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パレード用ミリタリーコート

大学卒業後に勤めたデザイン事務所の影響(正確には、その事務所のクライアント企業のコーポレートカラーだったので、職場で目にしない日はなかった)で好きになった、特別な色がある。

パントーン色見本ではWarm Gray(ところで、Grayはアメリカで一般的な綴りで、Greyはイギリスで一般的な綴りだというのを最近になって知ったよ)と呼ばれる、暖色系グレーである。今では絵を描く時もレイアウトデザインをする時も、がんばって意識して避けないかぎりはついつい使ってしまう色。

その暖色グレーのコートを1着、持っている。フランス人、特に女性たちがトープ(Taupe=モグラ)と呼んで愛するシックな色。

1990年代終盤ごろから2010年代初期までフランス陸軍で採用された、式典用コート(将校用だと思われる)である。中に軍服スーツを着ている前提の作りで、サイズ設定の数字に対してかなり肩幅が広く、袖も太め長めにできている。

素材が明らかに贅沢(たぶんちょびっとカシミヤ混)で、おそらくそのせいで現在では制服として採用されていないのだと思う。オランド大統領の時代に事業仕分けされたんじゃなかろうか、と思っている(1999年から2012年までの製造年が記されたタグを確認した。2013年以降のは見たことがない)。

私は中にスーツを着るつもりはないので、女性用のサイズ34でちょうどだった(普段はフランス軍の服なら女性用38を着ている)。

小さめの襟に比翼ボタンで、ベルト無し、袖口にストラップも無し(パレード用コートだから、そういう実務的な要素は要らない)。パッと見て軍服らしい要素というと、肩章くらいか。

女性用でもポケットがかなり大きいのは、さすが軍服。厚い手袋や帽子を入れても不恰好に膨らんだりしない。それから、肩パッドがめちゃくちゃカッコよく組み込まれている。着るだけで強靭で頼りがいのある、姿勢の良い人に見える。

本当に上品でスマートなコートだな、と惚れ惚れしつつ着て出かけたある週末。ヴィンテージのミリタリー衣類ディーラーGが、「あ、それはクレージュが作ったフランス軍のだね。Tのところで買ったの?」と言う。

なんと!?売ってくれたディーラーTからはそんな説明は一言もなかった、知らなかった!元々は軍人だったG、軍服に関する知識の豊富さはピカイチである。

航空会社や鉄道会社の制服を有名ブランドが手がける話は有名(HermèsとかChristian DiorとかCarvenのCA制服を既に持っている)だけれど、軍服もそうなのか。

たしかに、本気の軍服にしてはシルエットが洒脱で軽快な気もする。無骨さは微塵も感じられない(まあ元々フランス軍の制服はそんなに無骨じゃないのだが。イタリア軍の制服の官能的デザインのレベルには及ばないにしても)。

でも同時に、街着としては妙にストイックというか、明らかなユニフォーム感がある。たとえ着崩れても、適当に肩から引っ掛けても、どうやってもきちんと見えてしまうのだ。地味だけれどすごい優等生。買った直後よりも、時間が経つにつれて良さをじわじわと噛み締めている。今年の冬はこればかり着ている。

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