『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #47 『中国庶民生活誌 裏街春秋』島尾伸三
2024年9月19日の一冊
「中国庶民生活誌 裏街春秋」島尾伸三(東京書籍)
長崎で暮らしていると、日本文化と並行して中国や南蛮の文化に触れる機会が多々ある。わかりやすいところで言うとカステラや麻花兒(マーファール)といったグルメや土産物などから、大浦地区のグラバー園や孔子廟といった建築物などからも、その片鱗をチラホラと感じ取ることができる。
毎年2月には、長崎中華街を拠点として催される中国の旧正月を祝う、ランタンフェスティバルがメジャーなイベントとして定番である。年に一度の楽しみの一つだ。
それらは意識せずとも当然のように生活のそばにあるが、大人になって U ターンした今、長崎の街で日々を暮らしながら、あえて意識的に街や文化を観察することが増えた。
今年の夏、中国盆を体感する催しに参加してみた。
『長崎唐風景中国盆』。
日本最古の唐寺・興福寺創建をきっかけに、長崎市内に建立された崇福寺にて行われ続けている祭事。長崎在住の中国の人々の間で賑やかに行われる。
豚の頭が中心に据えられた祭壇や、寺全体に施された華美で彩色豊かな装飾は見るものを圧倒しつつ、敷地内を朗らかに包み込んでくれる。複数の檀家さん方による法要は、木魚だけでなく鈴や大太鼓も奏でられ、リズミカルで音楽のよう。
すぐ近くで長い間行われてきたものの、未知の世界が広がるその光景に、この場がつくりあげられてきた文化や歴史を思っては、好奇心がくすぐられ、興奮が湧き出し、この祭事の起源をもっと知りたいと思った。
その導入として、まず調べられそうと思ったのが、至る所に掲げられた装飾に彩られた中国の文字だ。
その場で目に飛び込む文字を片っ端から Google レンズで撮影しつつ、その場で調べることで、なんとなくわかった気になってその日は終わった。
それから一週間としない日に、たまたま立ち寄ったリサイクル本屋で出会ったのが、この本。
島尾伸三さんによる『中国庶民生活誌 裏街春秋』。
「庶民」「生活」「裏街」というのが、なんとも言えない。私のツボを突いてくる。そうそう、知りたいのはそういうことなのだ。今気づかされているのに「わかっているじゃないか」と偉そうに頬を赤ながら、鼻息を立てる。意識していたからこそアンテナが反応したに過ぎない。
この本が発刊されたのは1994年。私が生まれたちょっと後くらい。
当時置かれていた中国の社会情勢、これまで彼らが歩んできた歴史とその時点での状況下、香港・台湾などとの関係などを踏まえながら、中国の市井の人々の生活や文化や風習を知ることができるものだということが、読み進めるうちにわかった。
春夏秋冬を区切りとして、その季節の流れで執り行われる行事や、古くからの言い伝えなどのキーワードとなる ”中国語” をベースとして語られる。
まさに、私が崇福寺の中国盆の日に自ずと引き込まれていった学び方とマッチした。異国の文化、生活を知るきっかけとしての言葉。
日本人としてある程度、漢字の意味をもとにして意味を想像することができるものの、その奥の社会的・文化的背景までは、さらに踏み込まないと知り得ない。
しかし後々、中国国内でも「恭喜発財」という挨拶が当然になったとのこと。それは1980年初めあたりから、香澳同胞と華僑の出入りが激しくなったからとされる。
このように、政治的背景と人々の生活は常に結びつき、人々の動きや社会の変化に従って、言葉の扱い方にも歴史が伴うこととなったのだ。
残念ながらこの本には、中国盆については語られていないが、思いがけなく中国語、そして中国の近年の社会や歴史について学ぶきっかけを得た。
もともと大変興味があったというわけではないけれども「なにか気になる」からスタートして、自然と知識がつくのはとても楽しい。そして、日本人として知っておかなければならないことも多々あるだろう。
その第一歩としての一冊として、最適な本に出会うことができた。
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