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issue 45 「真夏のジャズはモヒートの味」 by ivy

ジャズが好き、なんて自分でいうと洒落臭い感じがしてならない。ましてや部屋でジャズをかけているなんて、自分でもクサいなあ … って。

金管バンドはトロンボーン1年で挫折したし、楽譜は読めないし、プレイヤー側では絶対に何も話せないんだけれど、私はジャズが好き。部屋や通勤電車で聴いていて「今日も悪くないな」って思わせてくれる。そんな聴き方だから、ごくありふれた日常、一人で聴いているんだ。

さて、蒸し暑い茹だるような今年の8月。一番よく聴いていたジャズの話をしたい。夏が終わる前に、みんな聴いて。これは必ず。

ポール・デスモンドの『サマータイム』。そのまんま過ぎるタイトルなんだけど、これが気持ちいいの。ジャズだけど、夜、バー、煙草じゃない。むしろうんざりするくらい照りつける太陽、蒸し暑い部屋、特別じゃない日のやるせなさに、気持ちいい風を吹かせるような、そんなアルバムなんだ。

ポール・デスモンドは、カリフォルニア出身、50〜70年代に活動していたサックスプレイヤー。彼自身の出自を象徴するかのように、果てしない太平洋の海岸線と太陽がよく似合う、陽性の音が気持ちいい。かといって、根っからの陽気さとも違って、音はパワフルというよりは繊細・曲線的。

活動的でわくわくした夏休みではなくて、ひたすらに憂鬱でしかない真夏の平日、朝の部屋が蒸す頃に聴くと丁度いい。窓を開けて、扇風機をつけて、プレイヤーに針を落とす、そんな塩梅だ。

全然行きたくないけど、出社しなきゃいけない日、山手線に乗りながらイヤフォンで聴いている。電車の揺れがグルーヴと重なって、額の汗をハンカチで拭う。だんだんと気持ちの波がサックスの音色にシンクロして、「ああ夏の日も悪くない」そう思えたらその日は乗り切れる気がする。

きっとおじさんになった頃、この文章を読んで笑うと思う。洒落臭いなあって。ちょっと恥ずかしい。ただ、その頃はもっと洒落臭いことを涼しい顔をしてできるやつでいたい。それこそ、このアルバムでプレイしていたポールみたいに。

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イラスト:あんずひつじ

ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!
https://www.instagram.com/ivy.bayside

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