8月の月曜日

傷心である。

月曜日はただでさえ最悪なのに輪をかけて最悪な気分だし、相変わらず死ぬほど暑い。
たぶん人生で1番最悪な月曜日だ。

別に告白した訳じゃない。
人伝てに彼女がいると聞いたのだ。

プライドの高い私は、「えーがっかりー!でもかっこいいもんねぇ!じゃあ今日の合コンは尚更イケメン来てもらわないと困っちゃう!」なんて思ってもない事を言ってヘラヘラしていた。

彼は営業マンで、私はその取引先の事務員。
彼にしてみればただのビジネススマイルだったのだろうが、それは見事に私を撃ち抜いた。

彼が来社した日はどんなに仕事で怒られてもハッピーな日になったし、「お世話になります」なんて話しかけられたら天にも登る気分だった。

若い女性社員が少なかったのと、そこそこ愛想と要領が良かった為、年上のおじさまおばさま社員に猫可愛がりされていた私はその立場を存分に使いまくった。

お節介好きのおばさまは私が彼を素敵だと思っていることを間接的に伝え、おじさま達は彼の会社の商品を積極的に買ってくれた。

彼の会社関連の書類は見やすく書き直したし、秒速で処理した。

私史上1番有能な仕事をしたし、これが認められて昇進までしてしまった。

その甲斐あって、上司と彼の昼食会やゴルフコンペに潜入できるようになった。

そして!

ついに!!

晴れて!!!

連絡先をゲットした。

このまま彼と順調に進んで付き合って、そして結婚したりなんかして、、、、なんて妄想はフルスロットルで膨らんでいく。

明るい鳶色の目が印象的な彼は本当に綺麗な顔立ちをしていて、人生で会った誰よりもカッコいいと思ったし、反対意見があれば死ぬほど反論した。

彼がもし私のものになったなら、この世に神さまは絶対にいるし心から崇拝しようと思った。

そんな矢先の今日である。

神さまなんていなかったのだ。

クソだ。

どうでもいい。

そんな時に限って彼はやってきて、わざわざ私を呼び止めて「こんにちは、○○さん!」なんて挨拶してきてさ。笑顔で名前まで読んでくれちゃって。

ちくしょう、かっこいい。。

だめだ、奴はもう歌舞伎町のホストと同じなのだ。

色恋で騙し、高額な商品を買わせる算段を練っているんだ。

わかってる、わかってるんだけどかっこいい。

かっこよさが止まらない。

どれくらいかと言えば、オーランドブルームよりイケメンに見えている。


でも奴には彼女がいるのだ。

いままでの私の頑張りは彼への下心が燃料となっていた。

休日出勤も、残業もクオリティの高い資料も彼の会社の商品を買う為、ひいては彼に会う為である。

それ以上でも以下でもない。

それなのに昇進してしまい、主任という役職までついて今や部下もいる身になってしまった。

彼女がいる。

それだけで私の下心の火は消えかけている。

部下を背負って今まで通りの仕事をするにはこれまで以上の下心が必要だというのに。

彼からしてみれば迷惑な話であろう。勝手に好意を持たれ盛り上がられて、勝手に話が違うとキレられているのだ。

だけどそんなの関係ない。これは私の中だけの話だからだ。

とにかく終わりだ。終焉である。

可能であれば役職など返納したい。

まさか下心だけでここまでやったとは社内の人はもちろん彼でさえも知り得ないことだ。

彼女情報で私がこんなにも打ちひしがれてるということもだ。

でもいい。
なんでもいいのだ。
だって終わりなのだから。


部下はちょっと抜けているが優しい子だ。

私がブルーなのは風邪だと信じている。

「お大事に(>_<)」と書かれたかわいいウサギの付箋が貼られてのど飴がデスクに置かれている。

意識的に咳をしなければ。

頃合いを見て風邪薬といってバファリンでも飲もう。

ちょっと頭痛い気がするし。

午後にはそれが効いた事にすればいい。

13:00からは会議だ。

終わりなのはそれまで。

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