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人種差別と戦った企業の末路

1940年代末、アメリカのとある大手鉄鋼メーカーは悩んでいました。

当時のアメリカ南部は人種差別の激しい時代。この鉄鋼メーカーも例に漏れず、人種差別が横行していました。人種差別のせいで能力ある黒人が力を存分に発揮できず、昇進もできない状況であり、大きな損失です。

「このまま人種差別を容認していては大きな問題となる。」

鉄鋼メーカーはこの問題を解決するため、南部に新しい事業部長を任命しました。


▼新しい事業部長は北部のクエーカー教徒

「南部の事業部にはびこる人種差別問題を解決する」

新しい事業部長は北部の人間でした。彼はボランティアで公民権運動にも参加しているクエーカー教徒です。彼は慎重に行動します。赴任してまずは、積極的に従業員と会話をして、コネクションを築き上げます。やがて地域社会に知られるようになり、組合幹部とも良い人間関係を構築しました。


そうして1年が過ぎる頃、チャンスが訪れます。

工場を拡張し、新しい溶鉱炉に何人かを配置する案件が持ち上がったのです。この機を逃すまいと、熟練の黒人をいくつかの地位に任命します。彼は黒人に新しく地位を授けられるタイミングをじっくりと待っていたのです。仮に既存の地位に黒人を配置したら、それを取られた白人は憤慨するでしょう。でも新規の地位なら白人の先任権を脅かすことも、白人を黒人の下に置く必要もありません。

人脈を築き、白人のプライドを傷つけない、彼の戦略はこれ以上ないほど見事なものでした。


▼裏切り

しかし、この新しい人員配置を発表して後日、組合幹部がやってきました。

「何百もの苦情が溜まっています。これ以上はもう我慢できません。36時間のストライキに入らせていただきます。別に無理を言っているわけではありません。ただ、誠意を見せてください。そうすればストライキは延期します。例えば、提示いただいた人員配置を保留してください。新しい溶鉱炉の人員配置は、組合と監督さんとで作らせてください。これが協約に基づくストライキ通告書です。」

事業部長は急いで本社に連絡をとります。

「私の使命は南部の人種差別をなくすこと。その使命を与えた人なら今の状況をなんとかしてくれるかもしれない。」

しかし、本社のトップと組合顧問への連絡はつながりません。仕方なく秘書にも連絡してボスの居場所を聞き出そうとします。

「ボスはどこにいるのはわからない。いつ帰ってくるかもわからない」


▼それでもなんとか…

「ボスには頼れない…」事業部長は必死に考えます。この状況をなんとかできないのか。誰か協力してくれる人はいないのか。すると、ある人物が思い当たりました。それは、かつてのクエーカー教徒の賢人です。彼は人種差別、特に黒人の雇用機会について急進的な考えを持っていました。

「彼なら何か良いアイデアがあるかもしれない。」

事業部長はすぐに連絡を取り、事情を話します。

状況を聞いた彼はこう言いました。

「雇用における人種差別が非合法で、非道徳的あることには同意する。でもね、君がしていることは間違っている。君は地域社会に対して、大企業の経済力にものを言わせて特定の価値観を押し付けているだけじゃないかい。もちろん君の価値観や考えは正しい。でも、大企業の経済力、支配者の権力、職務上の権限によって、地域社会を支配しようとしていることも事実だろう。これは経済的な帝国主義だ。目的が正義であっても許されることではない。」

話を聞いた事業部長は会社を辞めました。そして、北部に帰りました。


▼その後

事業部長なき会社は問題となっていた人員配置表を破棄しました。その結果、南部のストライキは中止となりました。事業部長の努力も虚しく、黒人は相変わらず助手以上の役割をこなすことができません。

数年後、その鉄鋼メーカーは人種問題についてリーダーシップを取らなかったとして、痛烈に批判されました。


▼まとめます

人種差別はいけない。人種差別は企業の業績を下げることにつながる。そう考えたこの鉄鋼メーカーは状況を改革しようと行動しました。しかし、結果的にそれは失敗に終わります。時代の風潮が彼を認めなかったのです。

時代によって正解の定義は異なります。

社会的責任を果たすものは時代の潮流を読み取り、常に何が正しいのかを考えて行動する必要があります。

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