COLLECTIVE レビュー #31 長野さくら『あの日のうどんのことならもういい、』(福岡県)
毎年、47都道府県のさまざまな地域から ZINE が送られてくる COLLECTIVE。なぜ47都道府県をコンセプトにしたかというと、企画を考えた2017年頃の、東京の一極集中型のカルチャーの雰囲気に少しだけ嫌気がさしていたのと、編集者としていろいろな町に出張するようになって、(当たり前だけど)その土地土地に表現者がいて、クリエイティビティがたくさん点在してるなと肌で実感し、感動したのがきっかけだった。今でこそ「ローカル」という1つのブランドとして語られるようになり、各地の「ものづくり」の分野もずいぶん可視化されたと思う。COLLECTIVE を「今年で最後」としたのも、その空気に敏感でいたかったからでもある。ローカルとトーキョーを、境界線で引く時代はとっくに終わっていた。
SNS の普及が進みすぎて、カルチャーがコモディティ化されたと言ってもいい。とにかく、どこに住んで何を発信しているかよりも、誰が、何をしているか、が重要になってきた。主語はより小さく、小さくなり、ZINE という言葉の川が氾濫する。
ただ、それでもぼくは、その「土地」に染み付いた何かに期待している。町の空気、におい、温度、余白。それらにスペシャルなムードが漂っていると、どこかで信じている。
COLLECTIVE 2022 ZINE レビュー #31
長野さくら「あの日のうどんのことならもういい、」
九州のはしっこ、福岡の北九州で8年間を過ごした作者が、自身の足あとを辿るために描かれた短い小説のような物語が綴られた ZINE「あの日のうどんのことならもういい、」。まずタイトルが好きすぎる。作者は北九州にあるゲストハウス「PORTO」でイベントやギャラリーを企画したり、日常をブログやSNSで発信する長野さくらさん(現在は愛媛松山在住)。
さまざまなメディアの在り方があるけれど、「思い出す」ために残すというのは ZINE 特有だなと思った。雑誌や書籍ではなかなか「個人の記録」は許されない。
フィクションやノンフィクションの境界線も、描かれてる町や主人公の境界線もないシームレスな世界でたんたんと繰り広げられる人間ドラマのような物語。すらすらと自然と気負いなく読み進めることができる文章は軽快で、今にも香りが漂ってきそうなみずみずしい描写にうっとりする。長い詩を読んでいるかのような。
短編小説と言われると少し構えてしまうかもしれないけれど、このくらいの ZINE ならたくさん読めるなと思った。もっと ZINE で小説を出す人、増えるといいのに。
今回の COLLECTIVE の中でも上位に入るオススメ具合です。
長野さんの今後の活動ももとても楽しみ。
北九州にもいきたくなった。
レビュー by 加藤 淳也
---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----
【 ZINE について 】
九州のはしっこ、福岡の北九州で8年間過ごした、私の足あとを辿るようなエッセイ、今はない景色の寄せ集め、あるいはただのフィクション。このまちに漂う温かなだしの香りを、離れても思い出せるように作りました。
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