見出し画像

障害がある子どもを育てる時に一番大切なこと。中編。

娘が幼い頃は「何が出来るようになるか?」「どれだけ発達させてあげられるか?」ということばかり考えていて、それが娘の将来につながると考えていましたが、成人障害者向け事業所で働くようになると、そんなに単純な話ではないことが分かってきました。

私は最初、就労支援施設で働こうと考えていました。将来娘が働くときの参考になると思ったからです。でもご縁があったのは生活介護でした。

ここで学校を卒業した障害者の進路について簡単に説明します。障害が軽度で社会性もある子の多くは、一般就労を目指します。一般企業に障害者枠で就職するのです。それはちょっと難しい、という子のために就労継続支援事業所があります。A型とB型があって、ざっくり言うとA型の方が普通の就職に近いです。でも、事業所によって差があるので一概には言えません。B型事業所で働くのもちょっと難しいかな?となると、生活介護事業所があります。仕事に限らず作業活動や体力作りで日中活動を支援します。私が就職したのは生活介護事業所でした。

生活介護には言葉が全く話せない人や、感覚過敏やこだわりが強くて決まった場所からなかなか出て来られない人もいました。中にはイライラすると人を叩いてしまう人もいました。

そういう中で過ごして私が得た結論は、「可愛がられることが本人を守ってくれる」ということです。何となく気になってしまう人や、いつも声をかけてしまう人(あるいはいつも声をかけてくれる人)は、まめに様子を見てもらえます。また、何か問題があった時に「なんとかしてあげたい」と思われることで、いざという時に本人を守る大きな力になります。

例えば人を叩いてしまうような他害行為は、事業所も親も頭を悩ませるところです。語弊はありますが、他害よりも自傷の方が気は楽なんです。もちろん自傷行為もできるだけ防がなければいけません。でも保育園の子供同士のケンカのように、相手がいると事が複雑になってくる場合もありますから、一般に他害行為の方が親も職員も気を使います。事業所は他害行為が起きないよう環境を整えるなどの対応はしますが、一つの行為だけを見て対策して、それでなんとかなる程、問題は簡単ではありません。集団活動の中なのでできる対策にも限界があります。職員の数も予算も限られているのが現状です。

このように頭を悩ませる他害行為ですが、不思議なことに殴る子ってかわいい子が多いのです。特に目がかわいいです。他害行為のある子(若い利用者さんが多かったので、子と呼ばせていただきます)は、機嫌が良い時の笑顔がとても素直な子が多い気がします。愛嬌がある、と言っても良いでしょう。

だから気にとめてくれる職員が現れやすく、何かあったときでも「なんとかしてあげたい」と思います。そのことが、本人の居場所を守ってくれるのです。

誤解のないよう書きますが、他害行為のある障害者はごく一部です。多くの障害者は優しく、どちらかというと気が小さい方が多いです。

また、障害者には自分の気持ちや要望を伝えることが上手ではない人が多くいます。中にはほとんどできない人もいます。何かあってもただ黙って、困っているだけ。いつか親や職員が気付いてくれるまでずっとそのまま困っている。という人もたくさんいます。だからこそ職員はそれを敏感に察知することが求められるのですが、職員も人間なのでパーフェクトではありません。

そういう時にも「可愛がられる」ことは本人の身を守ってくれます。障害の種類や程度にもよりますが、やはり他者の支援がどうしても必要なのが障害者です。支援は行政や制度によって保障されるものですが、現場では人間対人間のことがらになります。そういう時に「相手と気持ちを交わしてうまくやれること」が、とても大きな意味を持ってくるのです。これは言葉を使えるかどうかということは問題ではありません。言葉がなくても、人は目を見れば気持ちを感じることができますし、心を通わせることができます。大切なことはそういうことです。

私がここで言いたい「可愛がられる子」とは、何かができるとか、会話ができるとか、そういうことではなく、「なんとなく気になる」「どこかかわいい」という感覚的なことです。次回は、そういう子を育てるには何が必要かを書いていきます。