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光害関連ニュースまとめ 2023年9月

2023年9月の光害関連ニュースです。福井県大野市の星空保護区認定に関するニュースや衛星コンステレーションのニュースが目立ちましたね。

地上の光害に関するニュース

大野・星空保護区認定 「稼ぐ観光」へ知恵結集を

2023年9月12日に福井新聞ONLINEの論説記事として掲載されたものです。福井県大野市南六呂師地区の星空保護区認定を受けて、また北陸新幹線の福井延伸や高速道路の開通というタイミングを前に、星空保護区を観光振興に活かそう、というものです。「稼ぐ」というと天文サイドの人たちは身構えてしまうかもしれませんが、星空保護区の趣旨をしっかりおさえて光害を防いだうえで地元の皆さんと一緒に観光振興に向かうのは、持続可能な星空保護区を作るという観点でも重要なことでしょう。

夜空を暗くする照明という逆転の発想。“星空の世界遺産”をつくったパナソニックのあかり

2023年9月29日にASCII.jpに掲載された記事。福井県大野市南六呂師地区の星空保護区を受けて、福井工業大学との協力やこれまでの星空観光の取り組み、パナソニックの照明器具の導入などがまとめられています。
記事の中に、

観光や教育などの目的で人や子どもが集まる場所は、安全性の観点もあって照明を明るくしなければいけないところ。その一方で、夜空を暗くすることが目的となるという、ある種矛盾したニーズに悩まされました。

夜空を暗くする照明という逆転の発想。“星空の世界遺産”をつくったパナソニックのあかり
ASCII.jp

という文章がありました。この「矛盾」は光害対策について語るときによく出てくるものかもしれませんが、解像度を上げてその状況を見てみると、決して矛盾するものではありません。「明るくすべき対象だけを照らして、光を届かせるつもりのない方向には光を漏らさない」という対応がとれるからです。もちろん照明器具側にもある程度の工夫は必要ですが、日本ではパナソニックと岩崎電気の2社が国際ダークスカイ協会(現 ダークスカイ・インターナショナル)の認証を獲得していることを見ても、工夫をすれば実現可能なものです。今後星空保護区の認定を目指す自治体もそうではない場所でも、この意識が広がっていけば有効な光害対策がとれるはずです。光そのものが悪者なわけではないですから、何も考えずに照明をつけるのをやめて、賢い照明が広がっていくきっかけに星空保護区がなれればいいですね。

消えゆく暗い夜空を想う「ノクタルジア」

2023年9月23日にScientific Americanに掲載された記事。暗い夜空が失われる悲しみを"noctalgia"という造語で表現しています。「ノスタルジア」が故郷を懐かしく思うことなら、「ノクタルジア(nocturneはフランス語で夜)」は暗い夜空を懐かしく思うというような意味でしょうか。
記事は、地上の人工光によって夜空が明るくなっていること、省エネなLED照明に取り替えることでそれが悪化していること、衛星コンステレーションが空からの光害になりうること、暗い夜空を失うことが動植物にも人間の文化にも影響を与えることなどが述べられていて、光害の問題の基本を包括的に押さえた記事と言えます。事柄に名前を付けるのは、その事柄の社会での認知度を上げ対応を進めるには効果的なことですので、これを機に多くの方が意識を持ってもらえると嬉しいですね。地上の光も衛星コンステレーションも対策は不可能ではないとして、いつかノクタルジアという言葉が過去のものになると願っている、という文章で記事は締められています。


光害と関係した衛星コンステレーションに関するニュース

グローバルスター&アップルの低軌道衛星

iPhone14 から搭載されている、緊急時の衛星経由の情報送信機能。グローバルスターという衛星通信サービス会社の衛星を使っていますが、この機能を強化するためにAppleはグローバルスターに多額の資金を提供し、17機からなる新しい衛星群の通信能力の85%をAppleが使うのだそうです。現在のグローバルスター衛星群は24機で、日本でもこれをつかった衛星携帯電話サービスを展開しています。スターリンクの数千という衛星コンステレーションに比べればかわいいものですが、数十機・数百機規模のコンステレーションがいくつも出てくれば、結果的には天文学への影響は大きくなります。衛星の総量規制もない中でどのように対策を進めるか、難しいところです。

「天文学に配慮を」米当局、小型SAR衛星コンステ2社に要請

そんななか、アメリカの通信に関する規制当局である連邦通信委員会FCCは、新たに小規模な衛星コンステレーションを計画している2社に対して、天文学への影響を軽減するために全米科学財団NSFと調整するよう要請したそうです(参考に、spacenews.comの英語記事)。スターリンクに対しても同様の要請が今年1月に出ています。今回要請を受けたのはIceyeとPlanetの2社で、いずれも通信ではなく合成開口レーダーで地球を見るための衛星コンステレーションを計画しています。FCCは通信衛星コンステレーションを上げるOneWebやAmazon Kuiperとも議論をしているようで、心強い限りです。が、これはあくまで米国内の話。他の国からこれ以外の大きなコンステレーションはまだ打ち上げられていませんが、計画を持っている国は中国をはじめとしていくつもあります。現在は衛星が天文学に与える影響についての国際的な取り決めがないので、各国の規制当局に対応が任せられている状況。米国FCCは気にしていくれていますが、他の国はどうでしょうか。もちろん天文学者たちも国際的な枠組みを作ることを目指して国連宇宙平和利用委員会に働きかけを続けていますが、規制をゼロから作るのはかなり大変です。現在の民間主導の宇宙開発のスピードの速さを考えると、枠組みを考えているその間に衛星がバンバン打ちあがってしまうのが現実です。

人工衛星とスマートフォンを直接つないで5G通信に成功

単にインターネット通信ではなく、あたかも宇宙に基地局を置いたかのように人工衛星と普通の携帯電話をつないでしまおうというのが、direct-to-cellと呼ばれる仕組み。まっさきに技術試験衛星を打ち上げたASTスペースモバイル(日本では楽天モバイルが出資)が、試験衛星BlueWalker3と普通のスマートフォンの間で5G通信に成功した、というニュースが出ています。
計画に参加しているボーダフォンもこれを写真付きで紹介しています。

衛星から電波を降らせることによって「圏外」というものをなくしてしまおう、という意欲的な計画ですが、その実現性を疑問視する声もありました。普通の携帯電話はもちろん人工衛星と通信することは想定していないので、携帯電話から出る電波を衛星がきちんとキャッチできるのか(その逆も)が問題だったわけです。今回試験に成功したことで、技術的には不可能ではないことが示されたということになりますが、さてこのまま商業運用へと進むのかどうか。予算超過で初期の衛星は少し小さくなるという話もあり、まだ予断は許しません。
天文学への影響という観点では、64平方メートルにもなる巨大なアンテナが太陽光を反射して0~1等星くらいで見えるという報告が出ています。また、これまでは電波望遠鏡の近くでは携帯電話の利用が一部制限されていた場所もありますが、direct-to-cellが実現すると電波が宇宙から降ってきてしまうという問題があります。さらに、普通の携帯電話と衛星携帯電話では割り当てられた周波数が違うので、普通の携帯電話で衛星と直接通信するサービスは現状では国際条約である無線通信規則にも各国の電波法令にも反してしまいます。この法的な枠組みの議論は進んでいますので将来的にOKになる可能性はもちろんありますし、ASTスペースモバイルも(同様のサービスを狙うと公言しているスペースXも)それを見越していろいろ実験しているわけですが、ともあれ技術の進展と状況の変化が早いのがベンチャー企業のビジネスの特徴ということなのか、ちょっと対応が後手に回っている感は否めません。


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