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天女の羽衣

出会いは2020年の最初のロックダウン明け、ヴァンヴの蚤の市でだった。

2ヶ月の外出禁止令は解けたものの、パリ市内でのブロカント復活の話はさっぱり聞こえず、悶々としていた。ある日ヴァンヴの蚤の市にだけ開催の許可が下りたと聞き、よろこび勇んで飛んでいったのだ。

3月までは毎週末に会っていた、友人のヴィンテージ服ディーラーと久しぶりの再会を祝う。未知の本物の生地とふれあう幸せといったら、もう!この日は合わせて3点ほど買ったのだが、もっとも気に入って頻繁に着ているのが、黄色い羽衣。

スケスケのごく薄いシルク地で仕立てられた丈の長い上着で、畳めばポケットティッシュくらいになる感じ。薄くて軽いのに不思議と保温力はあって、羽衣としか言いようがない。これぞ天女の羽衣。

少しでも風があると、アメコミのヒーローのマントのように派手にひるがえる。メトロ車内でドア近くに立てば、停車のたびに駅ホームからの風でぶわんと吹き上げられる。そばに座っていた人の頬を撫でそうになっていたのに気づき、あわてて裾を引き寄せて抑えた。

透ける黄色という色が最高。ちょっと色味が淋しい服装かなというときに、これを羽織ればとたんに華やいで万事解決。同じ素材でも白とか黒とかピンクとか水色とか紫色だと、またぜんぜんちがうものになる。光を纏うような錯覚を起こす黄色だからこその、天女の羽衣である。

唯一の欠点は、外出前のアイロンがけに時間がかかることかな。布面積が大きいから。

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