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エキシビジョンレポート 『TARP Vol.4 CITY/街』 発刊記念展 @ 亀戸アートセンター

今日みたいに風が強くて寒いと、立っているだけでしんどい。前に進もうと思うとなおさら。いや、立ってるだけの方がしんどいかも。だからそんな時、少しだけ風をさえぎるものがあるだけで寒さはやわらぐし、この風さえなければ本来は居心地がいいことに気付けたりする。

「この風さえなければ」というのは、わりとしょっちゅうある。桜はきれいなんだけれど、この風がねー、とか。せっかく海辺に来たのに、風が強くてベタベタとか。

雨風をしのぐ洞窟みたいなものがあればいいけれど、この社会では不法侵入でも試みない限り洞窟のようなところはそうない。例えばコンビニとか、駅のエントランスとか。仮にここが何もない野原ならタープを張ったりする。「タープ」は雨風をしのぐための大きな布。それをくくりつけるロープや自立させるためのポールなんかがあれば、なおよし。

布切れ1枚ではこころもとないと思うかもしれないけれど、これが案外いい。覆われると、洞窟に避難したかのような安心感が得れる。キャンプなんかであの包まれるような安心感を体験したことがあるひとも多いかもしれない。その安心感は太古から遺伝子レベルで伝わる本能だと思う。

話は前後するけれど、先日『亀戸アートセンター(以下KAC)』で開催中の『TARP(タープ)』による展示を見てきた。

さまざまなスタイルで活動する表現者たちのドローイング作品を毎回1つのテーマで1冊の ZINE にまとめるという活動を過去3年続けてきた彼らの4年目の新作 ZINE の出版記念と収録されている原画作品の展示を兼ねた作品展だ。過去3年はパークギャラリーで行われてきたけれど、今年からは東京の東のアートシーンを牽引するギャラリー KAC での開催となった。

4冊目のテーマは『CITY / 街』。11人の個性豊かな作家のそれぞれの解釈による『シティ感』が、KAC の1階とロフト部分に並ぶ。ひと目見ただけでは『CITY / 街』というテーマを見失ってしまいそうなほどには自由。街全体を捉えようとする作家もいれば、細かなディテールの追求をする作家も。モチーフこそ「ひと」「ねこ」「街並み」とシンプルだけれど、「ピーポくん」の登場回数が多いのが TARP らしさ、と言えるかもしれない。ところどころこにかすかに感じるアナーキズム。その香りを嗅ぐのも TARP の鑑賞の楽しみのひとつ、なのか? ちがうかも。

TARP 主宰のひとり・半袖氏
シニカルなモチーフ、視点、切なさがいつ観ても楽しい
自身のフェティッシュに執着した表現が印象的
こちらは霜田哲也氏によるピーポくん
一筋縄ではいかない
誰しもがどこかで観たことのある風景のかけらを
描く行為を通じてゲシュタルト崩壊させていくかのような霜田氏の作品
霜田氏とユニット「やさしいパンち」を組んでいるリダヲ氏の作品
呼吸するようにカルチャー/サブカルチャーが表現されている
「生きるのだ」という一風変わった作家名同様
この社会を力強く生き抜こうとするエネルギーを感じる作品

11人もいるとたいていの場合バラバラに見えてしまう、もしくはまとめようと思うとカタログのようにガイドしていくしかない中で、TARP の ZINE ならびに展示は、カタログ的に見えてカタログ的に非ず。うまく言えないけれど「見えない何かでつながっている」ような感じ。口裏を合わせるとか、誰も知らないキーワードがあるとか、そういうニュアンスのつながりを、並んだ作品群から感じることができる。秘密結社のような。ベールに覆われたなにか、だ。

「ベール」。それは冒頭で話したタープのような布。表現者をそっと包み込むような精神的な布。概念としての布。

イラストレーションや現代アートといった枠に捉われない中村美和子氏
街角の蛇口を描いた、こう見えた、以上。とでも言わんばかりの
無地のシャツをさらっと着こなすような表現にいつもうっとりする
市販の領収書の裏に絵を描き続けている海老沢竜氏
今回は徹底的にフィッシュマンズを描いている
海老沢氏の本気を感じた
領収書の裏もあれば段ボールを使った表現も
架空の街、ゲームを表現したミトミルルイエ氏の作品
子どもの頃に遊んだゲームみたいで笑った
イラストレーターとしても活躍するナカムラミサキ氏
TARP と並ぶといつもよりもリラックスして見えるから不思議
これも「タープ」のなせる技

4年も付き合いがあるといつの間にか、どこかで誰かの作品を見て「TARPっぽい」と思うようになった。それは活動がインディペンデントであるとか、モチーフ選びが斜め上を行ってるとか、作風に反して謙虚であるとか、この社会に多少の生きづらさを感じているとか、コトバで並べることはできるけれど、その前に、表現者をやさしく包む一枚のタープの存在が見え隠れした場合。「TARPっぽい」改め「TARPと出会ったらいいのに」と思う。それはキュレーションを担いながらも自身も作家であるルイゾナ氏に出会ったらおもしろくなりそうだなという意味で。

TARP 主宰のひとりで作家のルイゾナ氏の作品
歩いてみた街角と光を断片的に切り取ったコラージュ作品
サンプリングの具合がとても上手だと思った、隠れた才能
最近では TARP と聞くと春日井さゆりさんの絵を浮かべるようになってきた
今にも浮かんで溶けてしまいそうな描写が秀逸
モノクロームで活き活きとした女性を描く須藤はる奈氏
街の中を楽しそうに笑う二人を見ていたらなんだか涙が出そうになった
女性に限らず強さ、美しさというのは儚い

KAC 主宰のふたりのやわらかで、でも鋭い審美眼、そしてやわらかい「タープ」に覆われた作品たちはその安心感と、充足感でいきいきとしている。「大丈夫」と言われて、安心しきっている。だからモチーフ、タッチ、塗り、どれを取っても楽しいし、それぞれがリラックスしているように感じ取れる。

現代アート、イラストレーション、画家、コマーシャル、知名度、日々の営み、しごと etc... いまにも吹き飛ばされそうな冷たい風が吹き荒れる社会、ならびにアート業界で、自我を持ちながら強く立つというのはしんどい、というか無理に近い。これを読んでくれているひとの中にも、心が何度も折れて、ツラい思いをしているひともいると思う。そんな時に、TARP ってあったらいいよなって思う。ぐっと風を押しのけて、静かな時間と場所をくれる。「それだけでいいんだ」と強く思うこと、何回あったか。

数日経って、酒もまわって、何を言いたかったか忘れましたが、その TARP のやわらかな空気と、概念としてのタープに包まれたそれぞれの作家のいきいきとした表現を、ぜひこの機会に見てほしいと思った。じっくりゆっくり見て、作家と話をすれば、帰り道、なんだか自分も、やわらかいタープに包まれた気持ちになれると思います。

気分がよければ隣にある回転寿司『銚子丸』で一杯飲んで帰るのもありですし。ありで寿司。

ギャラリーのついでに寄ると
グラスさえもアートに見えるから不思議
お子様用にカットされたかんぴょう寿司は
酒のアテにちょうどいい。わさびをつけていただく

「TARP vol.4 CITY/街」
会期:2024年1月12日(金) - 1月24日(水) ※ 会期中無休
時間:平日 16時 - 22時 / 土日 13時 - 19時
場所:亀戸アートセンター (KAC)
最寄:都営新宿線 東大島駅 大島口

参加作家 :
海老沢竜 | 春日井さゆり | 中村美和子 | ナカムラミサキ | リダヲ | ミトミルルイエ | 霜田哲也 | ルイゾナ | 生きるのだ | 半袖 | 須藤はる奈

【関連イベント】

■ ガチャガチャ
■ 期間限定プリント

会期中「TARP vol.4 CITY/街」出版記念デザインを、お持ちいただいたTシャツ、シャツ、布バッグなどの布もの(綿100%)にその場でプリントするイベントも開催します。

\ さらに /

ドローイング ZINE『TARP』に収録された過去の作品をリソグラフプリントで再構築したポスター展『RE TARP』を PARK GALLERY 2階で開催中です。
パークから徒歩10分のところに位置する小川町駅と東大島駅は都営新宿線で一本なので、ぜひ両方ハシゴして楽しんでください。

TARP PRESENTS
RISO PRINTS EXHIBITION
『RE TARP』
2024年1月17日(水)~1月28日(日)
場所:PARK GALLERY 2階(東京・末広町 / 湯島)
東京都千代田区外神田3-5-20
<入場無料>

営業時間:13時〜20時
定休日:月・火曜

最寄駅:東京メトロ 銀座線・末広町駅(徒歩約5分)千代田線・湯島駅(徒歩約7分) JR 秋葉原駅 / 電気街口(徒歩約10分) JR 御茶ノ水駅 / 聖橋口(徒歩約12分)


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