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『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #30 『北斎漫画 3 -奇想天外-』

#30
2024年5月23日の一冊
「北斎漫画 3 -奇想天外-」(青幻舎)

今週末まで開催中の『浦上コレクション HOKUSAI MANGA -脅威の眼・脅威の筆』へ行ってきた。会場は、長崎歴史文化博物館。私が通った中学校への通学路の道中という ど近所 で北斎の作品が見られるなんて夢にも思わず。引っ越し後のドタバタが落ち着き、新生活も板についてきた(?)ところでようやく足を運ぶことができた。

せっかく展覧会に行くことができて、刺激を浴びたので本日の一冊はこちらの『北斎漫画』をご紹介。

これはシリーズ3冊目。1と2を抑えて、最終巻をまず手にしてしまったのは図らずも『奇想天外』というテーマが、私を引き寄せたからである。

葛飾北斎(1760-1849):
江戸時代の浮世絵師。『富嶽三十六景』で知られる、世界で最も知られる絵師。19歳で絵師となり90歳で亡くなるまで、数多くの作品を世に残す。貧しくなると画号を売り何度も改名したり、掃除を嫌い生涯で93回も引っ越しを繰り返すなど、その画狂人っぷりは伝説的に語り継がれる。

そしてこの『北斎漫画』は「神奈川沖浪裏」や「赤富士」などを含む『富嶽三十六景』と並ぶ北斎の代表作の一つである。

『富嶽三十六景』を単純に ”風景画” とするならば『北斎漫画』は ”挿絵” “風俗画” “江戸の図鑑” といったところだろうか。

今回紹介する青幻舎から発刊された『北斎漫画』は、文庫サイズの全三巻。1は人々の暮らしや生活シーンといった江戸風俗を描いた「江戸百態」、2は動植物など自然を題材とした「森羅万象」、そして3に「奇想天外」と続く。

どれも、北斎の持つ観察眼と取材力にため息が出るほど、ひれ伏してしまう。圧倒されるというより、「ヤラレター」と膝を打つような ”遊び” の効いた面白さ。対象を見て、理解し、それを描写する力。見る人々の懐へするりと入り込んでしまう愛嬌を持ち合わせた表現力。なんてセンスなのだ。

江戸の暮らしは、令和の現在と比べたら当然、文明に乏しく不便であろう。しかし、北斎の描く江戸の世は、滑稽で穏やかで豊かに見える。”おでぶちゃん” や “やせっぽち” を対比して描いたり、市井の人々の人間模様なんかも細かく楽しげに魅せてくれる。干支や身近な動物までも、目の前で動き回っているかのように生き生きとしている。

それら一連の作品に目を通したうえで、さらに北斎の脳内に繰り広げられる世界の広さと深さを思い知らされるのが「奇想天外」編。

「狂態百出」「故事拾遺」「百鬼図会」「神仏風姿」と章が並び、その内容は和漢の故事や伝説、芝居の名場面、宗教的画題、幽霊、妖怪といった幻想的な世界がまとめられている。(個人的に大好物のジャンルなので、文字面だけでもゾクゾクする)

実在した人物から空想世界の生物たちまで、繊細に美しく描かれながらも、ダイナミックでドラマティックに、まさに現代の漫画やアニメーションにも通ずる技術にハッとする。「奇想天外」編で描かれる一枚一枚の作品から、その背景の史実や物語を紐解いていくのも、きっと楽しいだろう。

また、この本の面白いところは、当時発刊された『北斎漫画』の、木版で擦られた和本をスキャニングし、和本のデザインそのままを文庫の状態で楽しむことができるところ。断裁された小口にその意図が見られ、本全体のデザインへのこだわりを感じられる。(‥と思って奥付け確認したら、ブックデザインはコズフィッシュの祖父江慎さんでした)

遥か200年も前のアートをこうして今も楽しむことができる喜び。時代の変化とともに生活風習や文化の違いはあれど、人間たちの滑稽さやかわいらしさはさして変わらぬことや、語り継がれる歴史や伝統を当時と同じように学んだり、幻想的物語を膨らませたりすることを、北斎の版画を通して味わうことができる。

まさに、アート、そして本は、時代も土地も超えていくのだと実感。今後も江戸から令和、版画から漫画まで、縦横無尽に摂取していくぞお。ああ、忙しいなあ(歓び)

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秋光つぐみ

30歳になるとともに人生の目標が【ギャラリー空間のある古本屋】を営むことに確定。2022年夏から、PARK GALLERY にジョインし、さらにその秋から古本屋に弟子入り。2024年4月にパークの木曜レギュラーを卒業、活動拠点を地元の長崎に移し、以後は本格的に開業準備に入り、パークギャラリーでは「本の人」として活動予定。

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