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やる前にほめよう。

娘が2〜3歳の頃、ある民間の早期教育プログラムを試したことがあります。「知的障害が改善する」という謳い文句でした。最初はまゆつばに思っていたのですが、提唱者の本を読むと一朝一夕でできたものではなく、ちゃんと理論と実績もあります。体を整えるプログラムと遊びながら脳を刺激するプログラムがあり、ダイエット広告にありがちな「これさえやれば」的な安易なものは感じませんでした。何より親として、将来やらずに後悔するよりやって後悔しようと思い、数十万円もするそのプログラムを購入しました。

結果から言うと、うちの娘には目立った効果はありませんでした。でも相性だと思います。実際にあのプログラムで効果が出るお子さんはいるだろうな、と思います。また、その後の子育てのヒントをたくさんもらえましたので、受けて良かったです。

そのプログラムで一番勉強になったことは、「ほめ方」です。よく「子供はほめて伸ばそう」と言いますが、それは本当にその通りです。ほめられることで「安心」「やる気」「自己肯定」「気持ちの軽さ」などが得られます。これらは子供が新しいことにチャレンジしたり、学んだことを脳に定着させる上で欠かせないものです。実際に「ほめるよう心がけています」という方も多いと思いますが、残念ながらやり方が甘い方がほとんどです。

まずほめるときは、大げさにほめましょう!!「わー、すごい!最高!」「上手だねー、天才!」感情的に大げさにほめましょう。わざとらしくていいのです。わざとらしい方がいいのです。大人にやったら「バカにしてるの?」と一蹴されるようなほめ方でも、就学前のお子さんなら大丈夫です。うれしそうに笑うはずです。知的障害がある方でしたら、程度にもよりますが成人でも効果があります。

多分、言い方を少し工夫すれば障害のない成人にも効果があるはずです。ただ、相手の方と普段どんなコミュニケーションをとってきたか、によります。普段無愛想で、何をしてもらってもお礼ひとつ言わないような方が、いきなり「これ、素晴らしいね!こんなの誰にもできないよ、最高だよ!」と言ったら、相手は喜ぶ前に驚きます。下手したら警戒されておわるでしょう。

大げさにほめることともう一つ大切なことは、「出来るのを待たずにほめる」です。「やったらほめます」「出来たらほめます」では、残念ながら一生ほめるチャンスは訪れません。・・・と言うのは冗談ですが、ほめるタイミングは待つものではなく、取りに行くものです。言い方を変えるなら、「ご褒美としてほめるのではなく、やる気に持っていくためにほめる」のです。

例えば私が娘をほめる時、「自分で着替えて欲しいな」という場面では着替えを渡して、娘の指が服を持とうと動いた時にほめます。「自分で着替えるの!?すごーい!かっこいいね〜!!」と。着替えたらほめるのではなく、指が1mmでも動いたらすかさずほめるのです。ほめなかったら娘は服を持った後、私に押し付けるかもしれません。そのまま落とすかもしれません。でも指が服に触れた瞬間にほめることで、気持ちが変わるのです。「ほめられて嬉しい!お母さん好き!着替え出来るよ!見て!」というふうに。そしてもちろん、着替え終わった時にも大げさにほめます。

また、以前障害者事業所で働いていた時、50代のダウン症の方と一緒に拭き掃除をすることがありました。その方は掃除が好きではありませんでした。絞った布巾を持っていくと明らかに仏頂面をしています。そのときは布巾を手渡しながら、「〇〇さん、このテーブル拭いてくれるの?すごい!上手に拭けるのね〜!うれしい〜。助かる〜!こんなに〇〇さんが上手なんて、知らなかったぁ〜!」と言いました。まだ拭いていないのに「上手に拭けるね」とほめました。そうしたらその方はニコニコして拭いてくれたんです!拭いている間ずっとほめ続けたので、正直口が疲れました。また、次のテーブルも拭いてもらおうとしたら、それはダメでした。もともと拭き掃除が好きではないので、1つで終わりました。

でもほめなかったら、1つも拭かなかったと思います。そうしたら私はなんとかなだめて、ほんのちょっとでも拭いてもらえないかとあれこれ言ったでしょう。結果、私も彼女も嫌な気持ちが残っておわったと思います。ほめたことで嫌いな拭き掃除を少しだけ出来たら、それで「1つ拭いてくれたから、今日はいいか」と私も彼女も丸くおさまります。そして双方すっきりした気持ちでその日一日を過ごせますし、彼女も私といて「掃除できた、ほめられた」という感情が残るので、良い関係を築く一助になるのです。

良い関係を築くのはとても大切です。私たちでも、「あの人に頼まれたら、つい引き受けちゃう」ということがあるでしょう。逆に「同じことでもあの人に言われたら、なんだか嫌」ということもあります。ひとつ分かっていて欲しいのは、ここで紹介したやり方は「相手をコントロールするため」の方法ではなく「促すため」の方法です。根底には信頼関係が無くてはいけません。

知的障害がある人は理解力が低い。と勘違いする人もいますが、実は得て不得手があるだけです。目の前の人が自分を大切に扱ってくれる人か、軽く扱う人かはちゃんとわかります。自分を軽く扱う人のいうことは聞きたくありません。それは誰でもそうです。「やる前にほめる」のは、いわばこちらから「相手を丁寧に扱うこと」を見せる行為です。まずこちらから差し出す。結局それが、相手と良い関係を築く近道なのです。