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COLLECTIVE レビュー #01 新多正典 『Re-vision 1.0』 (京都府)

今年も COLLECTIVE がはじまった。PARK GALLERY が ZINE というメディアについて向き合うために、そして、カルチャーが過剰に一極集中する<東京>という地から、全国の表現者にタッチするためにはじめた企画で、もう5年経った。

思えばたくさんの ZINE を通じて多様なコミュニケーションをしてきたように思う。この毎年のレビューシステムもそう。すごい大変な作業だけれど1つ1つ ZINE に向き合い、そこでキャッチした思いをまっすぐ綴ると、多くの ZINE 作家が感想をくれた。

ぼくらのレビューがモチベーションへと変わり、自信につながり、時に今後の創作の方向性を左右させた。人生を決めたひともいた。だからと言って決してぼくらが答えを導くわけではない。あくまで <ZINE> というモノリスにそれぞれがタッチしながら、手さぐりで、それぞれが行きたい場所を探す旅なのだ。あくまでガイドにしかすぎない。
 

昨年の COLLECTIVE の様子

 

COLLECTIVE をきっかけに、本当に多様なコミュニケーションを重ねてきた。その中の一人に、写真家の新多正典氏がいる。氏がはじめて参加したのが2018年。最初の COLLECTIVE だった。ブラジルに通い、北東部の伝統音楽「マラカトゥ」を追ったドキュメントを収めた PHOTO ZINE でのエントリー。3年目の2020年には続編とも言える新作が届いた。いずれも命の鼓動を感じるような力強い写真たち。今にも目の前の空気中に漂いそうな熱気、音、汗、祈り。まさに血湧き、肉踊る。身体で(フィジカル)その場所に赴き、心(エモーショナル)で、感じるままに撮る。

「証明」すること。

それは旅行記にもルポにも、映画にも成しえない、<写真>にしかできない表現だなと改めて感動したものだった。

それを機に少しずつゆっくりと交流がはじまった。いい写真とは何か。写真家とはどうあるべきか。ラブもヘイトも、たくさん話してきた気がする。鋭い目で迫る彼の問いに対して、ありきたりな言葉で答える、というような会話が多かったと思う。同時にお互いが自問自答しているようでもあった。いずれにせよ COLLECTIVE がきっかけとなって、1人でもこうして本音で話せるクリエイターに出会えてよかったと思ったのだった。

 

 

COLLECTIVE 2022 ZINE レビュー #01
新多正典「Re-vision 1.0」

新作「Re-vision 1.0」は、新多氏によるモノクロームの都市型心象風景を連ねた PHOTO ZINE「ストリートスナップファイト」(2021)を読解するための本の1つで、「写真集をどう見たらいいのか分からない」というある声から端を発した新多氏のフィールドワークの副産物であり、聖域化させながらも SNS 的コマーシャリズムに傾倒する現代の芸術写真に対するアンチテーゼとも言える。

  

 

あえて難解に編み上げたとも言える「ストリートスナップファイト」という自身の写真集を、76Pにわたって、様々な視点とクリエイティビティをもって客観的かついたずらに分解(Re-vision)することが目的の本誌。風景のような、模様のようなカッティングエッジなモノクロームな新多ワールドを、個性豊かな14人が、どう噛み砕くのか、それを楽しむ作品とも言える。

ある人は絵画で、ある人は鋭い観察眼で、ある人は詩で、ある人は写真とはまったく関係ないんじゃないかという、それぞれのやり方で、「ストリートスナップファイト」と対峙し、ドキュメンタリー的にレビューしていく。写真の中を泳ぐかのように溶け込むコラボレーションもあれば、摩擦のような瞬間を感じさせるセッションもある。そこから生まれた様々な角度のアプローチが読み手に作用し、写真を届ける側と受け手の間にある透明な分厚い壁を少しずつ(無意識のうちに)溶かしていく。気がする。

 

 

無骨なデザイン、無骨な態度に思えるが、それは現状の新多さんにおいて段階的に必要な行為なだけで、それは手に取ればわかる。本質を見ると、一連の流れは「写真を見る人たちを置き去りにしてはいけない」という使命で一貫している。その理由は本人が冒頭でも(あえてむつかしく)淡々と語っているけれど、オファーを受けたゲストにまで、その狙いは影響しているように思えた。読み終えると、筋肉がほどけている、そんな印象だ。

難しいようで難しくなく、重そうで軽い。暗いようで明るい。うるさいようで静かで、つまらなそうで楽しい。それは知ろうとすればするほど、奥が深く、幅が広く、豊かだ。
 
つまり写真集という表現は本来そうあるべきなんだと思った。極論、退屈なら落書きすればいいし、嫌なら燃やせばいいし、しかし興味を持ったなら、触れるべきだし、心の中でもいいから、言葉で、写真とセッションすればいい。いや、写真だけじゃない、もっとアートというのは自由で、傲慢でいいと思う。ただただ「リビドー」に忠実になって、呼吸をすればいいのだと思う。そもそも「ストリートスナップファイト」を知っていようがいまいが、この「Re-vision」にはそう思えるレビューがたくさん載っているし、このレビューを読んだ人が少しでも「写真集」に興味を持ってくれればいいし、これがきっかけとなって、新多氏の写真の世界にタッチどころか、ダイブする人が出てきたら、それがうれしい。

 

 

そこで思うのは、なぜここまで利他的に、自己犠牲的に、高いコストをかけて、<写真を見ようとしない人たち>の背中に寄り添おうとするのか。いい写真があればそれでいいという原理主義からは少し遠い気もする。その真意が知りたい。

例えば、もしかしたら、こうしてレビューを重ねる上で見えてくる一種のバグのような<写真の可能性>が、彼にとってのもう1つの写真家としてのプロセスエコノミーを産むのかもしれない。副産物の副産物が、ある時、作家を耕すということが大いにある。

 

これがめちゃくちゃ好きだ

  

さて、その真意を、今度会った時に、酒でも酌み交わしながら話したいと思った。月末の週末に、京都からやってくる予定だ。みんなで話せたらもっと楽しいと思う。

レビュー by 加藤 淳也

 

---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----

 

【 ZINE について 】

2023年に完成を目指すモノクロの都市風景写真をあつめた「ストリートスナップファイト」のレビュー集、そのプロセスエコノミーです。「写真集をどう見たらいいのか分からない」という疑問を出発点に、聖域化し大上段に構えた芸術写真に対して思ったことを言おうをコンセプトに、まずは拙作「ストリートスナップファイト」を標的に言語と絵画で写真を分解していきます。写真表現は哲学を持つものであれ、アートは知的好奇心を刺激するものであれ、を願いに込めた1冊です。

タイトル 『Re-vision 1.0』
価格:¥3,850(税込)
ページ数:76P
サイズ:A4変判
印刷:全ページリソグラフ印刷


作家名:新多正典(京都府京都市)
京都市在住。写真の仕事の傍ら、写真を軸にしたZINE製作が主な作家活動です。ZINEはこれまでブラジルのファベーラの暮らしとカーニバルに密着したドキュメントと、モノクロの都市風景写真、計4作をつくりました。
https://explodeco.thebase.in
https://www.instagram.com/nitta_masanori

【 街の魅力 】
知恵のあるクリエイターと呼べる人が多い(=生き抜く能力が高い)。

【 街のオススメ 】

① BAR BAGLIORE(BAR) ... ワインとワインに合う料理が信用できる。

② hand saw press kyoto(印刷所) ...  リソグラフ印刷の ZINE を製本まで手掛けてもらいました。

③ みなみ会館(映画館)... 東京はじめ他の映画館と一線を画す特有の審美眼で上映作を並べています。昨年は日本初上映の映画を持ってくるなど力技も凄い。2021年は40回以上通いました。

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