新宿の占い

私はアラサーOLである。

お察しの通り悩み多きお年頃だ。

そこに独身彼氏なしなんて付加価値もつけば、もうやってられなすぎて天を仰ぎたくなるほどだ。

土曜日。
昼過ぎに携帯のバイブレーションで起こされた。
半開きの目で確認したメッセージには「結婚することになりました!結婚式にはぜひきてね!」とビックリマークとハートが飛び交った文章だった。
こんなメッセージは今年に入ってもう4通めだ。

既読を付けてしまったからには返さざるを得ない。
「おめでとう!!ぜひ行くよ!!」と同じくビックリマークとハートを散りばめた文章を無表情で送る。
メッセージアプリは不便で便利だ。

なんとも言えない気持ちを払拭しようととりあえず外に出る。

吐く息が白くてもう少し厚着をすれば良かったと後悔したが戻るのはやめた。

家から徒歩10分。
そこから電車に乗って40分。

新宿についた。

別に用事があるわけじゃない。

なんとなく来てみただけ。

デートの待ち合わせだろうか、大学生らしい女の子が仕切りに前髪を気にしている。

狭い狭いパーテーションの中に押し込められてもなおタバコを吸いたい人たちが一つに固まって寒さを凌ぐ。

手すりに腰掛け話しているお兄さん達はきっと出勤前のホストだろう。

あの人たちは私のことなんて気にしてないし、
私の知り得ない人生を生きてる。

そんな感じか心地いい。

とりあえず、目についたドンキホーテの全部の階を回ってまた外に出る。

やっぱり少し寒い。

スタバでコーヒーでも飲もう。

路地を曲がる。
細くなる。
思ってたところにスタバはなかった。

どうしたって方向音痴は治らない。

仕方ないから細い道を進む。

きた道は戻らない主義なのでね。

進んですぐに占い喫茶があった。
暇だったし、占いはちょっと興味あったし、何よりもうだいぶ寒くなってきていた。

ちょっとビビりながら入ってみたものの、店内は意外と人がいて占いでは有名なお店らしかった。

手相占い¥1,000

せっかくだからコーヒーと一緒に注文する。

ザ•占い みたいな紫色のカーテンが締まるブースに通され、ぽっちゃりしたおばさんと対峙した。

おばさんは「今日はどうして手相にしたの?」と私に聞いてきた。

どうもこうもない。手っ取り早く千円だからだ。
全部正直に話すのは気が引けて、「なんとなく」と答えた。

「あなた、恋愛のこととか仕事が向いてるかとか聞きたいんじゃないの?」おばさんはドヤ顔で聞いてくる。

図星だ。
100点。
すごい、もう当たってる。
エスパー?

そうです!!!と私は大きく頷いた。

「そうするとね、手相は現在しか見られないの、未来とか適正はもっと細かく見ないとね。そっちにする?6千円になるけど。」

いつの間にか当初の6倍である。
でももうここまで言われては引き下がれないし、正直興味がある。

6千円コースの占いは手相はもちろん、カードや生年月日、星座など占いっぽいものオンパレードで進められた。
トークにちょいちょい挟んでくるぽっちゃり体型自虐がなんて返したらいいか分からず鬱陶しい。

そうこうしている間に結果が出た。
「んー、あなたは大丈夫よ、30までには結婚できるし、暖かい家族を築く。イケメンと結婚するわ。そうねーー、そのイケメンとは9月頃出会うわね」
おばさんはまたドヤ顔で私に告げた。

なんて素晴らしいんだ!!!!!
未来は明るいんじゃないか!!!
今まで占いは行ったことはあってもここまで具体的なものは無かった!!

感動に浸る私の横でキッチンタイマーが鳴る。
6千円コースは50分なのだ。
「はい、そういう感じだね!また迷ったらおいで!」おばさんはテキパキとカードをしまいながら言った。
さっきまであんなに親身になってくれていたのに急にどうしたんだ。
お会計はクレジットが使えた。
雰囲気とかそういうのをもう少し気にかけて欲しかったけど、もうそんなのはどうでもいい事だ。だって9月にはイケメンとであうのだから!







それから時は巡り巡って、冬が過ぎ、春と夏が来て、待ちに待った秋。待望の9月は残暑厳しく過ぎて行った。

おい、ババア、聞いてるか。
どうなってるんだ?

10月になったけど?

あ、旧暦とか?


とりあえずまだ私の9月は来ていない。


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