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issue 34 「時が止まった街、高崎。 〆は創業100年銭湯へ。」 by ivy

旨い飯と酒、そして風呂。これだけ揃えば、旅は楽しい。日本国内においては特に。

特に理由もなく会社を有給にした日、せっかくだからどこかへ旅行でもと思った。金はあまりない。時間はある。ただし、帰ってきて一息つく間もなく仕事がある。だから、あまり遠くへは行けない。そんな時にふと浮かんだのは、上野駅のアナウンスだった。

「この電車は ○○ 急行、高崎行きです」

ああ、そうか。上野から群馬って直通で行けるのか。よしきた、多分在来線だし関東だし、大してお金も時間もかからないだろう。たぶん飯と酒、それから風呂くらいあるでしょ。

何も決めずに普段のお出かけの荷物で、高崎線高崎行き、乗り込んだんだ。

2時間弱、思ったより体感時間が長い。普段電車に乗るのは長くて30分とかだから、そりゃそうか。とりあえず、一番大きな駅だから何かあるだろうって降り立った高崎は、群馬県最大の街だ。駅も立派で、新幹線も乗り入れている。ホームにはそれなりに人がいて、駅前だって賑わっている。そして、駅を出て、数分歩いてみたら ... これがびっくり。ゴーストタウンと化してしまう。県内最大の繁華街、という触れ込みの「中央銀座商店街」は昼の二時だというのに人っ子一人いなくて、400メートル弱の長いアーケードが見事にシャッター街。一見すると周囲にも建物が密集しているようだけど、近寄ってみたら空き店舗や使われずに倉庫と化している建物が目立つ。そして何より、商店街に歯が抜けているように更地があって、薄暗いアーケードに光が差し込んでいる。これは参った、どうしよう。やっぱり下調べもなしに来るんじゃなかった !!

元々は古くから発展してきた高崎市。群馬県の商業・交通拠点として知られている。しかし、近年は大型ショッピングモールや自動車での来店を前提とした量販店が増加したことで中心市街地が衰退しているという。

なるほど、そんなことを意識してひと気がない街を散歩したら、結構面白い。在りし日、高崎市の繁栄をそのまま残した建物が数多く残っていて、ちょっとした博物館気分だ。アーケードの入り口は妙にバブリーなネオン看板、スナック街の外れにそびえる名画座、昭和の匂いが充満したローカル百貨店、レトロ過ぎてもはや映えているラブホテル、ぎこちないフランス語を冠した老舗喫茶店 ...。こんな景色、どんなに外れた場所に行ったって都内じゃお目にかかれまい。

さて、飯と酒は、案外たやすくありつけたんだ。一応は県内最大都市だもの、それは間違いない。それはよしとして、風呂は困った。かの有名な草津温泉は高崎から更にバスで2時間かかるらしいし、高崎は温泉地ではないから。地元の醸造所が角打ちになっていて、のんびり一杯やりながら店のオバちゃんに聞いてみたら少し行ったところの銭湯を勧められた。

その名も「浅草湯」。なんでも、明治時代から続く地元では有名な老舗だそうで、高崎に住む人に愛されている、旅行者が行かない場所だそうだ。昭和のまま時が止まった街並みと、昼間の角打ち、そのまま銭湯なんていいじゃないか。かぐや姫の「神田川」をイヤホンで聴きながら、千鳥歩きで向かったの。

着いたらこれまた驚いた。かろうじてついた明かりがなければほぼ間違いなく廃業していると勘違いしたであろうエイジング具合なんだから。曇りガラスの引き戸を開けたら、そこは脱衣所で、木製のロッカーはとっくに役目を終えていた。いやあ、まあ、こんな空間が残っているのかって圧倒される。ついでにいうと、ロッカーに限らず、あちらこちら欠けている。富士山があるはずの場所には謎の熱帯魚水槽があり、浴槽は昭和の人間サイズなのかかなり狭い。それでもあたりを見渡すと、地元のじいさんたちは、独自のコミュニケーションをとりながら、この時代と共に色々とガタが来ている銭湯をめいいっぱい楽しんでいる。ロッカーがないから、かごに荷物を入れて、それぞれ目立つ場所に置いたり、浴槽で膝を曲げて譲り合ったり。否が応にも他の客と話すので、これまた昭和の銭湯そのままなんだ。

時が止まった地方都市の、遺産級銭湯。どうしようもなく暇な日があったら、旅先の候補にはおススメだ。くれぐれも、デートでは行かないように。


イラスト:あんずひつじ


ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。
日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!
https://www.instagram.com/ivy.bayside

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