見出し画像

科学と神話の連想ゲーム Vol.2 「生後数時間の心臓の大工事と第十種神拝作法」

執筆:ラボラトリオ研究員  村上 卓

「別冊 Newton 人体完全ガイド 改訂第2版」に「胎児の血液循環と出生時の切り替え」という見開き1ページのコラムがありました。

サブタイトルが「母親の体内で、胎児はどのように呼吸しているのだろうか?自力で呼吸しはじめる新生児の心臓では、何がおきているのだろうか?」というなんとも興味深い内容。

私はこのタイトルから、白川神道の十種神宝御法における「第十種」を連想しました。

「十種とは前出の七沢氏の言にもあるように、生まれること自体を指す。母親の胎内から出て羊水(ようすい)を吐き、最初に吐(つ)いた息をもって十種とするのである。」
(書籍『言霊はこうして実現する』 第二章「伯家神道が明かす神道の深層/十種神宝御法の真義」より)

すべての人は、この十種を生まれた瞬間に授かった状態でこの世に誕生するとされてます。この後、白川を学ぶご神縁を授かった人は、第九種以降を修習していくことになります。

Newtonの記事によると「生後数時間におきる心臓の大工事」という表現があり、生まれたときに、なんだか凄いことが赤ちゃんの心臓に起きているようなのです。

インターネットで見つけた、以下の記事も参考になりました。

「胎児の時には必要だった3つの管を閉じることで、血液の流れを大きく変化させ、様々な機能を自分で行っていけるようになるのです。
どうやって閉じるのか。それは、産まれたときの産声です。
肺に溜まっていた水分を吐き出して、酸素を取り込むことで肺が膨らみ、その瞬間、血液の流れが変わり、圧が変化し、閉じることができるのです。
胎児は、お母さんのお腹の中で、へその緒を通じて酸素や栄養素を受け取っている。また、受け取るだけでなく、老廃物もへその緒を通じて、母親におくり処理してもらっている訳だ。
ただ、生まれた瞬間に、それらの全てを自分一人でやっていく必要に迫られる。」
(ハピママ記事『「おぎゃー!」と生まれてから24時間、赤ちゃんに起こる3つの急激な変化とは』より)

shutterstock_757679767のコピー

皆さんご存知の「へその緒」は、赤ちゃんの心臓から見ると下半身側の「へそ」につながっており、そこから酸素濃度の高い血液がお母さんの胎盤からもたらされます。その時に用いられるのが「臍帯静脈」です。一般的に「動脈」とは酸素濃度の高い血液が流れ、逆に「静脈」とは酸素濃度の低い血液が流れるとされていますが、しかし、臍帯においてはそれが逆転しているのです。

「臍帯静脈(さいたいじょうみゃく)は、単に臍静脈ともいい、胎児期において、胎盤から胎児へ血液を送る静脈。
臍を通って胎児の体内に入り、肝臓の下で門脈または下大静脈に合流する。臍帯動脈は2本であるが臍帯静脈は1本である。臍帯内では臍帯動脈とらせんを描くように絡み合っている。名前は静脈であるが、中を流れる血液は酸素分圧が高い動脈血(通常の体動脈内を流れる血液)である。」

(ウィキペディア「臍帯静脈」より)

つまり、通常とは逆の血液が流れているということです。臍帯静脈は下大静脈を通じて心臓の右心房に流れ込みます。この時、高酸素濃度の血液を全身に送り出すために、赤ちゃんの心臓には左右をつなげる「卵円孔」という穴があり、そこを通じて血液を左心房に送り出し、全身に送り届けられます。

また、肺呼吸もおこなっていないため、肺にはほとんど血流を送る必要がありません。そこで赤ちゃんの心臓には、肺をバイパスするための「動脈管」という特別な管があり、そこを通じて全身に酸素を送り出しているのです。

赤ちゃんは、お母さんのお腹の中では呼吸をしていません。呼吸様運動という羊水を使って呼吸の練習をしていると言われています。つまり、肺の中は羊水で満たされていて、実際の呼吸(酸素と二酸化炭素の交換)はお母さんにやってもらっているのです。

また、食事に関してもお母さんにやってもらっています。生まれたあとは口から入れて、腸で吸収をしていますが、お腹のなかでは胎盤を通じてお母さんから栄養をもらっています。

さらには、老廃物の排泄もお母さん任せです。つまり、通常人間がおこなっている命の活動のほとんどをお母さんにやってもらっているわけです。逆にいうと、生まれた瞬間から、これらの全てのことを自力で行っていかなければならないのです。

画像2

いよいよ出産を迎えるとき、赤ちゃんは狭い産道を回転しながら抜けて来ます。この時肺の中に入っている羊水を絞り出しているそうです。産後1時間程度を「新生児覚醒状態(しんせいじかくすいじょうたい)」といい、ヒマラヤ登頂並みの低酸素状態で、頭が非常にさえていると考えられています。

そしてこの世に出てきた瞬間に、「産声」を上げて最初の呼吸が始まるのです。まだ濡れている肺を乾かしつつ、左心房に高酸素濃度の血流が流れ込んできます。これを合図に例の「卵円孔」と「動脈管」が閉じるのだそうです。

この産声とともにおこなわれる心臓の大転換を、Newtonでは「心臓の大工事」と称しているのです。まさに命がけの大工事といえると思えませんか。

私はソフトウェア・エンジニアですので、この仕組みが驚異的に思えてなりません。今まで、いくつものサービスの「リリース」をおこなってきました。本番リリースは小規模なものでも毎回緊張するものですが、さすがに人命がかかった作業を担当したことはありません。

この「心臓の大工事」は赤ちゃんの出産という人生の一大イベントです。まさに最初のリリースと言っても良いでしょう。しかも失敗は許されない一発勝負のリリースなのです。

命の核たる心臓の大工事をおこなうというこの「リリース計画」はとてもリスクが高く、無謀とすら思えてしまいます。もし私がこれを承認する側であったなら、おそらく計画を却下していると思います。笑

しかし、我々人類は過去のすべての人、これから生まれてくるすべての人が、生まれるときにこの一大工事を経験するわけです。改めて命の尊さ、その精緻な仕組みに畏敬の念を禁じえません。

そして、この産声をもってして「第十種」とした、先人の神妙な命の描写にも畏敬の念を禁じえません。

画像3


最後に小ネタを。

この「産声」は世界共通の442Hzの「ラ」の音であり、オーケストラのチューニングにも使われるとても重要な音だそうです。そして「始まりの基本の音」とも捉えることができるそうな。

さて、この産声ですが、実は赤ちゃんは人種を問わず世界共通で、同じ「ラ」の音で泣くと言われています。「ラ」の音は442Hz(ヘルツ)で、1秒間に442回振動する音波のことです。
姫路獨協大学医療薬学科の岡村恵美子先生によれば、 この442 Hzの「ラ」の音はとても重要な音なのだそうです。
オーケストラが演奏前にいろいろな楽器の音をそろえる目的で「チューニング」と呼ばれる音合わせをしますが、この時全員が音合わせをする時に楽器オーボエで出す音が442 Hzの「ラ」の音なのだそうです。
また、欧米では「ラ」の音は英語のABCのAにも表されていることから、私たちにとって「ラ」の音は“始まりの基本の音”としても捉えることができ、そう考えると産声が「ラ」の音をもつ意味も自然なこととして受け取れるのではないでしょうか。

(exciteニュース記事『神秘的!赤ちゃんの産声は世界共通の「あの音」だった』より

今はやりの「鬼滅の刃」的に表現すると、
「命の呼吸、第十種「産声」〜」って感じですかね。笑


・・・・・・・・・・

【村上 卓 プロフィール】
netenのシステム・エンジニア。
高校の時に物理の先生の薦めで量子力学の書籍を読み、非常に衝撃を受けた。そこに人智を超えた神の世界を感じ取ったのですが、この世界にハマったら帰ってこれなくなる、と思い工学部の情報系の道に。物理の先生からは非常に残念がられましたが、人生とは不思議なもので、いつの間にかこちらで物理にも関係する記事を書かせて頂くことになりました。


この記事は素晴らしい!面白い!と感じましたら、サポートをいただけますと幸いです。いただいたサポートはParoleの活動費に充てさせていただきます。