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朱赤色の革の手ぶくろ

ピンク色の服に合わせるべくオレンジ色のスカートを探しているのだけれど、なかなか見つけられない。欲しいものが具体的すぎるから、時間がかかるのはしかたない。

冬のセール初日。パリ左岸のデパートの服飾小物の売り場で、小さな人だかりを見つけた。

手袋がサイズ別に行儀よく箱に並べられているのを、4-5人が真剣に品定めの最中のようだ。そこに私もなんとなく加わってみた。

朱色に近いオレンジ色のスウェード革が目に入る。巷でよく見かける、熟したイチゴのような沈んだ赤色ではなく、神社の鳥居の色に近い方の赤。これだよ、私の探しているのは。アイテムがスカートじゃなくて手袋だけど、色は正解。

裏地はシルクで、嵌めてみてもいい感じ。まだセール初日だったこともあり、とりあえず気になった品物の値段を他にもいくつかメモして、その日は帰った。

7日後。冬のセール2ラウンド目、さてどれくらい値下がりしただろうかと見に行くと、なんと、値上がりしている!

初日のメモには定価の40%引きだった記録があるのだが、今では15%引きになっている。なぜ値上がり?!セール中って値下がっていくものじゃなかったっけ??

ちなみに私のメモは合っていた(何度も確認してメモったのよ)し、値札の上には値引きシールの剥がし跡が明らかにある。いきなり今季物を四割も値引くんじゃねえ、とメーカーから抗議がきたとかそんな理由だろうか(フランスのほぼすべてのデパートに売り場を持つような老舗メーカーだし)。

...こんなことなら先週おとなしく買っておけばよかった、と悲しみながら売り場を去る。

あきらめが悪い私はその4日後にはオペラ地区の2つのデパートへ赴き、手袋売り場をチェックする。

2つのうちの西側のデパートにはそもそも好きな色の品物がなく、値引き率もお上品すぎた。ついでに手袋以外のものも、というか全館リサーチしたので、すっかり疲れてしまう。でも念のために東のデパートにも行っておこう、じゃないとあきらめきれない。

東のデパートに足を踏み入れるや否や人混みに流されて、気づいたら上階にいた。この際もう全館リサーチしちゃう。そんなこんなで歩数は10000超え(こんなことしてるから疲れるんだよ)。

エスカレーターで地上階に着いた頃には、あやうく目的を失念するところだった。手袋手袋。しばらく来ないうちにレイアウトがすっかり変わってしまって、なかなか手袋売り場が見つからない。もう疲れて歩けない。

...と思ったらいきなり現れた、小さな手袋売り場が。遠目にも品揃えが充実しているし、私の目を惹く色がある。あ!まったく同じ品物があるよ、スウェード革の朱赤のが!

しかも六割引き!すごい、メーカーに怒られたりしないんだろうか?

さっそくサイズをチェックしたら、サイズ7だけがない。5点もある在庫の中に、私の目当てのサイズだけがない。六割引きなのに。

職人が手で縫ってるもんだし個体差がどうしたって生じるよね、とダメもとで7,5をぜんぶ試着してみる... が、やっぱりそれぞれ微妙にちがうものの、大きい。指先の余る革手袋を嵌めるほどみっともないことはないので、これはダメ。

個体差があるなら、6,5が大きめに作られることもあり得るよね...と思い、最後にサイズ6,5を試着。なんと、ピッタリである。

そもそも私の手は体格の割には小さくて、しかも指の付け根が浅い(=水掻きが広い)から指の長さは6,5サイズ。且つ、手のひら(特に月丘あたり)が肉厚なためにフランスとかイタリアのメーカーの6,5だと嵌められないことが多くて、それで7を選ぶようになったのだった(じつは7だと指先は微妙に余っているので、バレないようにしょっちゅう付け根の方へ引っ張って寄せているんだが)。

最初にこの品を見つけた左岸のデパートには、サイズ7しかなかったんだよね。はるばるここまで来て、むしろ良かったことになる。

帰り道にはさっそく嵌めて、その日に身に着けていた紫色のベルトにもピッタリではないか、と得心した。

「ほしいと思っているもの」が「持っていてよかったもの」に素早く変わり身した、珍しい例。

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