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「雨の物語」~雨に濡れた笑顔、希望の赤~【エッセイ】

 小雨が降る中、傘を差しながら地元の駅前でバスを待っていました。
バスが来る方向を眺めていたら、若い女性が傘も差さずに歩いて来ます。普段だったら気にも留めないのですが、妙に歩き方がぎこちないのです。

 そばまで来てようやく解りました。彼女は手足が不自由らしく、八の字になった両足を一生懸命動かしながら小雨の中を歩いて来たのです。

 雨の中を人の倍以上の時間をかけて歩いて来たのですから、きっと暗い表情なのかと思いました。でも、微笑んでいるのです。微笑みというより笑っているのです。

 彼女が私の前を通り過ぎた時、背中の赤色のナップサックが目に留まりました。若い女性が愛読する雑誌に出てくるような、本当におしゃれな小物でした。

 私はその時思ったのです。彼女の表情があんなに明るいのは、きっとこれから恋人に会いに行くのではないかと。そんな彼女の物語を勝手に空想してしまいました。

 日曜日で混んだ駅の階段を彼女は一歩一歩確かめるように上っていきます。背中の赤色のナップサックが、まるで彼女の意志を表すかのように輝いていました。


                           #色のある風景

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