ただ防護服を着ただけの物理学者という一般人のオッサンである点も斬新でした。

ぱソんこ:次回作の『Half-Life 2』は1の20年後を舞台とした続編で、1のラスボスであるエイリアンの撃破後に別のエイリアン「コンバイン」が地球侵略を完了して、人間を抑圧する管理社会を作り上げました。20年の時を経て亜空間から現世に帰還した主人公「ゴードン・フリーマン」がブラックメサで生き残った英雄としてレジスタンス活動に加わり、コンバインを打倒するために戦います。

ゲームプレイの特徴としてはValve謹製のゲームエンジン「Source Engine」を使って、軽くて綺麗な独特の雰囲気を帯びたグラフィックと物理演算を活用したパズル・戦闘が中心となっています。特に発売当時の2004年は物理演算が大変注目され、Source Engineの名前を広げました。

また、Half-Life 2の発売と同時にPCゲームプラットフォーム「Steam」がリリースされました。現在のPCゲーム市場はHalf-Life 2なくして存在しなかったと言っても過言ではないでしょう。

アロハ天狗:今のゲームでの物理演算は「入っていて当然」ですが、Half-Life 2まではゲーム内物理演算をこれほど本格的に取り入れたゲームはなかったため、発売された当時はかなりの衝撃でした。

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Half-Life 2は前作Half-Lifeからわずか6年後の2004年に発売されました。この年は『スーパーロボット大戦MX』に『エースコンバット5』、ジャン・レノが出演する『鬼武者3』に『塊魂』『ドラクエ8』『初代モンスターハンター』、あとは『メタルギアソリッド3』『逆転裁判3』といったゲームが出ていた時代でございます。

ぱソんこ:2004年は『Half-Life 2』のほかに『FAR CRY』や『DOOM 3』が出ていたFPS黄金時代の一つであることも外せません。

アロハ天狗:DOOM 3もこの年ですか……すごいですね。『Half-Life 2』もリリース当初から大評判でしたし、実際にプレイしても時を超える名作です。まずは初代Half-Lifeから話を進めましょう。

Half-Lifeの没入感の正体は「途切れのない地続き感」

アロハ天狗:私自身は1998年当時のFPSシーン自体には詳しくないのですが、初代Half-LifeはFPSとしてかなり革新的と評価されています。それまでのDOOMやQuake、Unrealといった名作群も必ずしもストーリーがないわけではないのですが、ステージ間のテキストやカットシーンなどでストーリーが展開されるといったものが一般的でした。しかし、Half-Lifeは演出主導なゲームデザインが印象的なんですね。

さらに驚異的なのが、ストーリー主導にも関わらずカットシーンが一切存在せずゲームプレイが一貫してプレイヤーの手から離れない点です。FPSは激しいアクションに最適化されたジャンルの一方で、実は没入感あるストーリーテリングにも適しているという発見が初代Half-Lifeによって起きた感じがあります。

ぱソんこ:Half-LifeはFPSで没入感を重視して大ヒットした初めてのゲームと言えるかもしれません(先述のように、Half-Life以前に存在はしてもヒットにはつながっていなかったものがほとんどです)。ゲームでストーリーを語るとどうしてもカットシーンを入れたり、ゲーム内にドキュメントやメモ、ボイスログを入れるなどプレイヤーの操作と関係のない部分でプレイヤーの手を止めてしまうことが多い。一方、Half-Lifeは終始一貫してプレイヤーの操作している途中にストーリーの演出がリアルタイムで起こることを徹底しており、率直に言って現在のゲームでもまず見ないほどの徹底ぶりです。

アロハ天狗:今でもHalf-Lifeほど徹底しているゲームはほとんどないですね。今おっしゃっていただいたように、Half-Lifeはゲーム中にドキュメントがないんですよ。ゲームプレイの最中にインベントリを開いて、死ぬ寸前の人がなぜか克明に描いたメモを読むとか、やたらとその辺に落ちている録音カセットを立ち止まって聞くみたいな下りが一切ない(笑)。ほとんどのイベントは本当に目の前で展開されます。

実は『ドアが閉められた完全な密室の中でNPCの話を聞き終わるまで出れない』といった事実上のカットシーン相当の場面も結構あるのですが、その間もプレイヤーは部屋をうろうろできますし、しゃべっているNPCの射殺もできますし(ただしゲームオーバーにはなる)、その世界の中に放り投げられるところがあります。

実際にプレイして驚いたのが、Half-Life初代は普通にプレイしてると最初の30分ぐらいは銃を撃たないんですよ。

ぱソんこ:最初の武器を手に入れるまでだいぶ時間がかかった印象がありますね。

アロハ天狗:Half-Life初代の冒頭ですが、主人公はブラックメサ研究所の物理学者です。いつもどおり朝に出勤し、同僚と呑気にコーヒーを飲み、防護服を着て科学実験でよくわからないグルグル回転エネルギーコアに危険そうな発光物質を手押し車で挿入すると案の定大爆発が起きて次元の扉が開く。ここまで全部自分で操作をする。

わァー大変だァー、隣を見るとさっきまで話してた科学者の上半身と下半身が泣き別れ、瓦礫の隙間からは見たこともないエイリアン。しばらく無防備で右往左往してからようやくバールを入手して、更に周辺をウロチョロさせられてからようやくグロック(ピストル)が手に入る。ここまで戦闘がないんですよ。これほど丹念な導入のゲームはあまりないですね。

ぱソんこ:今だったらもっと手っ取り早く銃を手に入れさせますよね。

アロハ天狗:むしろ最初に派手な見せ場を入れてから回想で戻っていくとか。

ぱソんこ:Half-Lifeは初代からAlyxまでの異様な地続き感が特有で、Valveのゲームの美学は「ゲーム側の都合で時間や場面をカットしない」ことなんです。仮に「ちょっとこのシーン長くない?」と思うことでも全部綿密にちゃんとその場で描写する、その場で発生することはちゃんと描写しきる。その地続き感こそがHalf-Life独特の没入感に繋がっています。

アロハ天狗:このゲームはカットシーンとかステージの切り替えでも時間がまったく飛ばないですね。ステージの切り替わりでも暗転せずにチャプター名が画面にピュっと出てきて「ハイッ別のシークエンスがこれから始まります」というだけで、ゴードン・フリーマン(=あなた)の意識としては最後まで地続きです。主人公が後頭部を殴られて気絶とかはあるんですけど、それはあくまで超例外ですね。

ぱソんこ:初代のXenパート以外は基本そうで、Half-Life 2でもワープ装置を使うことはたまにあるけど、それでもワープ装置を使おうとしたらうまくいかなくて50メートル先に不時着したとか、ゲームプレイを大胆にカットするような演出はあまりないですね。

アロハ天狗:あるとしても理由がちゃんとつきますね。プレイヤーを没入させる手法としてカットシーンが入らない、画面も切れない、あとはドキュメントやボイスログでごまかさないという三点を徹底している。映画でいうと最初から最後まで2時間ワンカットみたいな独特の迫力があります。

これは全部プレイヤーの没入感にも繋がるんですが、Half-Life初代の素晴らしさはゲーム自体のシチュエーションとそれが綺麗に噛み合っている点です。ブラックメサという研究所の敷地内だけで完全に話が完結する。映画でいうとダイ・ハードみたいな『限定空間での普通の男のサバイバル体験』と、『ゲーム自体のノーカット』という二点がバシっとハマって実体験としてのサバイバル感、生き残るために自分自身が必死にやっている感じが終始出てくる、そんなゲーム体験がHalf-Life初代ですね。

ぱソんことアロハ天狗がオススメのワンカット映画は『1917 命をかけた伝令』で、多くの観客に「ゲームっぽい」と言わしめた本作の地続き感こそがビデオゲームの没入感を解明するカギを握っているのかもしれません。

ぱソんこ:この地続き感で10時間余りにわたる体験を一つのロケーションでやるというのは、ともすれば地形のバリエーション不足でゲームプレイがだるくなりかねないですが、ブラックメサはアメリカの中西部にある超巨大な研究所というロケーションを活かして限りなく自然に「研究所の事務室」「廃棄物処理場」「実験室」「アメリカの中西部らしい荒野」など、研究所の中だけでバリエーションの豊富さを担保しているのが非常にユニークです。この辺りはHalf-Life 2が対称的で、それが2の弱点でもあります。

アロハ天狗:Half-Life 2はいろんな地域を右往左往するので、バリエーションは豊富なのですが、ゲーム全体の軸のなさも感じてしまいますね。その点、初代はブラックメサの中だけどで完結するものの、仰る通りロケーションが豊富なので全然飽きないですね。

電子レンジ・コーヒー・ドーナツみたいな普通の休憩所もありますし、事件が起きてからはその床が真っ二つに割れて水漏れし漏電しているとか、普通の光景が地獄絵図に変わっているようなシチュエーションも多いです。廃棄物処理場のような閉鎖的・機械的箇所をずっと通って「ちょっと飽きてきたな~」と思うと崖に出て、一気に空がバッと開けて目の前を戦闘機が飛んでいく。こういった限定空間モノは似たり寄ったりの絵面が続いて飽きることが珍しくないですが、本作のゲームプレイは全くそんなことがなく、練りこまれてますね。

一言いいたくなるXenパート

ぱソんこ:ただ、Half-Life初代でも最終盤のXenパートは賛否分かれるところではあります。研究所を侵略してきた宇宙人の母星に逆に乗り込んでやろうという展開が終盤に入るのですが、Half-Life特有の没入感は最初から最後まで地続きな点にあるのに、急にロケーション自体が研究所から変わってベタな宇宙・エイリアン・触手・キモイ空間になってしまう。そのXenパート自体もそこまで面白いかというと、突出するような感じでもなく残念です。

アロハ天狗:Xenパートは完全に蛇足ですよねー、アレ。一つのシチュエーションの中でサバイバルしていく感覚とか米軍とエイリアンの三つ巴とか全部なくなって、フツーに宇宙人の異星に行って次から次へとやってくるエイリアンを撃っていくみたいな「いやそれQuake2でいいじゃん」みたいな感じになっちゃうんで……

ぱソんこ:どうしても「これはHalf-Lifeでやりたいことじゃない」という気持ちになってしまう。

アロハ天狗:Half-Lifeのよさが最後のXenパートで軒並みスポイルされている面はあります。でもXenパートでも結構面白いのは回復アイテムとかが「実はXen空間への先遣隊が何人も行ってました」みたいな先遣隊の亡骸として置いてあったり、無造作に配置されていないところは凝ってますよね。

ぱソんこ:そこは気を使っていて、現地の異星の泉で体力を回復したり、謎のクリスタルから防護スーツの電気エネルギーを補給したりと、無造作にアイテムを置くだけにしないのが意地を感じますよね。

アロハ天狗:アレは意地ですよね(笑)。まあXenが蛇足だと感じる一方で、Xenまで行けばあとは惰性でクリアしちゃうので。アレが序盤にあったら全体の印象をもっと下げていますが、最終盤ならギリありかなという感じ。

ぱソんこ:Half-Life初代には公式とは別に有志によるファンリメイク『BlackMesa』があって、これが公式に認可されたゲームとして販売されています。オリジナルのXenが1~2時間ぐらいで終わるものだったのに対して、BlackMesaだと5~6時間ぐらいかかる場所になっています。ただでさえ蛇足だったパートが2~3倍に伸びているという――BlackMesaをプレイした人からは「ここだけは本当になんなんだろう……」というか、「グラフィックは綺麗になったけどそんなに面白くないじゃん」と思われている。

アロハ天狗:Black Mesaを開発した人たちも元々のXenパートが蛇足だったことはよくよくわかっていて「いや、俺たちだったらここも良くしてやる」という強い志をもってXenパートにめちゃくちゃ時間をかけたっていうね。

ぱソんこ:Xenパート以外の部分は2015年時点ですでに完成していて、Xenパートを作るのに5年以上かけてしまった(BlackMesaの正式リリースは2020年)けど、「5年かけたわりにはそこまで面白くならなかったね」というのが残念です。

アロハ天狗:だいぶ悲しいところですね(笑)。オリジナルのHalf-Lifeは大傑作ですが、流石に1998年のゲームなので、今プレイするとグラフィック品質に厳しい部分があります。オブジェクトの挙動とかも地面にベターッとはりつくような独特なものになっていまして、ちょっととっつき悪い。

今からオススメしたいのは今ぱソんこさんが仰ったBlackMesaの方で、ファンがHalf-Life 2のゲームエンジンで初代Half-Lifeをそのまま完全再現した代物で、基本的にはうるさ型のFPSファンもほぼ手放しでXenパート以外は褒めている作品です。オリジナルのHalf-Lifeを作成したValveも「もうこれで売っていいよ」という形でValve公認リメイクとしてSteamで販売されていますので、これからHalf-Lifeを始めたい方はBlackMesaをプレイしていただくのがベストですね。

ややクリフハンガー気味なストーリー

ぱソんこ:実は事前にアロハ天狗さんから頂いたレジュメがありまして、それにはG-MANの話なんかがありました。

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Half-Lifeシリーズ皆勤賞の正体不明なおじさんことG-MAN。Garry's MODのおっさんと言ったほうが伝わるかもしれない。画像はRedditより

アロハ天狗:Half-Lifeはストーリーがバシッと決まってるゲームではあるんですけど、1も2も終盤に大きな謎を残したままメン・イン・ブラックのトミー・リー・ジョーンズみたいな顔のオッサン「G-MAN」がやってきて主人公を拉致して話が突然終わるんですよね。いろんな伏線っぽいものは張られていて考察のしがいはあるんですけど、僕はオチはあんまり好きじゃないです。もう少し気持ちよく終わらせてくれって感じ。

ぱソんこ:いわゆる”デウス・エクス・マキナ”ですよね、G-MANは。

アロハ天狗:そうですね。ただ、敵の母星に行ってラスボスを倒してからG-MANがやってくる感じなので、そこまでいきなり打ち切られた感じにはなりません。エンディングがもう少しすっきりして「サバイバルしたぜッ」とか、「レジスタンス成功したぜッ」「革命成功したぜッ」みたいな感じで終わるかというと、そうではなくどれもG-MANがやってきて終わるっていう(笑)。

ぱソんこ:G-MANは中々便利な存在というか、主人公を亜空間に閉じ込めて任意のタイミングでゲームを突然再開させられるっていう中々便利な設定なので確かに乱用はしたくなる……

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アロハ天狗:Half-Life 2はHalf-Lifeの20年後の話なんですけど、1と2の間に何度か働かされてるっぽい描写もあるので外伝も作り放題という感じですね。ただVALVEが外伝を作ってくれない……やらしてくれよ、それを!

ぱソんこ:一応Half-Life初代にはOpposing ForceとBlue Shiftというスピンオフがあるんですが、両作品はどちらも主人公がゴードン・フリーマンではない別人だったり、開発がVALVEではなくBorderlandsシリーズで有名なGearbox Softwareだったりします。

アロハ天狗:あれってGearboxなんですか!?

ぱソんこ:そうなんです。そのため、VALVEのゲームかというと違うかなっていう気はしますね。

アロハ天狗:補足すると、ブラックメサのとある警備員が主役になったのがBlue Shiftで、これはゲームのプレイ時間がかなり短いのと、かなり地味なのが特徴です。あとは主人公たちの敵対勢力である米海兵隊の一人が主役のOpposing Forceとなっています。Opposing Forceの方は本編で使えないような強力なミリタリー武器が使えたり、ラスボス戦も派手で割と面白かったです。BlueShiftは地味すぎる(笑)。

ぱソんこ:BlueShiftはHalf-Lifeのドリームキャスト版のおまけとして作ったけど移植自体が開発中止してしまったのでBlue Shift単体をPCに移植したという経緯があるみたいですね。

アロハ天狗:確かにHalf-Lifeのグラフィックはどことなくドリームキャストの息吹を感じますね。

ゲームだと割り切らないボス戦とゲームプレイ

ぱソんこ:Half-Lifeはボス戦の起承転結の自然さも忘れられません。

アロハ天狗:Half-Lifeのボス戦は、”長~いライフバーが伸びているボス敵を撃っていく”とか、”アリーナをぐるぐる回って攻撃を避けているとボスの胸のハッチが開いて「今のうちに赤い弱点を撃つんだ!」”とかではなくて、環境やステージギミックそのものがボスみたいなパートが多いです。例えば音に反応するデカい触手がいて、手榴弾を投げて爆発させながら気を逸らすとか。青くてデカくて強力でまったく歯が立たない大型エイリアンがゲーム中に何回も出てくるんですけど、コイツにも”逃げるしかない”とか、”敵対勢力の軍隊と鉢合わせさせる”とか、”軍隊の空爆を要請してそれで倒す”といったストーリーギミックと直結した倒し方があってかなり面白い。

ぱソんこ:そうですね。逆に言うとXenパートはわりと普通に倒したりしますね。とはいえ全体的に環境やストーリー、いわゆるナラティブに徹したボス戦を用意する姿勢が感じられてすごいです。

アロハ天狗:すごいですね~。ただボス戦はそんな感じなんですけど、戦闘に力が入っていないかというとそんなことはなくて、通常戦闘もめちゃくちゃ面白い。Half-Lifeの戦闘は二つ良いところがあって、まず敵がそこそこ硬いのが楽しい。サブマシンガンが基本的にはゲーム中のメイン武器なのですが、いい感じにダダダダダダッぐらいで敵が死ぬ。1,2発であっさり死ぬ感じでも、いくら撃っても死なない硬さでもなく、気持ちよく撃ってると敵が倒れてくれるぐらいの絶妙なバランスですよね。

ぱソんこ:確かに、ほどよく歯ごたえがありますね。めちゃくちゃ硬すぎるということはない……

アロハ天狗:もう一つ良いところが敵の挙動で、ゲーム中に一番よく戦うザコ敵エイリアンのボーティガンツと敵対勢力の海兵隊の兵士、これがどちらも楽しい。エイリアンの方はまっすぐこっちに向かってきながら避けやすい雷を撃ってくる、DOOMっぽい戦闘ができます。一方で軍隊はAIがめちゃくちゃ良くて、プレイヤーの後ろに回り込んできたり、カバーを使ったり、複数人で行動してきたりと、1998年のゲームとしては信じられないほど兵士のAIが出来がいい。そのくせプレイヤーが設置した地雷とかブービートラップには気持ちよく引っ掛かってくれるお茶目さもあって、とにかく戦闘が楽しいんです。

“軍隊との戦闘”と”エイリアンとの戦闘”と”環境パズル・アスレチック”の三つが、一つに飽きかけたころに他の要素がやってきてくれる。「そろそろ戦闘がちょっとダレてきたな」と思ったとたんにパズルが始まったりとか、「軍隊と戦ってばかりで食傷気味だな」と思うと気持ちよく倒せるエイリアンがやってきてくれたりとか、ゲーム中のフローがとてもいい具合にぐるぐる回っているので、ダレるときがほとんどないですね。

ぱソんこ:やはりペース配分が非常に上手いというか、戦闘と謎解きがほどよく交互にやってくるので、やっぱりプレイヤーのテンションを計算づくでレベルを作っていることが非常に感じられます。

アロハ天狗:ペース配分は完璧ですね。ちょっと萎えてきてだらだら歩くパートとかが無い。”避難しようとした科学者たちがエレベーターごと落ちて大爆発”とか、”ダムの反対側に行こうとした途端に軍用ヘリコプターがダムを空爆!ダム決壊!主人公水没!”とか派手な演出も合わせ技になっています。当時の洋ゲーはけっこう殺風景なものが多い印象がありますが、非常に派手な作風ですね。

ぱソんこ:これは最初の話に戻るのですが、90年代当時のFPSはわりとその辺りのこだわりが薄いというか、超巨大迷路の中でカードキーを3つ集めるまで次のエリアに進めないのがザラだったので、そう考えると当時になんて素晴らしいペース配分なんだっていう風に評価されるのも不思議な話ではない。

アロハ天狗:ブルーカードキーをただ単に集めるようなパートがないですね。ゲーム中に「この扉を開けないと進めない」というところは結構あるんですけど、博士が「あそこのブレーカーを切らないとダメなんだ!」とかちゃんと納得できる動機付けを与えてくれる。近年の名作でも力技はかなり多いですし、Half-Lifeぐらい洗練されているゲームはあんまり思いつかない。導線が非常に綺麗ですね。

ぱソんこ:文字を読まなくても最後までプレイしてクリアできてしまうほどレベルデザインがきちんとされているゲームはVALVE以外ではめったに見ない気がします(ただし任天堂を除く)。

アロハ天狗:基本的に詰まないですよね。わりと難しいところもちゃんと考えて周りを見ると「これをすればいいんだ」とスッとわかる。テストプレイめちゃくちゃしてるんでしょうね。

ぱソんこ:VALVEのインタビュー記事を読むととにかくテストプレイをしてテスターが不満に思ったところを全部直すっていう主義でやっているので、「まあそれはそういう作り方をしていたら、そうなるよね」という。

アロハ天狗:VALVEのゲームってLeft 4 Deadとか『The Orange Box』に開発者コメンタリーモードがあるじゃないですか(※編者注:2007年にPC/PS3/Xbox360向けに『Half-Life 2』『Half-Life 2: Episode One』『Half-Life 2: Episode Two』『Portal』『Team Fortress 2』の5作が収録されたパッケージ)。あれめちゃくちゃ面白いんでHalf-Lifeにもつけてほしいなって思ってますね。コメンタリー機能って2からでしたっけ?

ぱソんこ:2にはコメンタリーモードがなくて、『Half-Life 2: Episode One』と『Half-Life 2: Episode Two』にはついてます。

アロハ天狗:アッ、そうだ。Left 4 DeadとかEpisode One, Two, Portalにはついている。あれ最高ですよね。

ぱソんこ:今からでも2のコメンタリーモードは見てみたい気持ちはありますけど、今からは難しいかな。

アロハ天狗:当時の関係者が散逸していますよね(笑)

ぱソんこ:それはしょうがない……

90年代っぽいバイオレンス表現とゆかいな敵キャラ

アロハ天狗:Half-Lifeは血に飢えたケダモノみたいな、暴力しか頭にない皆さん(わたしのおともだちのみなさんのことです!)にもオススメしたくて。1は気合が入ってて、グレネードとか爆発物とかで爆死すると気持ちよ~~~く肉片になってくれるんですよ。手足がバラバラになったり、あとは死体とかもふつうに脳とか眼球とかまでボロボロになっていくとか「そんなに頑張る必要、ある?」っていうぐらいに。

まあ死体損壊自体はそこまで楽しくないんですが、爆発物で兵士がバラバラになるのは相当に楽しいですね。Soldier of Fortune 2のような偏執的なレベルではないですが、ゴア表現はしっかりしています。やっぱり人が肉片になるゲームは基本的に面白い。

ぱソんこ:その辺は90年代らしい感じはありますよね。00年代だとそこまでの表現はなくなるというか。

アロハ天狗:2はゾンビが真っ二つになるぐらいで人間は真っ二つにならなかったかな。

ぱソんこ:コンバイン(人間、もしくは改造人間の敵キャラクター)は敵を真っ二つにするためのチェーンソー、丸鋸自体がそもそもコンバインの出現するエリアにはない印象で、わりとラグドールで人型がポーンと飛んでいくみたいな。

アロハ天狗:2は死体が気持ちよくぶっ飛ぶほうからそっちを楽しんでくれって感じですね。あと初代は暗殺者(正式名称:Black Ops)が強いですよね。ゲーム終盤でブラックウィドウみたいな全身ボディースーツの女殺し屋が出てきて、これが異常に強いんですよ。とにかく動きが早くて、しかもわりと硬いので普通にマシンガンを当てても中々死なない。僕はリモコン爆弾とかレーザー機雷、あとはボウガンとかマグナムを持って”待ち”っていう感じだったんですけど、ぱソんこさんはどうやって倒しました?

ぱソんこ:いや~、僕も基本的にはショットガンとマグナムで気合で倒しました。うん。あまり特別なことをした覚えはないんですけども。こいつらだけ明らかに、本作がリアリティにこだわっているわりには明らかに浮いています。

アロハ天狗:たぶん兵士だけだとアレなんで上位互換を出そうとした結果というのはわかるんですけども(笑)

ぱソんこ:一般兵士だけじゃ物足りないのはわかるんですけど、なんでそれで全身黒ずくめのピョンピョン飛び回る女アサシン集団になるのかがちょっと……

アロハ天狗:3回転のバク転とかしてくるんですよね、あいつら。もう本当にいい加減にせえよという(笑)クッソ強いのでみなさんもぜひやってみてビビってください。めちゃくちゃ強いです。

個性豊かで気持ちのいい武器たち

アロハ天狗:武器もかなり個性的です。ピストルとサブマシンガン、ショットガンあたりは定番ですが、狙撃銃のような性能のボウガンはかなりトリッキー。私はお手軽に強くてこればっか使っとけばクリアできるような武器が大好きですが、Half-Lifeのボウガンは異様に強くて、人間型の敵はほぼ一撃死、無音なのでステルスにも最適。スコープ突きで精度がめちゃくちゃ高いんで狙撃銃代わりにもなる。ボウガンがここまで強いゲームは他に知らないですね。弾が貴重な以外は無敵。

ぱソんこ:ちなみにHalf-Life 2だとボウガンで敵を看板に磔にすると実績がもらえるんです。

アロハ天狗:いいですよね。ラグドールを使って敵を杭打ちにできるゲームが一番好きです、私は。ラグドールで敵を磔にするためだけに生きてますね。

ぱソんこ:(笑)

アロハ天狗:あとはブラックメサ研究所で試作中のスーパーウェポンもあります。レーザー銃(正式名称:Tou Cannon)とゴーストバスターズのゴースト銃みたいなやつ(正式名称:Gluon Gun)。地雷も2種類ぐらい(正式名称は起爆型がSatchel Charge、センサー型がHECU Laser Tripmine)あったかな?あとはエイリアンの幼虫(正式名称:Snark)をそのまま武器にするとか。これは調子こいてるとプレイヤーも襲ってくるバカ武器ですね。あとはエイリアンの羽虫を敵に打ち込む(正式名称はHivehandだが、もっぱらHornet Gunと呼ばれる)武器は弾が無限なので終盤のXenパートはこればっかり使いますね。

ぱソんこ:Black Mesaだとちょっと事情が違いまして、敵に一定量のビームを照射すると敵が消滅するGluon Gunが、Black MesaのXenパートだとGluon Gunのためのエネルギーチャージエリアがけっこうあって、敵消滅ビームが終盤で使い放題にさせてくれる、原作とは違う方向の爽快さがありました。

アロハ天狗:いいですね!初代のXenパートでは弾は無限だけどクソ弱いHornet Gunを端からちまちま撃っていく塩プレイでクリアしましたね~。

1を総括しますと、一か所でのサバイバルというシチュエーションの中に多様な体験が高密度で詰まっていて、今プレイしても単純にゲームとしてめちゃくちゃ面白い。ぜひBlackMesaかオリジナルのHalf-Lifeを一度プレイしてみてほしいなと思います。

次の記事では『Half-Life 2』『Half-Life 2: Episode One』『Half-Life 2: Episode Two』『Portal』『Portal 2』について話します。


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