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光害関連ニュースまとめ 2023年5月

2023年5月の光害関連ニュースです。なんだか最近忙しくなってしまって月刊まとめ以外の記事を出せていませんが、引き続きよろしくお願いします。5月もいろいろありましたね。

地上の光害に関するニュース

東京の繁華街、戻らぬ光 コロナ前比1割減

2023年5月7日に日経新聞に掲載された記事。人工衛星による観測をもとに都市の夜の明るさの変化を調べたコロラド鉱山大学(Colorado School of Mines)によれば、コロナ前と比較してパリは+3.2%、ロンドンは+1.9%、一方でニューヨークは-3.2%、東京は-11.6%。光害という観点だけからいえば東京の光害は抑えられていて良いということになりますが、夜間経済もそれだけ抑えられているということで懸念が示されています。夜間光の明るさが経済活動の指標としてどれくらい信頼性があるのか、というところがこの記事だけではわかりませんが、ともあれ戻したいのは経済活動であって光害ではないはず。光害を抑えたまま経済活動を戻せれば、それは世界のモデルになれるかもしれません。
コロラド鉱山大学のPayne Instituteは、ウェブサイトで地球観測衛星データの配布もしています。まだ私は手を出せていませんが、自分でもいろいろ見てみたいところです。


新型コロナ下、星は見えやすく? 塩尻星の会が市内で「光害」調査 2020年の夜空は「暗かった」

5月8日に信濃毎日新聞に掲載された記事。こちらもコロナ禍の影響によって町の明るさが低減されたという報告です。2003年から毎年5月に夜空の明るさを継続して測定しているそうですが、2020年は特に暗かったそうです。とはいえこのグラフでは2018年に比べて2019年にぐっと暗くなり、その先に2020年の測定点があるように見えるので、コロナが原因かどうかはこれだけではよくわかりません。無料閲覧部分だけしか読めていないので、その先にもしかしたら何か考察があるのかもしれませんが。ともあれ、やはり空の全体の明るさの測定だけでなく、どんな種類の光源が光害に寄与しているのか、それがどのように年月とともに変化しているのかを知ることが重要なように思えます。

大野市が星空保護区申請 「星のまち」誕生、願い届け

2023年5月11日に、福井新聞の論説欄に掲載された記事。福井県大野市が「星空保護区」の申請を行ったことを受けての記事です。誘客、地域活性化のひとつのきっかけになることはもちろん重要なことですが、大野市やその周辺の方々が夜空の価値を再認識するきっかけになることも同じくらい重要なことだと思います。大野市の取り組み、応援したいです。

ボン条約、都市の人工照明を減らし野生生物を光害から守るためのガイドを発表

一般財団法人環境イノベーション情報機構のウェブサイトに2023年5月11日に掲載されていたニュースです。ボン条約とは正式には「移動性野生動物種の保全に関する条約」といい、「渡り」を行う野生動物を守るための条約です。欧州やアフリカ、アラブ地域や中央アジア、南米、オセアニアに加盟国が広がっていますが、日本やアメリカは未加盟。ガイドラインには次の6項目が挙げられています。
1)照明は、目的・位置・時間を限定し必要なものだけに
2)照明時間・明るさ・色を管理するためスマート管理など調節装置の利用
3)対象の物・エリアを限定し、低位置で漏れ防止を
4)光の強さは最低限に
5)建造物の外面は減反射材や暗色で
6)短波長光源(青、紫)や紫外線の削減や遮蔽
内容としては目新しいものではありませんが、基本的なところをカバーしたガイドと言えるでしょう。光害の影響は、星が見えなくなるだけではなく野生動物や農作物など広範囲に及びます。関連する様々な団体がそれぞれの観点でガイドラインを公表すること、そしてそれらを俯瞰的に見ることは、光害の影響を総合的に理解しこれを抑えていくために重要と言えるでしょう。

「なぜ虫は光に引き寄せられてしまうのか?」がハイスピードカメラを使った研究で解明される

2023年5月23日にGigazineに掲載された記事。街灯のまわりで小さな虫がたくさん飛んでいる風景はだれでも見たことがあるものだと思いますが、そのメカニズムはよくわかっていなかったのだそうです。この記事でも紹介されている「月の明かりを方角の基準に飛んでいる」という説は私も聞いたことがありましたが、新しい研究では光に背を向けて飛ぶ「背光反射」で説明できる、のだそうです。このメカニズムなら昼行性の虫でも夜行性の虫でも説明できるとのこと。光害の影響をきちんと把握するうえでも、光に対する反応を理解するのは大切なことですね。

夜空の明るさ調査で星空観測に最適な「暗い」地点確認 保全狙いPR

2023年5月23日付で朝日新聞デジタルに掲載された記事。徳島県阿南市で、阿南市科学センターが中心となって市民に夜空の測定を呼びかけたキャンペーンの結果が紹介されています。阿南市を1km四方のメッシュに区切って、各区域でスカイクオリティメーターを使って夜空の明るさを測定する、というキャンペーンです。夜空の明るさ測定は環境省が毎年夏と秋に行っていますが、測定点は測定者がいる場所に限られます。阿南市の例では、きちんとメッシュを切ってしらみつぶしに測定しているということで、出てきたデータできれいに地図を埋めることができ、空間的な広がりに関してはとても質の高いものと言えるでしょう。これが時間的にどのように変化していくのか、というのを継続的に調べていくのも面白そうですね。

光害と関係した衛星コンステレーションに関するニュース


G7科学技術大臣会合で、衛星コンステレーションが天文学に与える影響が取り上げられる

2023年5月12日から14日にかけて、仙台でG7の科学技術大臣会合が行われました。その共同声明(内閣府による仮日本語訳)で、衛星コンステレーションが天文学に与える影響が取り上げられています。

我々は、天文学に必要な暗く静かな夜空を保護するため、UN COPUOS、国際電気通信連合(ITU)及び国際天文学連合(IAU)の枠組みで、衛星ラージコンステレーションの天文学への影響について議論を継続することの重要性を認識する。

内閣府「G7 科学技術大臣会合(概要)

G7レベルでこの話題が取り上げられるのはおそらく初めてで、これはたいへんに意義深いことです。UN COPUOSは国連の宇宙平和利用委員会のこと。衛星による反射光に関しては世界的な取り決めがない状態ですが、議論は行われています。いたずらに夜空に光があふれることを許すのでもなく、逆に様々なメリットを持つ衛星コンステレーションを禁止するのでもなく、現実的な落としどころを探る議論が重要です。

衛星コンステレーションが天文学に与える影響を抑えるために国際天文学連合のもとに作られたセンターIAU CPSも、このG7科学技術大臣会合の結果を歓迎しています。

電波天文観測環境に関するニュース

地球の携帯電話基地局からの電波漏れは最大40億W 地球外文明は受信できる?

2023年5月18日にsoraeに掲載されたニュース。人類は様々な用途に電波を使っていますが、軍用のレーダーの次に総電波放射量が大きいのは携帯電話だそうです。地球上の携帯電話基地局の分布をモデル化して、地球に近く惑星を持つ星(ケンタウルス座α星、HD 95735、バーナード星)から観測した場合にどのように見えるのかを検討した結果が報告されています。この3つの星のまわりの惑星から観測した場合を考えると、HD 95735から地球を見たときに最も電波が強く観測されるそうですが、この惑星の電波検出技術が現在の人類のそれと同程度だった場合は、まだ地球の携帯電波は捉えられない見込みとのこと。なかなか面白い検討ですね。
記事のもとになった論文は王立天文学会誌に掲載された R. C. Saide et al. "Simulation of the Earth’s radio-leakage from mobile towers as seen from selected nearby stellar systems" です。

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