issue 35 「世界一美しい本屋の、世界一ものぐさなブックバッグ。」 by ivy
それどこの?って聞かれたい。
その日身につけているもので、これをいわせたらあっぱれだ。相手が洒落者であれば、あるほど。服や靴、鞄、文具、ライター、何にしたっていいんだけど、こういわせられるものがあるなら、それは誇っていい。
私の場合、高確率でいわれるのが時たま使う、緑のトートバッグ。厚手のキャンバス生地で、何やらクラシカルな店の絵があしらわれている、ボックス型の、深さがあるやつ。
どこの?って聞かれたら「ドーント・ブックス」って、サラッと答える。ロンドンにある老舗書店のブックトートだ。コンセプトは、旅人のための本屋。そして、人呼んで「世界一美しい本屋」!
その名に恥じぬ、うっとりするような空間に初めて行った人は息を呑む。20世紀初頭に建てられた店内は、年月を重ねて凄みすら感じさせる木目の本棚に囲まれている。吹き抜けの天井まで本棚に埋まり、店の奥にはステンドグラス …。旅人に向けた世界中の本がジャンルではなく、国別に並んでいるから、知的好奇心を唆り、隅っこの棚、天井近くまで見たくなるんだ。空間はもちろん、店のあり方まで美しい。
そんなドーント・ブックスの象徴でもあるトートバッグ。丈夫な作りと程よい容量は、きっと素敵な本を持って、様々な場所へと旅立っていく世界中からの客たちへむけたものだ。質実剛健でありながらロマンすら感じさせるデザインがなんとも愛おしい。
日本でも時たま被る時があって。それは大抵、センスのいい人だ。ロンドンの旅をして、同じような感動体験を語れたら、それこそ「それどこの?」と同じくらい嬉しい、楽しい。
さて … 散々語っておいてなんだけど、本当にこれは、私にぴったりのバッグだと思う。それも、デザインや思い入れとは、全く別の意味で。
私の部屋には、無駄が多い。本や CD、会期が過ぎたフライヤー、古着、ワインの空き瓶、花器 … その他不要不急なもので、溢れかえっている。ちょこちょこ買っては、ほとんど断捨離をしないので、どんどん散らかる。根本的に、整理整頓が苦手な質なんだ。
だから、カバンの中身も散らかりがち。財布出すだけでもガサゴソガサゴソ、カバンを変えたら必ず忘れ物がある、そんな有様。挙句、本とかタンブラーとかお菓子とか散歩カメラとか、娯楽のために持ち歩くものがやたらと多い。
こういう輩には、容量があり、整理整頓が不要、キャンバスでガシガシ使えて、洗濯機で洗えるドーントブックスのトートバッグは最高なんだ。まあ、よくよく考えなくても、本を持ち歩くタイプの人は、余計な荷物が多いだろうし、部屋も散らかりやすい人が多い。
今どき、本を全部データ化、スマホに入れちゃえばいいんだから。わざわざ本をたくさん持っているタイプの人は無駄が好きなんだ、たぶん。
そんなこんなで、かれこれ数年来のヘビーユーズアイテムとなったこのトートバッグ。改めて思い返せば、当のドーントブックスだって、無駄が嫌いじゃないはずだ。
本屋のために、遠くからやってくる、そんな人を歓迎して、恐らくほとんどの人は手に取らないであろう品々を棚に並べる場所。都市部によくある、整然としてカフェスペースなんかがある、開放的な今どきの本屋とは、似ても似つかない。
どこかファジーで、情報過多で、古めかしくて、でもだからこそ惹きつけられるし、美しい。
世界一美しい、無駄を愛する書店から、無駄を愛する旅人たちへ向けた、究極の実用カバン!そんな風にも見たら、まだしばらくはお世話になる気がしてきたんだ。
もう随分、くたびれてきたけどね。
イラスト:あんずひつじ
🙋♂️ 記事がおもしろかったらぜひサポート機能を。お気に入りの雑誌や漫画を買う感覚で、100円から作者へ寄付することができます 💁♀️