「記憶の底から」~時空を超えた再会、そして未来へ~
ふと時が止まる瞬間がある。整理していた荷物の中から、古い手紙や写真を偶然に見つけた時だ。片付けていた手を休め、封印された思い出との対話が始まる。
私が18歳の頃に文通していた、女性の手紙が荷物の中から出てきたことがあった。当時、私は仕事をしながら簿記の通信教育を受講していた。定期的に送られてくる、機関紙の文通コーナーで知り合ったのがきっかけだった。最後の手紙は、高校を卒業して地元の富山から首都圏に就職が決まったという内容だった。
その手紙に返信はしなかったと思う。その頃の私は、仕事をしながら定時制高校に通っていた。彼女に手紙を書こうと思いながら、ずるずると時が経った気がする。手紙の返信は1週間以内という二人の約束を、私が破った引けめもあったのかもしれない。
その手紙には、新しい職場の不安と、寮生活の戸惑いが綴られていた。文面から溢れ出た孤独感を受け止め、18歳の彼女に助言できなかった悔いが今でも残る。
当時、一度だけ電話で話した事があるが、とうとう彼女の写真は受け取らずに交流は終わってしまった。私も彼女も、人生の折り返し地点をとうに過ぎてしまったが、私の心の中では今でも18歳のままの彼女がいる。
いつかまた機会があれば手紙を読んでみたいと思っている。彼女の手紙に命を吹き込むのは私だけなのだから…。