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光害関連ニュースまとめ 2023年11月

2023年11月の光害関連ニュースです。


地上の光害に関するニュース

『暗闇の効用』

2023年11月11日、久元喜造 神戸市長のブログに掲載された、横尾忠則氏による『暗闇の効用』(ヨハン・エクレフ著)の書評についての記事です。子どものころに親しんだ暗い夜空が失われてしまったことを嘆いていることを受けて、市長は以下にように記しています。

夜の闇の存在は、とても大事なのではないかと、以前から感じてきました。
睡眠と休息には、暗がりが必要です。

書評『暗闇の効用』 - 久元喜造ブログ

市長が暗闇の重要性を理解されているというのは街づくりの観点からもたいへん重要と思います。一方で神戸市は2023年2月の光害関連ニュースで取り上げた通りに青い光の防犯灯をたくさん導入しています。これはイネへの光害を防ぐために選択された色だそうですが、人間にとっては青い光は体内時計への影響が大きいとされています。写真では青く写っているけれど実際にはもっと白っぽい色だという話もあり、この防犯灯の是非について議論するにはもう少し情報を集める必要があります。

青い光を含むLEDがいかに人と環境に影響を及ぼすか

2023年11月10日に英紙ガーディアンに掲載された投書記事。一気に普及した白色LEDは青い光の成分を強く持っているため、人間の体内時計や周囲の環境に影響が大きく、さらに波長の短い光が散乱しやすいこともあってスカイグロー(空での散乱光)が色温度の低い電球より大きいにもかかわらず、人々があまりそれを気にしていないことを指摘しています。内容として特に新しいものがあるわけではありませんが、これを読んでもやはり神戸の青い防犯灯は大丈夫かと気になりますね。

国頭村森林公園で「星降ル森ノ宴」 ふたご座流星群に合わせ初企画

2023年11月18日にやんばる経済新聞に掲載された記事。星空保護区認定を目指す沖縄県国頭村での、ふたご座流星群観察イベントの紹介記事です。ふたご群は12月ですので報告ではなく告知ですね。記事には

「星空保護区」の国内5地域目としてエントリーしており、自然公園などを対象とした「ダークスカイ・パーク」のカテゴリーで申請を行っている。

やんばる経済新聞

とあるので、もう申請は済ませているようです。11月30日には、認定を行うダークスカイ・インターナショナルが国頭村からの星空保護区申請を受け取ったことが沖縄タイムスのニュースになっていました。2023年8月に日本で4番目の星空保護区として認められた福井県大野市南六呂師地区では認定が出るのに半年ほどかかっていましたので、うまくいけば来年の夏前には認定が出るのかもしれません。

SIGGRAPH Asia2023で光害のシミュレーション論文

2023年11月22日にプロメテック・ソフトウェア株式会社から発表されたプレスリリース。コンピュータグラフィックスに関する国際会議SIGGRAPH Asia 2023に、”Efficient Visualization of Light Pollution for the Night Sky”という論文が採択されたことを発表しています。筆頭著者は土橋宜典 北海道大学教授/プロメテック・ソフトウェアCGリサーチ副所長で、空での散乱光の可視化を効率的に行う手法を考案したとのこと。光害をきちんと理解するためには、実際の空の明るさを測る観測的な手法と、光源から出た光が空気中でどのように散乱して地上に戻ってくるかをモデリングする理論的な手法とを組み合わせる必要があります。今回はその理論的な手法で大きな進展があったようで、たいへん興味があります。いつかお話を伺ってみたい研究です。

衛星コンステレーションと天文学に関するニュース

冬の大三角、1等星並みの明るさ 人工衛星による光害問題は新たな火種

2023年11月11日に産経新聞に掲載された記事。米国の宇宙ベンチャーASTスペースモバイルが打ち上げた試験衛星BlueWalker3が1等星並みに見える、というScience誌の研究成果をとっかかりとして、人工衛星による光害を紹介する記事です。黒田悠希記者に取材していただき、私のコメントも載っています。衛星コンステレーションの取材のときにはいつも「衛星の意義はよく理解しているので、共存の方法を一緒に考えたい」と答えることにしています。衛星コンステレーションはこれからどんどん増えていく(衛星数だけでなく、コンステレーションシステムの数も)ことが想定されるため、天文学側と衛星運用企業の1対1の議論では限界があります。国連宇宙平和利用委員会でも議論が行われていますし、衛星が使う電波を管轄する国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)の決議(ITU-R決議32: Activities related to the sustainable use of radio-frequency spectrum and associated satellite-orbit resources used by space services)でも、衛星が使う周波数とその軌道の持続可能性を研究してまとめることを求めています。宇宙ベンチャーの動きは速いですが、国際組織もなんとかそれに追いついて必要な枠組みを作ろうとしています。

「まるで銀河鉄道」夜空を進む光の点 「きれい」で片づけられない訳

2023年11月29日にwithnewsに掲載された記事。朝日新聞の小川詩織記者の記事です。朝日新聞が福島県に設置しているライブカメラに打ち上げ間もないスターリンクトレインが写ったことをきっかけにした記事です。この記事もコメントを求められましたのでお答えしたところ、

天文台によっては、撮影する画像の数枚〜10枚に1枚ほどの割合で人工衛星が写り込んでしまっています。
衛星によってもたらされる恩恵も理解しています。衛星事業者とも協力し、天文学との共存の方法を探っているところです。

「「まるで銀河鉄道」夜空を進む光の点 「きれい」で片付けられない訳」 withnews

という2文が掲載されました。これまでにNHK、朝日、毎日、産経、読売、日経、ニッポン放送くらいは衛星コンステレーションの取材に対応したかと思います。だいたい一巡はしたわけですが、状況はどんどん変わっていくと思うので、引き続き取材をお待ちしています。

スターリンク衛星からの意図しない信号が望遠鏡の障害に

2023年11月1日にオーストラリアのspaceconnectに掲載された記事。スターリンク衛星から意図していない周波数の電波が漏れていて、それが電波望遠鏡で観測できてしまったという話。2023年7月の光害関連ニュースまとめでご紹介したものの続報です。前回はヨーロッパの電波望遠鏡LOFAR、今回はオーストラリアのEDA2を使った観測で、論文は2023年10月に天文学専門誌に掲載されています。EDA2があるのは西オーストラリア州で、ここには国際協力で建設が始まった巨大な電波望遠鏡SKAのうち、特に低周波な電波を観測するSKA-Lowが建設されています。SKA-Lowが観測するのは50~350 MHzの電波で、今回「見えてしまった」スターリンク衛星からの漏れ電波は137.5と159.4 MHz。SKA-Lowの周波数に入ってしまっています。
SKA-Lowが建設されている地域は、人工の電波によって望遠鏡が影響を受けるのを防ぐために、無線機器の使用に制限がかけられています。このような場所を電波静穏領域(Radio Quiet Zone: RQZ)と呼びます。せっかくこうした規制を作って地上からの電波の漏れ込みを防いだとしても、空(衛星)から降ってきてしまっては規制の意味が半減してしまいます。通信のために意図して出している電波は国際電気通信連合の枠組みの中にありますが、漏れ出る電波についての規制は現時点では無いようです。一方、今回紹介している記事では、スターリンクを運用するスペースX社との話し合いは始まっているとのこと。記事でインタビューに答えているオーストラリア・カーティン大学のSteven Tingay教授は

(衛星の反射光については)批判を受けて、スペースXはスターリンク衛星による太陽光の反射を軽減し、明るさを以前の12分の1にした。電波天文学への重大な干渉を避けるためには、漏れ出る電波の強さを1,000分の1以下にする必要があると考えている。

"‘Unintended’ Starlink signals hamper telescopes, Curtin finds"
spaceconnectonline.com.au

とコメントしています。ただ今後衛星コンステレーションを運用する会社の数が増えてくると、一対一での調整もたいへんになってくることが想定されます。が、対応策を取りたいのに適切な国際機関がないのが現状で、今のところ困っているのは電波天文学者だけかもしれないので、すぐに統一的な解決策が出てくるとはあまり思えないのが正直なところ。まずは企業の真摯な対応に感謝しながら輪を広げていくということになるでしょうか。

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