COLLECTIVE レビュー #43 谷口実里『最後のラブレター』(京都府)
そういえば2017年に収録したラジオで、ZINE 作家として活動するカナイフユキくん、蛭田竜太くんをゲストで招いて(蛭田は当時スタッフ)、ZINE に対する考えを聞いたことがあっZINE における「パーソナル」がテーマで、いろいろな話をしているのだけれど、改めて聞いてみると、カナイフユキくんの「SNSだとノイズが多すぎる」という点が気になった。自分の個人的な思いを吐き出すのなら、別に SNS でもいいんじゃないか、というぼくの乱暴な問いに対する回答だけれど、納得したのを覚えてる。不特定多数の人に見せるほどのものではない、という感覚が、大事な時が多々ある。何でも見せればいいってもんじゃないってこと、多々ある。あえて ZINE にするというのは、手の届く範囲の(もしかしたらまだ温度が残っているかもしれない)、そんな距離や時間、誰かがたまたま手にするという偶然性にも意味があるんだと、もう一度気づかせてくれた。
COLLECTIVE ZINE REVIEW #43
谷口実里「最後のラブレター」
京都を拠点にアーティストとして活動する谷口実里さんの ZINE「最後のラブレター」は、ZINE が、言葉のぬくもりや、想いの温度を届けるために優れた媒体だということが実感できる1冊。「手紙」という表現もその想いを加速させる。アーティストの谷口さんが絵画表現や執筆活動の際に掻き立てられるものは、過去のいじめや閉鎖病棟への入院経験。そこから見えてきた「今ここにある日常」が、彼女の創作の意欲や衝動へとゆるやかにつながっている。インスタグラムで見ることができる絵画表現も力強く、生命力を感じることができるが、ZINE でも、今まで感じたことのない不思議な強さを感じることができた。
2018年に書かれたある「手紙」が、2022年に初版として ZINE になった。
手紙は入院中のもので、その当時のありのままの言葉と、写真で構成され、38ページにわたる。手紙の中で谷口さんが向き合っている「あなた」が何を指すのか、読み取ろうとすると、指先からまた逃げていく感じ。
リノリウムの床に靴音がコツンと響く音、無機質な空間。ミントの歯磨き粉や館内着のにおい。五感でとらえようとするも、実態を掴めないまま短い手紙は終わる。
至極パーソナルな感情が、空中に浮かんで見える。
こういう、言葉の空気と、温度はどうやって表現できるのだろう。
言葉を揺らして、空気で温度を伝えることができる作家だなと思いました。
白い封筒のような、いさぎのよいデザインが一際目をひきます。
言葉の温度のことを思いながら、めくってみてください。
レビュー by 加藤 淳也
---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----
【 ZINE について 】
あなたが結婚したことを知りました。私が閉鎖病棟から退院した、約1週間後のことでした。これは私が入院中にかいたラブレター、あなたへの「最後」のラブレターです。2018年に作成した、写真と詩による ZINE。