怒っている人は困っている人【GH職で学んだ基礎】

私が新卒から勤めていた会社では接客業をしていた。学生時代からなりたかった航空会社のGH(グランドスタッフ)という仕事だった。接客はアルバイトでも少し経験はあったが、自分が想像していた以上にハードな仕事ではあった。新入社員の頃から5年目くらいまでずっと劣等感と戦いながら仕事をしていた。

国内航空会社に求められるサービスはかなり大きかった。私が入社して4年くらい立った頃から日本でもLCC(格安航空会社)の参入が始まってきていたからそう言ったミニマムなコストとサービスの会社とは差別化できるのはサービス面だと会社もさらに力を入れていた。

そもそも日本の航空会社に対する日本のお客様はとても厳しいのだ。できて当たり前、遅れないのが当たり前。基本的にサービスが悪過ぎる会社なんて少ない方だ。初めてアルバイトする学生だとしても「基礎」がすでに優れている。大抵の人は挨拶なんて言われなくてもできるし、遅刻しないようにと言わなくたって基本は時間通りかそれ以前に到着する。携帯は仕事中は禁止とか言わなくたっていい。今はフランスに移住したから尚更そう思う。笑

何年か経った時、私は国際線の担当もしていた。割と重めと言われている業務の責任者になったのだが、海外からの未着紛失手荷物を海外空港とやりとりしてお客様の元へ返すという仕事だ。重めとは言え、国際線らしく、専用のシステムを使いこなす専門職ではあった。やりがいも確かにあったが、いわゆるクレーム窓口でもあった。

海外旅行すると、不運にも自分のスーツケースが搭載されていなくて到着してそれを知ったりすることがある。何日か後に届くか、紛失してしまうことも稀にある。その第一報をお客さんとして知ったらどう思うだろうか?

手荷物が届かず、怒る人と感謝を述べる人がいる。大抵の人はまず驚くし、怒り出す人もいる。これはもうごもっともだ。ただ、私が驚いたのは第一報を伝えた後に感謝してくれる人もいるということ。

なぜ感謝するのか、手荷物の到着が遅れたと言われ、そのことを丁重にお詫びをされて、全力で探し出してお客様に至急お届けしますと言われたから。実は先ほど軽くディスったフランスからのお客様なんかはありがとうと言ってくれることも多かった。いかに日頃自国でのサービスが酷いかがうかがえる。笑

その点、電車の1分の遅れさえもきっちりと謝罪してもらえる文化が当たり前だと、ハードルの高さがそもそも違う。決して日本人はこうだ、とか言いたいわけではないのだが、私たちの概念の中には「荷物が遅れる」なんてないから当然である。

新入社員の時、とにかくクレームを言われたり怒られたりするのが嫌だった。好きな人はいないと思うが、先輩方は日々クレーム(やお褒め)を受けて強くなっていた。ただ、頭でロジックに考えようとすると冷たい人間みたいになってしまうし、いちいち心で受け止めると心臓ひとつじゃ足りない。理不尽なことに対しては強く出てもいいのだと思うが、悲しかな「若い女の子」がそれを示しても「責任者を出せ」と言われて聞いてももらえなかった。ある程度の年次を重ねると、時々ブチギレて暴言を吐いたり、ものを投げつけて来る人達にも動じなくなった。毎日空港にいると実はこういう人が少なくなくて慣れてしまう、と言うのもあるのだが、5年くらい先輩がある時こう教えてくれた。

「怒っている人は困っている人」

確かに、納得できた。細かい説明は要らないくらい毎日の業務の中で具現化されていたからだ。たまにブチギレる人の5割くらいは同じ原因でそれも航空会社サイドには非がなかったりする。

飛行機に乗り遅れるとパニックになる。

飛行機に乗り慣れている人もいるとは思うが、電車ほどまだ身近ではなかったりする。そう電車感覚で乗れると思ってギリギリに空港に着いて乗り遅れる人は1日に何人も何十人もいる。これまた電車感覚で次の便にとは行かないこともあったりするのでそうなるともう絶望する。国内の地方路線は便数も少ない。海外だと毎日運行してないこともある。

大事な仕事や予定が完全にダメになると分かって航空会社の社員に暴言を吐いたり、責任を押し付けようとしてきたり脅したりしてしまう人がいた。空港には警察がうろうろしているので注意した方がいい。(あまり危険人物だと判断されたら仮に次の便でも搭乗できないケースもある)

こんな人がいると、手続きしようとしても怯えて手が震えてしまったこともある。ただ、尊敬する先輩の教えに倣うとこうだ。「ここに困っている人がここにいる」。バカにしているわけではないが、よく考えて欲しい。自分の都合で遅れて来て飛行機を遅らせられないので然るべき時間に締め切りをしたらお客様が起こり出して暴言を吐いているのだから、毅然と対応するのが筋だ。

飛行機に乗り遅れたんだと言う事実は確かに受け入れるのに時間がかかる。その先の予定がメチャクチャになって完全に困る。困った上にここからどうすればいいのだと解決策が分からずにパニックになっていると考えることは私にもできる。さっさと代替手段を教えて欲しい人もいれば、自分がどれだけ大事な予定を抱えているのかひとまず話したい人もいる。ここら辺の見極めは経験値が必要だったりするが困っているから1つの表現として、怒っているんだと思うと、こちらサイドも少し見方が変わる。接客業は「人の役に立ちたい」と言うスタンスで仕事をしているから、そこら辺は得意分野だし、モチベーションは上がる。誰も怒られたいわけではない。

日本の地方路線の最終便(と言っても昼間)に乗り遅れて途方に暮れていたって仕方がない。日常茶飯事でこんなことは起きているし、同期にお客様目的地辺りの出身の子もいたからここから最速で行ける手段と費用はすぐにご案内できるのだ。あまり冷静に自腹でこの金額で5時間もあれば目的地へ行けますよと言うと角が立つので、毅然な態度は示しつつお力になりますと言う気持ちは忘れてはならない。

ところで、日頃なかなかのサービスを受けているフランスの人々が乗った飛行機がある日、東京が集中豪雨のため空港一時閉鎖で近隣の空港に臨時着陸して来たことがあった。私は急きょスタンバイさせられたけれど、止む無く降機させれたお客様をどう案内して行くのかもよく把握できずお客様を迎えることになった。と言うのも新幹線もストップでここから東京に行く手段はほぼない状態だったから。250名くらいのお客様のうち半分以上が外国籍だった。税関内はアナウンスなども使えないので直で状況説明して行くしかなかった。ホテルは手配済みだとか、明日の便は何時だとか、この時ばかりはフランス人もぶちキレていた。お一人お一人案内すると、お礼を行って帰ってくれる方もいたが、要は機内でも何も案内してもらえず、とりあえず着いたから降りなさいと言われたようだった。おフランスの航空会社の機長が機内でお客様が暴れ出すことを懸念して、とりあえず降りてもらうと判断したと後でわかった。さすが。何人だからとかは結局のところ関係なくて、怒っている人は本当に困っている・・。

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